29 冒険者活動 4
ダミアン王子をリーダーにした冒険者活動は順調だった。しかし、業務は大幅に増えてしまった。というのも、戦闘力ゼロの文官タイプの学生や問題児の伯爵家三人娘をボランティア活動に厄介払いしたのだが、文句が出ないようにダミアン王子も定期的にボランティア活動に参加させなければならなくなったからだ。
ダミアン王子は一見して完璧な王子様なのだが、実は結構なポンコツだ。冒険者活動は、ランクの低い魔物を選定し、お決まりのパターンで指揮をすれば何とかなる。お決まりのパターンというのが、ネスカ、ミリア、レニーナ様で予め設置してある罠に魔物を誘導して罠に嵌める。そこをゴンザレス率いる前衛部隊が足止めを行い、エスカトーレ様率いる魔導士部隊が仕留めるといったものだ。
多少討ち漏らしがあっても、そこはダミアン王子が討伐する。個人の戦闘力は一級品だからね。
問題はボランティア活動のほうだった。
マニュアルを作らないと勇者として相応しい行動が取れないと言ってきたのだ。炊き出しでカレーをよそったり、冒険者志望の子供たちに武術を教えたりはまだよかった。エスカトーレ様が側で「笑顔でお声掛けを」とか「苦しそうになったら励ましてください」などと助言すれば、なんとかやれたのだが、問題が起こったのは子供たちとの食事会のときだった。
子供たちが唐突にダミアン王子に質問を始めたのだ。
「どうやったら、騎士団に入れますか?僕も国の為に働きたいです」
王族にとってみれば、有難く、微笑ましい質問だろう。しかし、ダミアン王子はオロオロし始めた。見るからに顔が青ざめている。たぶん、マニュアルにないことをして、勇者として相応しくない言動をしたと思われるのが怖いのだろう。仕方なく私はゴンザレスに代わりに答えるように指示した。
「それは騎士団長の息子である俺が答えよう。ここで殿下に頼んでも入団試験で有利にはならんぞ。騎士団は最前線で体を張るのが仕事だ。そのため危険も多い。だからこそ、入団試験は厳しくしている。ただ、地道な鍛錬を続けて実力を身につければ、どんな生まれでも関係ない。しっかり頑張れ」
「ありがとうございます。訓練も勉強も頑張ります」
ゴンザレス、いいこと言うじゃん!!100点の回答だよ!!
しかし、質問はまだまだ続いた。8歳くらいの女の子が言った。
「将来、王子様と結婚するにはどうすればいいですか?」
よくある微笑ましい質問だ。そもそもこの手の質問に正解の回答なんてない。日本のアイドルなら「仕事が恋人です」とか言うかもしれないし、冗談で「彼女がいます」とか言うかもしれない。
ダミアン王子はというと、また青ざめて震えていた。状況を察したエスカトーレ様が代わりに答える。
「殿下をしっかり支えられるように、まずは自分を高めなくてはなりませんよ。そのためには、まずお勉強を頑張りましょうね」
「はい!!しっかり頑張ります」
いい答えだった。これなら角も立たないし、子供も傷付かない。正解はないけど不正解な回答はあるからね。例えば「すぐに結婚してあげよう」とか「お前のような低い身分の者とは結婚できない」とかだろう。
そこからも質問は続いたが、別の者が代わりに答えたり、エスカトーレ様が耳打ちしたりして、何とかやり過ごした。
これが地獄の始まりだった。
次の日、エスカトーレ様から指示があった。
「本当に申し訳ないのですが・・・殿下から、もっと細かくマニュアルを作るように言われました。クララさんには特に迷惑を掛けますが、どうぞよろしくお願いします」
「は、はい・・・ところで、どの程度のマニュアルでしょうか?」
★★★
こ、細かすぎる・・・
ボランティア活動のたびに電話帳一冊分にも及ぶ資料を作らされていた。当然、私だけでは手に負えないので、ミリア、ネスカにも応援を頼んだ。ゴンザレスも考えたが、余計な仕事が増えそうなのでやめておいた。
ミリアが文句を言う。
「何これ?子供から唐突にプレゼントをもらったときの対応は、基本的には従者が代わりに受け取り、従者が受け取れなかった場合は、お礼だけ言ってすぐに従者に渡す。そのときに従者が近くにいない場合はエスカトーレ様に渡す。安全上の理由からすぐにその場で開けるのではなく・・・・って、プレゼントをもらっただけで、こんなにも大変なの?」
「冒険者活動もおかしなことになってるよ。戦術面の質問があったときは、僕を呼び出して、話を聞かせて、3日以内に真摯に回答することになってしまって・・・・一々聞いていたらキリがない。この前なんか、「支援魔法を早めに掛けてほしい」って要望があったんだけど、早めの定義について3枚もレポートを書かされたよ。そんなの「ハイハイ、言っておきます」でいいんだけどね・・・」
「私もよ。子供たちの質問を予想して、想定問答集を作れですって・・・突飛な子供の質問なんて予想できるわけがないのに・・・・」
三人で愚痴を言い合う。いつの間にかネスカとも軽口を言い合える仲になっていた。
私たちはまだいい。基本的に資料を作るだけだから・・・
エスカトーレ様とレニーナ様はもっとひどい。この膨大な資料を暗記し、ダミアン王子の現場対応までしなくてはならない。
特にエスカトーレ様はフラフラで、見兼ねたお母様が特別にスタミナ料理を3日に一度出前するくらいだ。
エスカトーレ様は流石に愚痴は言わない。ある意味できた人だ。
「今はゴンザレスさんが殿下の訓練のお相手をしています。「訓練に励むことが勇者の務め」という進言を聞き入れてくれたので・・・流石のゴンザレスもボロボロですから、活動に支障が出ないといいのですが・・・」
レニーナ様が答える。
「そ、そうですね・・・・でも夏季休暇が終われば、この地獄のような日々も終わるでしょうから、頑張りましょうね!!」
地獄って言っちゃったよ・・・
「そうです、これは殿下の妻になるための試練です。皆さんを付き合わせてしまって申し訳ないのですが・・・」
「そんな、これもエスカトーレ様の人柄に惚れて、好きでやっていることですから!!そうですよね、皆さん?」
ここで「違います」とは言えないだろ!!
そんなこんなで、何とか地獄の夏休みは終わりを迎えた。これで、私たちは解放される・・・・
しかし、そうはならなかった。
新学期初日に私たち派閥の主要メンバーは学園長室に集められた。そこには騎士団長と冒険者ギルドのギルマスのレベッカさん、近衛騎士団長という、そうそうたるメンバーが勢ぞろいしていた。近衛騎士団長が代表して話始めた。
「冒険者活動、ボランティア活動と諸君らは貴族の子弟の鑑だ。国王陛下も褒めておられた。それで、是非とも活動を視察したいと仰られている。大まかな日程は学園側と相談して決定するが、国王陛下の視察があることを念頭にこれからも活動に励んでくれ」
膝から崩れ落ちそうになった。
なんとか踏ん張った自分を褒めて上げたい。
ところで、この地獄はいつまで続くんだ?
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