3 クララ、無双する
その日の夜、普段喧嘩をしないお父様とお母様が喧嘩を始めてしまった。
「クララは僕が責任をもって育てるから、僕の側で仕事させる。一日中、僕と一緒だ」
「何を言ってるんだい!!クララは料理人としての才能があるから、私が一日面倒を見るよ。明日はグレートボアの塊肉が大量に届くから、その処理をさせるんだ!!」
「それはそうだけど・・・クララには・・・才能が・・・絶対僕が面倒を見る」
「だ・か・ら!!私が面倒を見るって言ってんだろうが!!」
私を評価してくれて嬉しいけど、喧嘩は止めて欲しい。
そんなとき、またよく分かっていないロキが喧嘩に入って行く。
「僕もお姉様と過ごしたい!!だったらみんなで仲良くお姉様を分けよう。朝はお母様、昼はお父様、夜は僕だね」
ロキのお陰で、毒気を抜かれたお父様とお母様は喧嘩を止めた。
「そ、そうだな・・・最初の取り決めのとおりにしよう」
「そうだね。ロキが一番まともなことを言っているね。ロキ、ありがとう」
「仲良くしようね。僕が一日中、お姉様を独り占めしたら、みんな困るからね」
そんなこんながあり、私はどんどんとスキルを習得していく。お母様の指導でどんどんと「料理人」のスキルが身に付いた。1ヶ月で簡単な料理や魔物の解体までできるようになっていた。
そして、お父様の仕事を手伝っているうちに「表計算」「チェック」のスキルが身に付いた。これは、帳簿の整理をしていたところ、「表計算ソフトがあれば、簡単なのに・・・グラフとかもすぐだし・・・」と思ったことがきっかけだった。それに書類の不備を見付けるスキルがあればと思ったところ、「チェック」という簡単な誤字脱字や帳簿のおかしな点を見付けるスキルも身に付けてしまった。
コピー機もパソコンもない世界で、私のスキルがどれだけ凄い事か分かるだろうか?
ジョブ鑑定から1ヶ月後には、お母様の仕事を手伝うことは無くなってしまった。
「シャイロの仕事を手伝ったほうが商会のためだと思うよ。一緒に料理するのは、朝食と夕食だけにするよ」
少し寂しそうにお母様は言った。
★★★
半年経ったころには、私は商会の戦略会議にも出るようになった。10年近くOLをしたけど、お茶汲みや資料作成以外で参加したことが無かったのにである。戦略会議に参加するようになって、我がベル商会は飛躍的に業績を伸ばすことになった。
私が前世の知識を使って新商品を開発したりしたと思うかもしれないが、そんなことはない。だって、石鹸も化粧品も作り方なんか知らないしね。
でもカレーは作った。ただ、賄いで作ったカレーを「料理人」のジョブ持ちのお母様が改良を重ねて、大ヒット商品にはなったが、私の手柄というかお母様の実力だ。
私がやったことと言えば、スキルをフル活用することくらいだ。
例を挙げると、まず公営取引所や卸問屋を回り、商品の値段をチェックして資料にまとめる。それをお父様が「商人」のスキルと長年の経験を生かして、有利な取引を行う。どの商会もやっていることだが、スピードが違うのだ。
大手の商会でも、相場情報を書き写すのに1日、資料にまとめるのに2日、対策を練るのに1日は掛かる。それも品数を絞ってのことだ。しかし、ベル商会は違う。私のスキルで一瞬でコピーし、価格の変動をグラフにすれば、すべて1日でできてしまうし、ほぼすべての商品のデータがある。
そのお陰で過去最大の利益を出すことになる。
地道な相場情報の分析から隣国での小麦の値段が徐々に値上がりしていることを掴んだ。更にルータス王国でも徐々に小麦や穀物の値段が上昇していた。そして、鉄製品や武具の値段も上昇している。
戦略会議でお父様が言う。
「こりゃそろそろ、あるな・・・5年ほど何もなかったがな・・・」
私は質問をする。
「小麦の値上がり、鉄製品の値上がり・・・戦争ってこと?どこと?この商会は大丈夫?」
オジールが説明してくれる。
