25 夏休み
ケーブ学園は夏休みに入った。
だが、授業が休みになるだけで、私のやることは変わらない。否、むしろ増えたくらいだ。ベル商会の手伝いはもちろん、冒険者ギルド、商業ギルドのアルバイトも続けているし、ボランティア活動全般を取り仕切っている。それに輪をかけて大変な活動も入ってしまった。
それは冒険者活動だ。
発端はエスカトーレ様が、宮廷魔導士団の特別顧問であるゴンザレスの母親から、「冒険者でもやって早く実戦訓練をしろ」と指導されたことにある。ウチの派閥は武闘派揃いで、天才魔導士のエスカトーレ様、ああ見えて武闘派貴族の名門家のご子息ゴンザレス、「狩人」のジョブ持ちのレニーナ様がいるので、あっという間に夏休みに冒険者活動をすることになった。
私としては、他の業務があるので冒険者活動に参加を見合わすことにしていたのだが、そうはいかなかった。というのも、いくら実力があっても最低のFランクからスタートしなければならず、最初は町の中の配達業務やドブ掃除などしかないのだ。そして昇級してEランクになっても、薬草採取や他の町への配達依頼くらいしか受けられない。
討伐依頼を受けられるのはDランク以上からだ。どうしても討伐依頼が受けたければ、救済措置として、Cランク以上の冒険者が引率することが義務付けられている。
そうなるとエスカトーレ様やレニーナ様にドブ掃除をさせて、夏休みの冒険者活動を終わらせるのは忍びないので、Cランク以上の冒険者を雇い入れ、活動をすることをレニーナ様が提案したのだが・・・
「私の我儘で、派閥の資金を使うわけにはいきません。Fランクのドブ掃除からやり始めます」
エスカトーレ様はそれでよくても、他のご令嬢やご令息はそうはいかない。言葉にこそしないが「なぜ私たちがドブ掃除などしなければいけないんだ!!」というオーラを前面に出している。これを派閥の危機だととらえたレニーナ様はこう提案した。
「クララさんが毎回参加すれば大丈夫なのでは?クララさん、規定はどうなっていますか?」
「規定上は、私が参加すればDランクの討伐依頼は受けられますが・・・私が引率というのは・・・」
「規定上問題なければ、大丈夫です。そうしてください」
「は、はい・・・・」
私は何を隠そうCランク冒険者なのだ。
私が武術の達人かと思うかもしれないが、そうではない。これには深い事情があるのだ。私は冒険者ギルドでアルバイトしているが、アルバイトの業務以外で高額の依頼を受注することがある。会計処理の関係で、そのような高額依頼は一般冒険者の依頼と同じ扱いで処理されるのだ。大掛かりな補修工事などがその例だ。
話を私に戻すと、倉庫整理や各種資料作成などで、依頼達成率と貢献度はかなり高く、一応冒険者登録をしていたので、どんどんと冒険者ランクが上がってしまった。流石にBランクに昇格するには、面接や戦闘試験などがあるので遠慮させてもらったのだが、貢献度だけを見ればAランクの功績に匹敵するようだった。
だから規定上は、私がCランク冒険者として引率すれば可能なのだ。そして、ミリアがまた余計なことを言う。
「いい案ですわ!!レニーナ様!!クララさんはこう見えても、初級サポーターの資格も持っていますからね」
「そうなの?だったら今回の引率者にピッタリじゃないの!!」
初級サポーターというのは、冒険者の役割の一つでパーティー活動で荷物運びや素材の解体、ギルドとの折衝などを受け持つ役職だ。私は冒険者ギルドのアルバイトで解体業務も素材の買取業務もさせられていて、仕事をしているうちに初級サポーターに必要な条件をクリアしていたので、念のため取得していたのだった。
この資格があれば、パーティーメンバーを募集するときにギルド公認の履歴書に記載できるのだが、全く冒険者になる気のない私にとってみれば、あまり有効な資格ではなかった。
ここまで来て、「無理です」なんて言えず、渋々引率者を引き受けることになった。
★★★
そして私の冒険者活動がスタートした。
初日は安全のためにということで、ギルマスのレベッカさんに引率をしてもらった。これに依頼料は発生せず、かわいい弟のためという個人的な理由ということにしてくれた。そして多分、活動の主力になるであろうメンバーで冒険に臨むことになった。
メンバーはエスカトーレ様、ゴンザレス、レニーナ様、ネスカ、ミリア、そして私だ。
エスカトーレ様、ゴンザレス、レニーナ様の三人はもちろん、ネスカもミリアも優秀だった。ネスカは自己申告だが、「レンジャー」という斥候職の上級職で、罠の設置解除、索敵などに秀でたジョブで魔法も近接戦闘もそつなくこなす。見た感じ、ゴンザレスよりも強そうだが、実力を隠している感じがする。隣国のロイター王国の関係者だから色々と事情があるのだと想像する。
そしてミリアだが、「従者」のジョブはかなり優秀で、支援魔法やサポートが得意なようだ。
実際に戦闘を見てみると、レベッカさんも太鼓判を押す。
「個人能力はこの年代では、かなり高い。国内でもトップクラスだ。後は連携だな。こればっかりは一朝一夕にはいかん。話し合いながらやるしかないな。集団戦もさせてみたいのだが・・・・」
「それでしたら、この近くにブラックシープの群れの出没スポットがありますが・・・」
「群れならCランクか・・・よし、いいだろう。何かあれば私が助力しよう。それにしてもクララ嬢の分析力は凄いな・・・」
場所を移動して捜索すること1時間、ブラックシープの群れと遭遇した。
ブラックシープは羊型の魔物で、大人しい部類に入るのだが、群れになると急に狂暴になる。突進攻撃は強力で駆け出しの冒険者なら一撃で戦闘不能にされることもある。それが10頭以上はいる。
ここまで何も言わなかったレベッカさんが指示を出す。
「リーダーはエスカトーレ嬢だ!!自分の攻撃だけでなく、しっかりと指示もしろ。ゴンザレスは難しいことを考えずにタンクとしての役割を果たせ!!後のメンバーはしっかりと二人をサポートするんだ!!」
レベッカさんのアドバイスを受けて、エスカトーレ様が指示を出す。戦闘が始まる前は、かなり心配したが、全く危なげない戦いだった。
ゴンザレスがしっかりと攻撃を受け止め、さらに全身に電撃魔法をまとわせて、ブラックシープをスタンさせて足止めをする。そして、メインアタッカーであるエスカトーレ様の魔法が完成するまで、レニーナ様が弓で、ミリアが支援魔法で、ネスカが剣でエスカトーレ様に近付いてくるブラックシープを討ち取っていく。
「お待たせしました!!すべてを切り裂け!!グレートウインドカッター!!」
残っていたブラックシープがエスカトーレ様の魔法で切り刻まれた。
終わってみれば呆気ないものだった。
というか、私って必要?
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