35 ケンドウェル伯爵領 2
観光も兼ねて、私たち一行はケンドウェル伯爵領内を回ることにした。最初に訪れることになったのはエルフの里だ。案内は弓術教官のイカルス教官がしてくれることになった。族長の息子でもあるからね。まあ、レニーナ様は言うまでもなく、大興奮していたけど・・・
エルフの里は領都から徒歩で1日の距離で、森の奥深くに位置している。集落に入ると族長でイカルス教官の母親であるイーリス族長が笑顔で迎えてくれた。エルフなので、年齢不詳だ。見た目は20代なんだけどね。
「イカルスの教え子たちだな。まあ、難しい話は後にして、旅の垢でも落とされよ」
エルフの里にも温泉があるようで、私たちのために特製の薬草湯を用意してくれていた。このお風呂もなかなかのものだった。お風呂から上がると宴の準備をしてくれていた。イーリス族長が言う。
「まあ、難しい話は後だ。大したもてなしはできんが、ゆっくりして行ってくれ」
所狭しと並ぶ料理はどれも新鮮で、美味しかった。まず皆が絶賛したのは、煮込み料理だった。「料理人」のジョブ持ちのお母様も唸る。
「何だろうね?この肉は・・・こんな柔らかくてトロけるような肉は食べたことがないよ・・・」
「グレートベアの肉だが・・・そちらでは珍しいのか?」
「グレートベアの肉だって!?固くて、臭くて、不味い、の料理人泣かせの素材のか?」
「普通に料理をしたらそうだろうが、こちらのフルーツに付け込んで焼いたり、煮込んだりすれば、柔らかく、深みのある味になる。フルーツは取り放題だし、グレートベアは定期的に駆除をせんといかんから特別に用意したものではないのだがな」
この煮込み料理だけでもお金が取れるだろうに・・・
それにこのフルーツの盛り合わせもすごく美味しい。それが取り放題だなんて・・・・
大人たちは、果実酒で盛り上がっていた。
「この果実酒は凄い!!フルーティーでしかも、味が深い・・・」
「そんな物をありがたがるのか?そんな物は樽に詰めて、魔法で発酵させればすぐにできるぞ。どの家庭でも普通に作っているし、当家の酒が特別旨いわけではないのだが・・・」
私たちが大喜びしている中で、エルフたちは困惑しているようだった。
楽しい宴も少し落ち着いたころで、イカルス教官がここに来た目的やケンドウェル伯爵領の窮状について説明を始めた。
「なるほどな・・・そんな状態なのか・・・何とかしてやりたいがな。これでも我らエルフ族は代々のケンドウェル伯爵には感謝しているのだ。我らの自治を認め、伝統的な生活を送らせてもらっているからな。どうしてもというのなら、毎年納めているミスリルの量を増やしてもいいのだが、根本的な解決にならんだろうし、逆に火種になるようだしな・・・」
族長にミリアが質問する。
「ところで、ミスリルはどうやって採取しているのですか?」
「その辺に転がっている物を集めるのだ。掘ってまで採取はせん。この地は魔力が強い土地で、自然にミスリルやアダマンタイトが湧き出る。里の者にキノコ狩りのついでにしっかり探せと命じることにしよう」
ミスリルやアダマンタイトがそんな扱いなの?
質問したミリアも絶句している。
「まあ、気持ちとしては助けたい。だが、我らには差し出す物がない。領の為に戦ってくれと頼まれれば、この弓に懸けて、命の限り戦うのだが・・・」
いっぱいあるでしょ?なんで気付かないの?
