38 新学期
夏休みの疲れが取れない中、新学期が始まった。
2年生後期のメインイベントは、約2ヶ月の行程で行われる野外実習だ。自分たちで活動場所や内容を決め、計画を練り、実施するのだ。
学園側への提出書類を揃えたり、引率してくれる教官を見繕ったりと、そういう細々したところも実習の学ぶべき点なのだ。
一応モデルプランはあるので、大部分の学生はそのモデルプランの中から選ぶようになるし、引率してくれる教官も、それとなく学園側がヒントを出してくれている。
我がエスカトーレ派閥はというと、ケンドウェル伯爵領での開発支援で決定していた。多くの学生を連れて行けば、それだけでお金を落としてくれるし、気に入ってもらえれば家族旅行にも来てくれる。家族旅行と言っても馬鹿にしてはいけない。護衛や従者たちを含めると多くのお金を落としてくれるのだ。
ここでもそれぞれで根回しや勧誘を行った。
新しい物好きの学生には「これから絶対に流行る保養地」を謳い文句に、戦闘職希望の学生には狩りや熊人族と戦闘訓練ができることを前面に押し出して勧誘した。
まあ、一番効果があったのは、イカルス教官の女子学生への勧誘だった。多くの学生がイカルス教官の誘いに乗ってしまう。レニーナ様は少し複雑な表情をしていたけどね。
なので、私たちは夏休みが終わっても忙しいままだった。
派閥の者と派閥外の者、約30名が参加することになり、その計画づくりに奔走しているのだ。馬車の手配、護衛の手配、道中の夜警のシフトとやることは山のようにある。救いといえば、ダミアン王子がいないことだろうか。これで意味不明の細かいマニュアルを作らされたら、過労死決定だっただろう。
今日も、会議室を借り切って会議をしている。
ミリアが提案を始める。
「往路はギールス商会の隊商に同行を依頼しました。格安で同行してくれるようです。急遽の怪我人や病人が出た場合も安心です。復路は未定ですが、信頼する商会がいれば同行を依頼してもいいかもしれません」
「そうですね。その案で進めてください。次は道中の食料ですが・・・」
私たちも、地獄をくぐり抜けて大分手際が良くなったものだ。
★★★
1ヶ月後、私たちはケンドウェル伯爵領へ出発した。
この1ヶ月で派閥内の力関係が変化した。あれだけ田舎者とレニーナ様のことを馬鹿にしていた問題児の伯爵家三人娘だが、手の平を返すようにレニーナ様に胡麻をすりはじめた。まあ、この変わり身の早さはある意味、貴族として相応しい能力なのかもしれない。
他にもレニーナ様にすり寄ってくる者もいた。派閥外のメンバーで王都からケンドウェル伯爵領へ通じる街道沿いのドレド男爵令息、ミドナ男爵令嬢、クワド男爵令嬢だ。急速に発展する話題のケンドウェル伯爵領が儲かれば、行商などが行きかう彼らの領も棚ぼた式に儲かるからだ。それにケンドウェル伯爵令嬢のレニーナ様と懇意になれば、何かしらの恩恵が得られると思ってのことだろう。
日本のサラリーマン風に言えば、「社長、ここはひとつお願いしますよ」みたいな感じだろう。貴族も貴族で大変だと思う。
当のレニーナ様はというとお疲れのようだ。
「急にすり寄ってくる人に文句を言いたい気持ちもありますが、それでも今後のことを考えると、愛想笑いを浮かべてやり過ごすのが、正解なのでしょうね・・・」
でも悪いことばかりではない。伯爵家三人娘の親たちから差し入れが大量に届いたり、街道沿いの宿泊所では好待遇だったりと、まあ打算ではあるが、貰えるものは有難く受け取ることにしたのだった。
予定通り5日の行程で、私たちはケンドウェル伯爵領に到着した。領都では町を上げて歓迎してくれて、新設された宿泊施設に案内された。豪華ではなかったが、それでも十分快適な環境だったし、2段ベッドの4人部屋だったので、私、エスカトーレ様、レニーナ様、ミリアで女子会が開けると思ってみんな嬉しがっていた。
荷物を部屋において、私とミリアは早速、統合ギルドに顔を出した。統合ギルドではレベッカさんとニヤついた男性が出迎えてくれた。冒険者の監視で、来ているという。しばらくして、私のお目当ての人物がやって来た。
「クララお嬢様!!お久しぶりでございます」
「オジールも元気そうね!!」
久しぶりの再会を喜び合う。オジールはもう統合ギルドのギルマスだからね。
「いやあ・・・シャイロ様には騙されましたよ。『腰痛に効く温泉もあって、料理も美味しいからのんびりしろ』って、のんびりできるわけないじゃないですか!!もちろん温泉は素晴らしいし、料理も美味しいですが、この仕事量は何なのですか?全く・・・年寄りをこき使って・・・」
そういいながらも、オジールは嬉しそうだ。
「オジールも貴族よね?オジール閣下とお呼びしたほうがいいかしら?」
オジールは長年の功績とギルド支部のギルマスとして箔を付けるために騎士爵に任じられたのだ。
「御冗談を・・・でもこの年齢で貴族になるとは思いませんでした。妻も喜んでおります。今思えば、クララお嬢様のジョブ鑑定の日から、すべてが変わった気がします。神様に感謝ですね」
「オジールが元気そうでよかったわ。でも無理しないでね。どうしても無理な場合は、エナジーナッツとコーカナッツがあるからね」
「お嬢様もシャイロ様に似てきましたね。年寄りに厳しい・・・」
そんな冗談を言い合っていたところ、レベッカさんに声を掛けられた。
「クララ嬢、少しいいかな?ちょっと話したいことがあるのだ・・・」
心のアラートが鳴り響く。聞きたくない、聞いたらまた厄介事に巻き込まれる・・・・
でも、レベッカさんの真剣な表情に頷くしかなかった。
「もちろんです。私のできることであれば協力します」
私は厄介事の引き寄せ体質なのかもしれない。
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