21 派閥拡大 2
偶然とはいえ、エスカトーレ様とも懇意になって1ヶ月、私とミリアは派閥の執行役員になった。
今もベル食堂の2階を借り切って、派閥の会合を行っている。
現在Aクラスは30名中12名がエスカトーレ様の派閥の構成員で、7名が西辺境伯令嬢派閥、後のクラスメイトは様子見をしている状態だ。無所属のクラスメイトは、ダミアン王子が派閥を作る可能性も捨てきれないことから態度を保留している者や、そういった派閥闘争に全く興味のない平民や研究者タイプの学生で占められている。
西辺境伯令嬢の派閥と険悪な仲というわけではなく、西辺境伯令嬢も立場上、自分の派閥を作らなければならない事情があるのだ。辺境伯は少し特殊で、自前で軍を持ち、交戦権もある。これは国防のことを考慮すると、王都から離れた他国と国境を接している場所が領地という立地条件では仕方のない制度でもある。
なので、辺境伯は独立心も強く、「間違った主君を諫めるのが、真の忠臣である」という教えもあるくらいだ。そういった事情から穏健な西辺境伯に比べて、貴族派の代表格である東辺境伯の令息はBクラスに振り分けられている。情報では、Bクラスは東辺境伯が掌握しているようだった。
今後の方針としては、Bクラス、Cクラスで出来上がった派閥をいかにして、我が派閥の傘下に加えるかということらしい。そんな話が続く中、エスカトーレ様が声を上げる。
「まあ、腹が減っては戦ができぬといいます。とりあえず食べましょう!!」
これにはみんなが賛成する。みんなお腹が限界にきていたからね。日替わりランチとエスカトーレ様の奢りで、一品料理が数点テーブルに並んでいく。ここでゴンザレスが声を上げた。
「やったあ!!俺はロックバードのから揚げが好きなんだ!!100個でも食べられるぞ」
実は私とミリアにも有力者への勧誘の仕事が回ってきて、駄目元で声を掛けたところ、ゴンザレスとロイター王国からの留学生であるネスカが派閥に加わることになった。ネスカについては、国が調査をしているので、特に怪しいところが認められず、派閥入りはすぐに承認されたが、ゴンザレスの加入は少し判断に迷うところがあったらしい。
というのも、ゴンザレスは侯爵家の令息であり、自分で派閥を作ってもいい有力者なのだ。むしろ、自分で派閥を作ることが普通なのだ。本人に聞けないので、姉のレベッカさんに話を聞いた。
「ゴンザレスは不器用だからな。学園では「言われたこと以外は何もするな」と言っている。ウィード公爵令嬢の派閥に入る?いいじゃないか。クララ嬢もいるのだろ?ゴンザレスがへまをしないように、面倒をみてやってくれ」
これがきっかけで加入が認められたゴンザレスだった。最初は警戒していたメンバーもゴンザレスの為人を知ると打ち解けていく。貴族には珍しく、打算も何もないからね。そこは逆に心配だけど・・・・
そんな感じで、派閥の主要メンバーにもなれ、派閥の拡大政策もそれなりに順調だった。そして食事会も終わり、エスカトーレ様が閉会のお言葉を述べる。
「それではこれで会は終了します。来週なのですが、派閥としての活動を決めて行こうと思っています。何か意見がありましたら、来週の会で発表をしてくださいね」
話を聞いたところ、申請すれば学園から補助金が出るし、貴族たちの了承が得られれば、出資してくれるそうだ。レニーナ様の話では、エスカトーレ様もゴンザレスもいるので、それなりに出資金は集まる見込みだという。
見込みの金額を聞いたら驚いた。ベル食堂の1ヶ月の売り上げよりも多かった。
私は思った。
これはチャンスだ。OL時代にできなかったコンペだと思うことにした。その日から私は、3日間徹夜で企画書を書き上げたのであった。
★★★
私が考えた案は、貧民街の支援ボランティアだった。毎週炊き出しはしているが、それだけではなく、総合的な支援を考えている。我ながらよくできていると思っていた。ジョブ鑑定でお世話になった神父さんから、実態も調査しているしね。
ただ、こちらの世界でどのような評価を受けることになるか分からないので、とりあえずミリアに見せてみた。
「す、すごいわ・・・特に支援だけでなく、利益が上げられるところが商人として共感が持てるわ。私が考えていた事業とも被る部分があるし。でも、定例会でいきなり発表するのは止めたほうがいいわね」
「なんで?いい案だと思うんだけど?」
「良過ぎることが問題なのよ。まずはレニーナ様に相談ね」
私はミリアが言っている意味が分からなかった。でもミリアのことは信頼しているので、レニーナ様の元に赴くことにした。
そこでも同様の説明をしたのだが、同じようなことを言われた。
「私でも判断ができないわ。なので、エスカトーレ様に判断を仰ぎましょう」
エスカトーレ様にも説明をする。
「すごくいい案だわ。クララさんとミリアさんはこのまま実現できるように進めてください。レニーナさんは、派閥内の取りまとめと学園側への手続きをお願いしますね。私は私でやれることをやります。定例会で正式決定の方向でいきましょう」
意外にあっさりと承認されてしまった。帰り道、ミリアから説明があった。
「クララは、まだ分かっていないようね?じゃあ、エスカトーレ様、レニーナ様、他のメンバーの立場に立って考えてみて。それで、いきなり貴方が定例会で発表したらどうなると思う?」
私に限らず、他のメンバーもそれなりに考えてはいるはずだ。エスカトーレ様だって、レニーナ様だって・・・
そういうことか・・・
「クララの案は群を抜いて凄いと思うわ。例えばだけど、エスカトーレ様が発表した後にこの案が出てきたらどうする?顔をつぶすようになるよね?だったら事前に説明して根回ししたほうがいいわ。そして、定例会ではエスカトーレ様、いえ、派閥全体の意見として発表してもらう。そうすれば、間違いなくこの案は通るわ。私も貴方もこの案を実現して、スラム街の人や孤児たちを支援するのが目的でしょ?」
こんなことに気付かなかったことが、私がOL時代に失敗した原因だろうな・・・
今にして思えば、もっとやり方があったと思う。企画発表会で自信満々で発表したら、ドン引きされたのを思い出してしまった。
それを12歳のミリアたちに気付かされるなんてね・・・
「ありがとうミリア。また失敗するところだったわ。なんだかミリアって大人っぽいよね・・・お姉さんみたい・・・」
「何を言っているのよ!!忙しくなるのはこれからよ。多分、こまごまとした実務は私たちがほとんどやることになるんだからね」
神様がいるかどうかは分からないが、私をこの世界に転生させてくれた存在には深く感謝した。
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