お父様もミリアも呆れている。
お父様が代表して言う。
「今日見た限りでも、かなり高値で売れる物はミスリル以外にも多くあります。フルーツや果実酒など、取引させていただければと思いますが?」
「難しいことは分からん。基本的に物々交換だからな。獣人の里とも、それで上手くいっておる。取引をするのなら獣人の里の者にも了解を得てもらいたい」
★★★
次の日、獣人の里に向けて出発した。こちらも予定していた場所だ。獣人の里に着くと道中に護衛をしてもらった冒険者パーティーが出迎えてくれた。この獣人の里は、ほとんどが熊人族と栗鼠人族で占められている。護衛をしてくれた冒険者パーティーも熊人族のクマルさんとベアルさん兄弟、栗鼠人族のリタさんとルタさん姉妹の4人パーティーだ。
リーダーのクマルさんが里を案内してくれた。
「ここは熊人族の村で、栗鼠人族の者が多く移り住んできたんだ。盗賊が襲撃するのは決まって栗鼠人族の村だからな。栗鼠人族は素早くて器用なのだが、体が小さくて戦闘には向かないからな・・・」
イカルス教官が言う。
「なので、栗鼠人族用に新装備を持ってきましたよ。リタとルタにも使ってもらっているアレです。森の中で罠を張りながら戦えば、熊人族の助けを借りなくても盗賊ごとき撃退できるでしょう」
リタさんとルタさんも続く。
「アレはいいよ。私たちにピッタリだ」
「アレのお陰で私たちもBランクに昇格したしね」
アレというのは、今回納品したロキ特製のレーザーポインター付きのクロスボウだ。商品名は「スナイパーボウガン」としている。ズルして弓術の試験を突破しようとした結果、開発されたものだ。
「こちらのレニーナお嬢様のご厚意で、財政が厳しい中、30丁配備してくれました。そして、こちらのロキ殿が開発者で、良心的な価格で卸してくれました。お嬢様やロキ殿には感謝してもしきれません」
「そ、そんな大したことはしてないわ・・・お礼なんかいらないわ・・・」
レニーナ様はかなり嬉しそうだ。「スナイパーボウガン」は安くはない。相当無理をしたのだろう。
「スナイパーボウガン」を栗鼠人族の代表に引き渡したところで、クマルさんに集会所に案内された。
「特に何もない村だが、無いなりに今日はご馳走を用意したぞ。まあ、田舎料理には違いないが、ゆっくりしていってくれ」
この料理も驚愕だった。
お酒はエルフの里から物々交換で仕入れたものだったが、前菜のナッツから驚きだった。
ミリアが叫ぶ。
「これってエナジーナッツ!?こっちはマジカルナッツ!?それにドクターナッツもある・・・・」
どれも前世で言うマカダミアナッツみたいなナッツだが、効能が凄い。エナジーナッツは栄養価が高く、マジカルナッツは魔力回復効果があり、ドクターナッツはちょっとした体調不良が立ちどころに治る代物だ。それをおやつ感覚で出してくるなんて・・・
リタさんが解説してくれる。
「普通に生ってますよ。栗鼠人族はナッツに目がないですからね。珍しい物でもないし、貴族様にお出しするのは気が引けたんですが・・・他にお出しするものもないので、仕方なく・・・」
いや、何を恐縮してるんだよ!!
「サマスが焼けたぞ!!いっぱいあるからどんどん食べてくれ」
クマルさんが持ってきたのは、日本で言う巨大な鮭のような魚だった。味も鮭に似て美味しい。サマス料理がどんどん並んでいく。
「これも産卵期にはいっぱい獲れるんだ。ただ、産卵期はこればっかり食べるようになるから、仕舞には飽きてくるんだ。保存食として燻製にもしているんだ」
これもなかなかのものだった。
お父様が代表して、取引可能かを聞いたがエルフ族と同じで、「エルフがいいならいいぞ」と言ってくれた。更に「余ってる燻製やナッツは適当に持って行ってくれ」とも言ってきた。流石に悪いので、ロキが罠セットを急遽作成し、物々交換の対価として渡すことになった。
これもかなり喜んでくれた。
獣人の里を出発した私たちは、領都に戻り、ケンドウェル伯爵と再度面会した。
「大して珍しいものもなかっただろう?この領はもう終わりかもしれん・・・」
お父様が言う。
「逆です!!特産品の宝庫ですよ、この領は!!今まで、このような商品が世に出なかったことは、商人として腹立たしいと思っています。すぐにベル商会として資金援助しますよ」
「そ、それは本当か!!感謝する!!」
話はとんとん拍子に進む。
私はロキに小声で言った。
「領全体が、どっかの大倉庫みたいな宝の山ね。宝の持ち腐れって、こういうことだと思うのよ。どっかの大倉庫も酷かったけどね・・・」
「クララ嬢、聞こえているぞ!!どっかの大倉庫とはどこの大倉庫のことかな?」
レベッカさんに聞かれていた。
「罰として、ケンドウェル伯爵領にも冒険者ギルドの支部を立ち上げるから、その仕事もしてもらうぞ。拒否権はない」
口は災いの元だ・・・・
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