33 進級
早いもので、もうすぐあの地獄の夏休みから1年が経つ。
私たちは2年生の夏休みを迎えようとしていた。地獄の夏休みに比べれば、2年生になってからは楽勝だった。それにはいくつか要因がある。
まず、ボランティア活動だが、学園側が主体になって活動を取り仕切ることになった。国王陛下が絶賛したことで学園側が食いつき、上手くいったプロジェクトを横取りされるような形だが、私たちは安堵した。レニーナ様は「上手くいきだしてから横取りするなんて・・・でも仕方ないですわね。我慢しましょう」と言っていたが、地獄から解放されて、言葉とは裏腹に晴れやかな表情をしていた。
急に引き継いだ学園側は大変そうだったけど・・・・
続いて冒険者活動だが、戦闘職希望者の多くは目標であったDランク冒険者に昇格した。昇格者のほとんどは派閥の冒険者活動に参加しなくなった。というのも、実力がつかないと悟ったようだ。それはそうだろう。お手軽な魔物を決まった手順で討伐するだけの作業なのだから。
だから、多くの戦闘職希望者は冒険者パーティーに臨時加入して腕を磨いたり、騎士団のオープン参加の合同訓練に参加したりしてアピールしていた。皆、勝手が違って苦労していたけど、レベッカさん曰く、「こういった苦労が将来役に立つ」そうだ。
なので、私たちの初期のメンバーは、独自の活動を始めた。初心者向けのダンジョンに潜ったり、個別で依頼を受けた。これぞ冒険者という活動ができて、かなり楽しかった。
そして一番の要因は・・・・
★★★
その日、私は冒険者ギルドのアルバイト中にレベッカさんから呼び出しを受けた。ギルマスの部屋でお茶とお菓子を食べながら談笑をする。そして衝撃の事実を知らされることになる。びっくりしてお茶を吹き出しそうになったくらいだ。
「ダミアン王子が留学!?それも3年生まで帰ってこられない!?」
なんとダミアン王子が神聖ラドリア帝国に留学することになったことを告げられた。
「他ならぬクララ嬢にだけ言うが、口外しないでほしい。ダミアン王子が留学することになった経緯だが、まずは殿下の生い立ちについて話をするとしよう。殿下に同情すべき点もある。ただのダメダメ王子ではないのだ」
ダメダメ王子って・・・
レベッカさんの話を聞いたところ、私も少し殿下に同情した。
殿下も私と同じ8歳のジョブ鑑定で、「勇者」のジョブと判明した。そのとき既に殿下の母親は不治の病に侵されていたそうだ。母親は常々、ダミアン王子に「ダミアンが勇者に相応しい振る舞いをすれば、ママはどんどん元気になるわよ。だから、勉強も訓練もしっかり頑張るのよ」と言って励ましていたそうだ。しかし、母親は他界した。そこでダミアン王子は「自分が勇者に相応しい態度を取らなかったから、母親が死んだ」と思い込んだそうだ。今はもうそんなことは思っていないだろうが、それでも「勇者」として相応しい行動が取れているかと、いつも不安でいっぱいだそうだ。
それで、あんなに細かいマニュアルを作らされたのか・・・
「情報部隊が殿下の実情を把握し、国王陛下も知るところとなった。それで、エスカトーレ嬢のサポートやクララ嬢たちのマニュアルがなくてもやっていけるように荒療治ではあるが、急遽留学をすることになったのだ」
「そうなんですね。少し複雑な気分ですが・・・」
「それはそうと、あのマニュアルは評判がいいぞ。騎士団の参謀本部は絶賛していたし、儀礼大臣も半年後の国際会議に応用できると嬉しがっていたぞ」
「戦闘関係はネスカが、イベント関係はエスカトーレ様とレニーナ様が中心になって、まとめてくれましたからね。私は特に何も・・・」
「そんなことはないぞ。クララ嬢のスキルと能力のお陰だと思っている」
雑談は続く。
レベッカさんの見解では、留学自体は反対ではないが、留学先は問題だという。
「変なことを吹き込まれなければいいがな・・・」
ダミアン王子は年末から登校しなくなった。実際に通うのは4月からだが、準備があるということだった。これを機に私たちは平和になった。
エスカトーレ様は、しばらく寂しそうにしていたけどね。
★★★
そんなこんなで、私たちは2年生の夏休みを間近に控えていた。試験も問題なく終わり、心配だったゴンザレスもギリギリで単位を取得できた。今日は夏休みの計画を立てるためにいつものメンバーで集まることになっていた。余談だが、ケーブ学園では2年生の夏休みに皆で旅行に出掛けることが多い。というのも3年生になると、就職関係で時間が取られるので、自由になる2年生の夏休みにバカンスを取るようになったみたいだった。
先に会場に来て、ミリア、ネスカと三人でお茶やお菓子の準備をし、粗方準備が終わったところで、ミリアが冗談を言ってくる。
「それにしてもダミアン王子が留学されてよかったわ。エスカトーレ様には悪いけど、ダミアン王子が居たら、きっと旅行中のマニュアルも作らされるわよ。2年連続、地獄の夏休みは勘弁してほしいわ・・・」
「そうは言うけど、レベッカさんの話では、私たちが作ったマニュアルの評価は高いみたいよ。冗談みたいな話だけど、移動中の馬車の車輪が壊れたときの対応は、近衛騎士団も参考にするほどだってさ」
「ああ、あれね・・・車輪が壊れたときは、工作活動の可能性もあるから、安易な対応は控え、不意の襲撃に備えるとかいうやつよね・・・作った本人がいうのもアレだけど、あまり内容は覚えてないのよね」
そんな話をしているうちに、いつものメンバーが集まって来た。
話し合いが始まる前にレニーナ様が浮かない顔で話始めた。
「大変心苦しいのですが、実家のほうで問題が起こってしまいまして、この夏、みなさんとは旅行に行けないと思います。申し訳ありません」
「謝らないでください。とりあえず事情を聞かせてもらえますか?」
レニーナ様が話始める。
実家のケンドウェル伯爵領は財政が火の車らしい。そのため、弓術教官のイカルス教官や活動視察でお世話になった獣人の冒険者パーティーのように出稼ぎに出る者も多くいる状態で、レニーナ様が派閥活動を頑張っていたのも、資金援助のためだという。
「そのような状態ですので、私だけが旅行に行って楽しむのもどうかと思います。なので、自領に戻って、少しでも領の為に働こうと思っていまして・・・」
ここでエスカトーレ様が提案する。
「だったら、私たちの旅行先をケンドウェル伯爵領にしましょう。そうすれば、一緒に活動できますし、多少なりともお金が落ちますしね。他に意見がある方はいらっしゃいますか?」
これにはみんなが賛成した。
ちょっとした人助けのつもりだったが、また私たちは厄介ごとに巻き込まれることになってしまうのだった。
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