30　活動視察

　ボランティア活動の視察については、何とかなった。

　というのも、国王陛下が視察に来られるので、警備は近衛騎士団が、全体的な進行は儀礼大臣が取り仕切ってくれたので、私たちは特にすることはなかった。子供たちに国王陛下に失礼のないように注意したり、問題点や警備上不安な箇所をまとめて報告するくらいだった。

　この資料は評判がよく、エスカトーレ様の株は上がったようだ。

　本番は黒子に徹して、問題なくやり遂げた。ダミアン王子の側で支え続けたエスカトーレ様は疲労困憊のようだったけどね。

　一方、冒険者活動については問題だらけだった。

　まず大人の事情で、参加者が増えた。一応名門貴族の子弟であるので、断ることはできなかった。中には態度が悪い者もいて、表立ってダミアン王子の指揮に文句を付けないが、戦術担当のネスカや取りまとめ役のレニーナ様に「もっと活躍できる場所に配置しろ！！」など文句を付ける者もいた。この者たちについては、ゴンザレスが殴り付けて、鎮圧した。ゴンザレスの実家が武闘派貴族の筆頭であるドナルド侯爵家でなければ、大問題になっていただろう。実際、ドナルド侯爵家に文句を付けに行った貴族もいたようだが、フレッド様が一言「決闘を申し込みに来たということでよいな？」と言ったところ、「滅相もありません」と言って逃げ帰ったという話を漏れ聞いた。

　そして魔物の選定にも気を遣った。

　弱すぎてもいけないし、強すぎてもいけない。ダミアン王子がしっかりと指揮をして、魔物を討伐する様子を国王陛下に見せなければいけないからだ。この魔物の選定は私がやることになった。まあ、そうなるだろう。私は冒険者ギルドでも、魔物の出現予想のスペシャリストとして通っている。何年もやっているからね。

　検討を重ねた結果、グレートボアの群れを討伐することになった。

　レベッカさんに相談をする。

「単体ならCランク、群れならBランクだが・・・・」

　ネスカが意見をする。

「いつものパターンで、罠にさえ嵌めてしまえば、何とかなるでしょう。問題は罠に嵌める役割ですよね。それについてはレニーナ様が、応援員を用意してくれています」

　レニーナ様の実家であるケンドウェル伯爵領出身の獣人冒険者パーティーが協力してくれることになっている。獣人特有の身体能力と嗅覚が必要な斥候任務には定評があり、視察当日まで監視活動もしてくれることにもなっている。

「獣人か・・・」

「獣人がダメということですか？」

「いや、逆だ。今回は貴族の子弟だけでなく、スラムの出身者も参加する。それに加えて獣人も参加するとなれば、多くの者から慕われている王子ということが演出できる。冒険者ギルドとしては、スラム出身者や獣人が多く冒険者になっているから喜ばしいことだ。もちろん反対派もいるが、多種族共存派の支持は得られる」

　こちらも色々と大人の事情があるようだった。

　少し考えた後、レベッカさんは結論を出した。

「一度、Cランクのブラックシープの群れで訓練をしてみよう。その出来で判断する」

　3日後、ブラックシープの群れの討伐に向かった。討伐するだけなら問題はない。問題なのは、新規に加入したメンバーとの連携とダミアン王子の指揮だった。部隊を統率し、格下の相手に危なげなく勝つことが求められる。

　結果はというと、全く危なげなく討伐することができた。特にレニーナ様が勧誘してきた斥候部隊がネスカの指揮を受けて大活躍し、新規に加入したメンバーも元々個人能力には優れていたので、ダミアン王子の指揮（実際はエスカトーレ様の口パク）と相まって、完璧に機能していた。

　レベッカさんも太鼓判を押す。

「これなら自信を持って、進言できるな。本番はブラックシープよりも強いが、この調子でいけば、何とかなるだろう。最悪、冒険者と騎士団も控えているから思い切ってやるように」

　これを受けて、私たちはグレートボアの群れの討伐作戦を決行することになった。やることも、いつもとほぼ同じなので、マニュアルを作成する私にも余裕があった。なので、別の仕事も引き受ける羽目になってしまった。

「えっ！！新規メンバーとの懇親会のマニュアルを作れということですか？それも分単位で？」

　エスカトーレ様が申し訳なさそうに言う。

「ごめんなさいね。貴方の作るマニュアルが優秀だから、マニュアルがないと不安になるそうなのよ・・・自分で考えることも必要だと注意はしているんだけど・・・これが最後って言うし・・・」

　エスカトーレ様！！ダメですよ。駄メンズを甘やかしちゃ！！

　そうは言っても、断れないので作成することになってしまった。

　まあ、一度作っておけば、他のマニュアルにも応用できるからね・・・・

　でもこれが最後ってことはあり得ないだろう。また、絶対に頼んでくる・・・

　この予想は当たってしまい、ことあるごとにマニュアル作成を依頼されるのであった。

　★★★

　視察の日が間近に迫ったある日、私たち派閥の主要メンバーは、冒険者ギルドに集められた。レベッカさんが神妙な面持ちで言う。

「討伐予定のグレートボアの群れだが、変異種が確認された。変異種というのは突然変異で生まれた強力個体のことだ。体長は普通のグレートボアが３～５メートルに対して、変異種は10メートルもある。パワーも桁外れだ。コイツは単体でもAランクの魔物になる。危険性を報告し、視察を中止するように進言したのだが、聞き入れてもらえなかった。この国の悪癖で、一度決まったことは変えたくないらしい・・・」

　そんな危険魔物がいるのなら、止めたほうがいいのでは？と思う。私たちがここまで活動が順調だったのも、お手頃の魔物を選定して討伐していたからだ。今回のような場合は見送るのが基本戦術なのに・・・

　レベッカさんでも無理なら、受けるしかないのだろう。

　ここでネスカが質問をする。

「ルータス王国では、このような場合、どのような戦術で臨むのでしょうか？」

「変異種が確認された場合は、基本的に騎士団の扱いになるな。騎士団の一般団員で群れの対処に当たり、スペシャルユニットを組んで、変異種討伐に専念させる。グレートボアなら隊長クラスが相手取るだろうな。ただ、学生が戦う相手ではないがな」

「なるほど・・・だったらこちらもスペシャルユニットを作るしかないですね。メンバーはダミアン王子、エスカトーレ様、レニーナ様、ゴンザレス様でしょうか？」

「それがいいだろうが・・・ダミアン王子が前線に張り付くのはよくないだろう？」

「それなら解決策がありますよ。こういうのはどうでしょうか？」

　ネスカの説明にはレベッカさんも納得したようで、ゴーサインが出た。

　ミリアが呟く。

「いい作戦だと思うわ。でもこれをダミアン王子に覚え込ませて、細かいマニュアルを作らされると思うと・・・倒れそうになるわ・・・」

　完全に同意する。