2 ジョブとスキル
しばらくして、神父様が戻って来た。
私たちに説明を始める。
「過去の文献によると所謂下働きのスキルが身に付くようだ。将来の適職だけど、メイドや清掃員、料理人なんかが、良いとされている。ただ、本職の「メイド」や「料理人」には敵わんようだが・・・」
私はショックを受けていた。なんでこんなジョブなんだろうか?
せっかく剣と魔法の世界に転生したのに、魔法も使えないし、一生下働きなんて・・・
これなら前世と大差のない人生が待っている。OL時代は同期や後輩にどんどんと追い抜かれ、同期や後輩たちが役職持ちになったり、プロジェクトを任されるなかで、私はずっと雑用しか、やらせてもらえなかった。
陰で「コピー職人」や「お茶汲みのスペシャリスト」、「倉庫の番人」、「会議資料の魔術師」とか言われていたしね・・・
異世界に来てまで、雑用人生なんて、この世界の神は無慈悲だ。
そんな思いが態度に出ていたのだろう、神父様が優しく声を掛けてくれた。
「クララちゃん、物は考えようだよ。逆に言えば、どんな仕事にも向いていると言える。その道のスペシャリストのスキルには及ばないかもしれないが、多くのことがそれなりにできるからね。それに努力次第では、その道のスペシャリストにも勝てるのが人生というものだよ」
その言葉を受けて、お母様も声を掛けてくれる。
「いいじゃない!!私の「料理人」とシャイロの「商人」、両方の仕事ができるってことでしょ!!新しく食品部門を強化してもいいんじゃない?クララが居れば、厨房もホールもできるってことでしょ?」
「そうだ!!それにロキが後を継いだら、クララが側で支える。これでベル商会も安泰だな!!」
お父様とお母様は、私を元気付けようと明るく話してくれた。それによく分かっていないロキも会話に入って来る。
「ずっとお姉様が僕の側にいてくれるってことでしょ?やったあ!!」
涙が出そうになった。OL時代の私と唯一違う点は、側に素晴らしい家族がいるということだ。
「お父様、お母様・・・それにロキ、本当にありがとう。これからも頑張るわ!!」
私は明るく答えた。
「自分が望んでいないジョブかもしれないけど、神様は何か理由があって、このジョブをクララちゃんに与えたんだと思うよ。じゃあ、スキルの説明を始めるね・・・・」
神父様の説明によると、スキルは同じジョブの者に習って習得する場合や急に必要なジョブが身に付く場合があるという。
「クララちゃんの場合は、珍しいジョブだから、色々と経験を積みなさい。シャイロやムーサのお手伝いから始めればいいだろうね。それとスキルは強い思いやそれまでの経験から自然と生み出される場合があるからね。今の騎士団長は私の友人なんだけど、彼の話をすると・・・・」
ルータス王国の騎士団長は「剣聖」のジョブ持ちで、若い頃は無鉄砲だったそうだ。危険を顧みずダンジョン探索をしていたところ、強力な魔物の群れに囲まれ、満身創痍になり、死を覚悟した。そのとき「何としても生きて帰る」という強い思いから、代名詞となっている「剛破斬」という何物も切り裂く、強力スキルを身に付けたという。
「少し難しい話をしたけど、家族思いのクララちゃんだから、お父様やお母様を助けたいと強く思えば、神様が力を与えてくれると思うよ」
説明を聞いているうちに、私はやる気が出てきた。ジョブを理由に追放されるという話は、よく聞くけど、そんなことは、この家族なら絶対にない。私が頑張れば、頑張るだけ、みんなが幸せになる。それだけで十分だった。
★★★
次の日から早速、私は仕事を始めた。この世界の慣例で、ジョブ鑑定でジョブが判明したら、弟子入りをしたり、魔導士の指導を受けたり、騎士団の見習いになったりする。私もまずはお父様とお母様の御手伝いをすることになった。
午前中はお母様の指導で食品部門で、午後からはお父様の秘書的な役割をすることになった。
まず最初にやらされたのはキャベツの千切りだ。簡単な指導を受けただけで、それなりに上手くできた。お母様も褒めてくれる。
「こりゃあ驚いたね。これならすぐに賄い飯くらいは作れるようになるね。期待しているよ」
「本当に!?じゃあ、明日から朝食を作らせて。家族の分だったら、迷惑が掛からないから、いいでしょ?」
「しばらく一緒に作ってみてだね」
早速みんなの役に立てることになって、私は本当に嬉しかった。
午後からは、お父様の側で書類の書き写しを行った。忙しいお父様が直接指導してくれるわけではなく、番頭のオジールが教えてくれた。
「大変ですが、正確に丁寧に行ってくださいね。こういう地味な仕事が商会の基礎を作っているのですよ。先代が言われておりました。『雑にするから雑用だ。この世に雑用なんてない』とね」
「まあでも、私のジョブは「雑用係」なんだけどね・・・神様が認めちゃっているし・・・」
「そ、それはそうですが・・・とりあえず、手を動かしましょう」
1時間位、単調な作業を続ける。ただの書き写しだが、お父様やオジールの考えでは、書き写しを通して、商会の仕事やお金の流れを理解してほしいのだろう。その考えはよく分かる。
でも、辛いなあ・・・
ああ・・・コピー機があれば楽なのに・・・それなら一瞬で終わるんだけどなあ・・・
そう思っていたところで、急に頭の中に不思議な言葉が浮かんだ。
「転写」
私は何の気なしにその言葉を唱えた。
すると一瞬で書類がコピーされていた。それからはあっという間だった。オジールに渡された10枚の書類をすべてコピーすることができた。
「オジール、できたわ!!」
「お嬢様、嘘はいけませんよ。単純で辛い作業ですが。この作業を通して、商会の基礎を学び、商人として必要な忍耐力を・・・・って・・・できている・・・・」
慌てたオジールはすぐにお父様を呼びに行った。お父様が尋ねてくる。
「これを一瞬で・・・まさかスキルが身に付いたのか?」
「多分そうよ。「転写」っていうスキルだと思うの」
それから私は、課題として用意されていた1ヶ月分の書類を5分と掛からずにコピーした。
「す、凄い・・・クララは天才だ!!」
日本では何の評価もされない作業だが、世界が変われば、全く評価が変わってくる。
これをきっかけに私は次々とスキルが発現することになった。
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