31 活動視察 2
グレートボア討伐のため、私たちは王都ケーブを出発した。現地までは2日の行程だった。救いは、夜はぐっすりと眠れたことだろう。騎士団と近衛騎士団が夜警をしてくれたからね。それにベル商会を代表してお母様とロキが食事担当として参加している。建前は、新規の携帯食の売込みと武器や防具のメンテナナンス業務のためということだが、実際は心配で付いてきてくれた。
お母様の腕によりをかけた料理で、士気も上がった。それにロキが開発した新型の罠もどうにか間に合った。この罠があれば今回の作戦がやり易くなるからね。ネスカも実験に立ち会ったけど、満足のいくできだったようだ。
そしていよいよ、グレートボアの討伐作戦が始まった。
騎士団から借り受けた通信の魔道具に早速報告が入る。
「こちらネスカ。これより作戦を開始する。総数約30、体長約10メートルの変異種も確認」
「クララ了解!!安全最優先で実施せよ!!」
因みに戦闘力ゼロの私は、前の世界でいう通信兵の役割をしている。すぐにダミアン王子に報告する。実際は隣にいるエスカトーレ様が判断するのだけどね。
エスカトーレ様はダミアン王子に耳打ちをする。そして、ダミアン王子が部隊員に対して声を張り上げた。
「みんな、いよいよだ!!僕を!!そして自分自身を信じてくれ!!作戦通りにやれば大丈夫だ!!戦闘準備!!」
「「「オオオー!!」」」
部隊員も気合いの入った声で答える。
かなり練習してきたであろうダミアン王子のセリフは、真実を知っている私にも頼もしく思えた。これがエスカトーレ様なしでできたのなら、本当の「勇者」なのに・・・・と思わないでもない。
しばらくして、ネスカ、ミリアと獣人の冒険者パーティーで構成された斥候部隊がグレートボアの群れを引き連れてやって来た。すぐに罠を設置してある場所に誘導した。ここまでは順調だ。すぐに斥候部隊は退避し、グレートボアの先頭集団が罠に嵌る。すかさず、ゴンザレス率いる前衛部隊がグレートボアの動きを止め、魔法部隊が一斉に魔法攻撃を開始する。
変異種がいなければ、何の問題もないのだけど・・・
しかし、集団の中央から変異種が猛然と向かってくる。罠地帯を抜けて来た。ゴンザレスが指示を出す。
「前衛部隊開け!!変異種を通過させろ!!」
これも作戦だ。変異種の突進を止められないと判断したので、変異種のみを通過させるのだ。
「変異種及び追従した5匹が突破!!」
前衛の通信担当から報告を受ける。
「ネスカ了解!!これより罠地帯への誘導を開始する」
「前衛部隊!!封鎖しろ!!これ以上突破させるな!!」
前衛部隊は再び、グレートボアの侵入を阻止し、突破した変異種を孤立させる。そして、斥候部隊がロキが開発した新型の罠の場所まで誘導した。
「クララ、罠を起動します!!」
私は罠を発動させるスイッチを押した。すると地面が泥状になる。グレートボアにしてみれば、普通の地面を走っていたら、急に田んぼに突っ込んでしまった感覚だろう。変異種以外のグレートボアは、泥に嵌って動けなくなっている。そこをすかさず斥候部隊が攻撃を加える。
ロキの新型の罠というのは、魔石を大量に使って土を柔らかくするものだ。農業用に開発したのだが、コスパが悪いので商品化を見送った。ただ、グレートボアやブラックシープといった突進してくる魔物には効果があるとネスカが言い出したので採用されることになった。罠の費用も経費で落ちるようなので、反対はしなかった経緯があるのだ。
残るは変異種だけだった。
変異種の先にはゴンザレスが待機している。正面から受け止める予定だ。当然、援護も入る。エスカトーレ様が魔法で突風を起こし、その突風を利用して、レニーナ様が率いる弓兵隊が大量の矢を放つ。そのお陰でかなりスピードが落ちた。
「ここは死んでも通さんぞ!!」
ガチャーンと物凄い音がしたが、ゴンザレスがしっかりと受け止めた。更に電撃魔法で攻撃を加えていた。エスカトーレ様が叫ぶ。
「今です!!殿下!!」
「任せろ!!」
ダミアン王子は全力で走りだすと、変異種の腹に潜り込み、腹に剣を突き立てる。
「火炎突き!!」
炎を纏った剣がグレートボアに突き刺さる。グレートボアはかなり外皮が固い。しかし、腹の部分はかなり柔らかい。なのでそこを狙った。更にダミアン王子は魔法剣を使えるので、剣を腹に突き刺して、内側から焼き尽くすのだ。
計画通り、変異種は内側から燃え尽きた。残されたのは通常の倍以上ある魔石のみだった。前衛部隊に目をやると怪我人は多くいたものの、何とか戦線を維持している。普通のグレートボアならいつも通りに対応するれば問題ないからね。
手が空いたエスカトーレ様とレニーナ様が援護に回る。どんどんとグレートボアを討伐していく。残りが10匹を切ったところで、グレートボアたちは逃走を始めた。ダミアン王子が叫ぶ。
「追わなくていい!!そのまま戦線を維持しろ!!
父上!!騎士団の応援を要請します!!現状では追撃部隊は出せません!!」
「よし、騎士団長、追撃部隊を出してやってくれ」
「御意!!第4隊で追撃を!!」
騎士団が逃走したグレートボアの追跡に当たった。
★★★
戦闘が終わり、素材採取や怪我人の治療などをしているところに国王陛下がやって来た。激励と講評のためだ。
「ダミアン、そして皆の者、素晴らしい戦いだったぞ。この国の未来は明るいとそう思えた。それにダミアン、最後に追撃を指示せず、騎士団に応援を求めたことは指揮官として、良い判断だった。無理をせず最善の手を打つか・・・・成長を嬉しく思うぞ」
最大限の賛辞であった。
因みにこの最後の指示もマニュアル通りだ。考えたのはネスカだったけどね。もちろん騎士団に事前に根回しは済んでいた。
「気分がいい!!予定を変更して、ここで討伐したグレートボアを肴に宴会を開こう。若い者と酒を酌み交わすのもいいものだからな。早速準備させろ」
国王陛下が予定外のことを言い出した。
まあ、偉い人が思いつきで予定外のことを指示するのは、よくあることだ。OL時代には何度泣かされたか分からない。
当然、ダミアン王子は青ざめている。
私はエスカトーレ様に耳打ちをした。
「以前お作りした新メンバーの懇親会のマニュアルを応用してください。国王陛下への対応はこれから作ります・・・・」
「ありがとう・・・」
私は怪我人の治療をしていたネスカを呼び出す。
「ネスカ!!急遽宴会のマニュアルを作ることになったから、手伝って!!」
「またかよ・・・まあ仕方ない。戦術計画の問答集を応用して・・・・」
「政治関係の問答集も用意するしかないわね・・・」
マニュアルはすぐに作成できたが、これを暗記しなければならないエスカトーレ様やレニーナ様を思うと可哀そうになる。
ダミアン王子には、早く成長して自分で判断できるようになってほしいと心から思う。
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