「お嬢様、安心してください。隣国のロイター王国は、魔族の国である魔王国ブライトンと小競り合いを繰り返しているのです。ここ数年は何もなかったのですがね。ルータス王国からも援軍を出しますし、いくら強力な魔族といえど、ここまでは攻めてこれないでしょうね」
私は安心した。
「クララが地道に頑張ってくれた結果、どの商会よりも早く情報を掴むことができた。だから、勝負に出ようと思う。買える物は、買えるだけ買おうと思うけど・・・」
「クララを信じるって言うんだろ?私も賛成だよ。冒険者や傭兵も駆り出されるだろうから、携帯食作りもしないとね。こっちは早めに人材を確保するようにするよ」
オジールも続く。
「私も同意見です」
ベル商会は、お母様のスキルを生かした食料部門を中心に幅広く雑貨を扱っている。それこそ、剣からポーションまでだ。
ここでお父様から指示が出る。
「クララ、5年前の資料を分析して、どの商品に力を入れるかを提案してくれ。責任は私が持つから、自由に提案してくれて構わないからね」
「期待してくれてありがとうございます。しっかり頑張ります」
それから私は5年前の資料を分析して資料にまとめる。この時に「資料作成」というスキルが身に付いたのは運が良かった。速記と必要な箇所だけ転写するスキルで、現代の日本で言うとタイピングとコピーアンドペーストを合わせたようなスキルだった。
私は徹夜で資料をまとめた。
8歳の体では負担は大きいが、自然と疲れは感じなかった。たぶん自分で考えて、前向きに仕事をしているからだろう。OL時代は、ただ言われたことを期限までに仕上げるだけだったので、精神的にも肉体的にもボロボロだった。
資料をまとめていると、ある点に気付いた。冒険者の死亡率が異常に高かった。理由は何点かある。まず、冒険者は対人戦闘がメインではなく、魔物討伐やダンジョンの探索がメインだ。対人戦闘に慣れていないというのもある。しかし、最も大きな点は、冒険者に物資や装備が行き渡らないことだ。そもそも、ダンジョン探索などをメインにしている冒険者は、ほとんどが軽装だ。前線に配置されたら、重装備が必要になる。
また、当然負傷もする。ポーションで治療するのが一般的で、回復魔法もあるが、使える者が少なく、また、魔力回復ポーションも必要になってくるので、どのみち、支援物資が必要なことに変わりはない。
だけど、冒険者に出動要請が来る頃には物資が正規の騎士団に買い上げられてしまっている。その状況で冒険者が装備や支援物資を調達しようとしても、足元を見るように高値を吹っかけられてしまう。商人からすれば、儲け時だから仕方ない面もある。
結局、資金に余裕のある高ランクの冒険者は装備を整えることはできても、資金に余裕のない冒険者は碌な装備も用意できない状態で戦地に向かうことになる。これが冒険者の死亡率が異常に高い理由だと、私は結論付けた。
私は何とかして冒険者を救いたかった。というのも、安くて質のいい商品が売りのベル商会だから、冒険者のお得意様は多い。私が店頭で店番をしていると、よく声を掛けてくれる顔見知りの冒険者も多くいる。こっそりとお菓子をくれたりもする。そんな彼らを死なせたくはなかった。
次の日、私はお父様とお母様に提案をした。資料を示し、戦略を説明する。
「私は冒険者を救いたい。だから、儲けを最大化するのではなく、良心的な価格で装備や支援物資を販売してほしいの。私の計算では、これでも大きな利益が見込めると思う。だからお願いします」
私は頭を下げた。しばらくして、顔を上げるとお父様とお母様は見つめ合い、笑いあっていた。
「クララは優しい子だ・・・」
「それでこそ、私たちの娘だよ!!」
二人は、私の提案を受け入れてくれた。
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