32 幕間 残された者たち
その日、私は不思議な夢を見た。
ふわふわと空中を浮かんでいる。まるで幽霊のようだ。飛んでいる場所も懐かしく、見覚えがある。そこは前世で暮らした日本だった。それに・・・これは・・・・
そこは私、佐藤直子のお葬式の会場だった。
かなりの参列者がいる。
あの集団は・・・高校のときのバスケ部のメンバーが勢ぞろいしている。同級生だけでなく、先輩、後輩、顧問の先生までいる。
そして、OL時代の同期も勢ぞろいしていた。
意外に私って慕われてたのかな?学生時代の友人は分かるけど、OL時代に慕われていた記憶はない。まあ、現役の社員が事故で死んだのだから、出席しない訳にはいかないしね・・・
そんなことを思っていると、憔悴しきって泣き崩れている女性を見付けた。
あれは同期の出世頭の姫野光子、私の直属の上司で、係長だ。かなりの量の雑用を押し付けられた記憶がある。今、私は幽霊なのだから、ちょっといたずらして、脅かしてやってもいいかもしれない。
そう思って、姫野さんの後をつける。当然、私は幽霊だから姫野さんには気付かれていない。姫野さんは一人で歩けないくらい憔悴しきっていて、同期に付き添われてロビーに連れ出されていた。姫野さんと仲の良かった鈴木君、高橋さん、小泉君、武田さんが励ましている。
そこで、姫野さんから衝撃の言葉を聞く。
「直子を殺したのは私なの・・・私の所為で・・・」
あれ?殺人だったの?
急いで終電に乗ろうとして、無理に道路を横断してトラックに撥ねられた記憶はあるんだけど・・・
鈴木君が慰める。
「そんなことはないよ。それを言うなら、会社全体が佐藤を殺したんだ」
会社ぐるみの犯行?どういうことだろうか?
よく会話を聞くとそうではなかったみたいだ。
「私は直子の才能が怖かった。あんなに完璧に資料作成したり、雑用をこなしたり・・・嫉妬していたのかもしれない。だから直子が不得意なプレゼンや地道な営業活動を頑張って、同期で一番早く係長になれたのよ」
「それは俺も同じだな。普通にやったら佐藤に敵わないから、飲み会で盛り上げたりしてさ・・・」
「係長になってからは、直子が他の仕事ができないようにわざと雑用を押し付けたの・・・そうすると雑用ができる人が直子しかいなくなって、新人が育たなくなるし・・・新人が直子を馬鹿にするようになるし・・・さらに直子の仕事が増えて・・・毎日終電近くまで仕事をしなくちゃいけなかったのは、間違いなく私の責任よ」
これに小泉君が反応をする。
「それは都市伝説の佐藤の呪いだな・・・・佐藤がその部署を異動するとその部署の業績がガタ落ちするんだ。多分、佐藤が雑用を一手に引き受けていたからだろうって言われているよ。これから姫野の部署の業績が下がることは覚悟したほうがいいぞ」
「おい、何を追い打ちをかけるようなことを今言うんだよ!!」
「ごめん、ごめん。でも俺も反省しているんだ。佐藤のことをもう少し手伝えばよかったってな」
武田さんも会話に加わる。
「そうだよね・・・直子を嫌いな先輩は多かったな。サボり癖のある先輩が、チンタラ1ヶ月時間をかけてダラダラ仕事していたのに、直子が1日でやり終えたときは、その先輩が激怒していたわね。自業自得なんだけどね。先輩が直子に嫌がらせしていたのに、私は何もしなかったな・・・」
そんな会話をしているところにナイスミドルの男性が現れた。あれは徳野課長・・・昇進されて今は徳野部長だっけ?
「お疲れ様です、部長」
「久しぶりだね。新入社員で君たちが入って来たときのことを懐かしく思うよ。私も佐藤君には思い出があってね・・・・」
部長は昨日のことのように私や同期たちの思い出を話し始めた。
「あれは腰が抜けたよ。いきなり物凄いプレゼンを始めたんだから。提案自体は完璧だった。けど、上層部を批判する内容がかなり含まれていたり、元々が専務の息子の企画を通すための出来レースの企画会議だったのに、あんな発表をするなんてね・・・・事前に根回しをしてくれたら、3ヶ月後の会議で承認を得られただろうに・・・」
「そうなんですよ。佐藤はいつもそんな感じですよ。一人でも佐藤をサポートしてあげる奴がいれば、ぜんぜん違ったのかなと思いますよ」
OL時代の私は至らない点が多くあったのだ。こちらの世界に来てから、そのことを思い知らされた。
「私も悩んでいたんだ。佐藤君には我が社が合ってないんじゃないかってね。もし、アットホームな中小企業や新進気鋭のベンチャー企業に勤めていたら、もっと彼女の能力を生かせたかもしれないと思っていてね。それで今度、常務の甥っ子さんが市長選挙に出馬予定だろ?その秘書に推薦をしていたんだ。それがこんなことになってしまって・・・」
私は意外に評価されていたようだ。
「もし生まれ変わりがあるなら、佐藤君が幸せに、そして能力を正当に評価してもらえる人生であることを祈るよ」
「それは私たちも、同じ気持ちです」
「でも、また佐藤は雑用を押し付けられて、大変な思いをしてるかもしれないよ」
「小泉は本当に空気が読めないんだから!!でも直子みたいな人がいたら、私も頼っちゃうかな・・・」
話は尽きないようだった。
そこで私は目が覚めた。
本当に私のお葬式に行ったのか、ただの夢だったのかは分からない。
ただ、これだけは胸を張って言える。
私は今、幸せだ。雑用を押し付けられることもあるけど、素晴らしい家族と仲間たちに支えられている。そして、新たな人生を歩ませてくれたことに深く感謝している。
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