19 派閥入り
方針は決まった。というか、ミリアに決められてしまった。
こういうところは、前世からの悪い癖だ。友達や同僚に流されてしまう。
エスカトーレ・ウィード公爵令嬢に取り入ることを決めたのだが、やることは地味だった。どのクラスメイトよりも早く登校し、教室の清掃を行う。私の「雑用係」スキルとミリアの「従者」スキルがあるから、短時間で済む。
この時間に登校するのは、私とミリアだけではなかった。ネスカ・ビーグル、隣国ロイター王国の子爵家の三男も登校している。
私とミリアが声を掛け、話を聞く。
「君たちも知っていると思うけど・・・母国の命で入学しているんだ。なるべく、次世代のルータス王国の主要人物の心象をよくしろってね。だから、同じ下級貴族として、雑用をするからね。手分けしてやろう」
ミリアが提案する。
「じゃあ、私とクララで教室の掃除やなんかはしておくわ。できれば教官から授業内容を聞いて、教官からの雑用をしてもらえると助かるんだけど」
「もちろんだよ。今後ともよろしくね」
ネスカは、貴族にしては驕ったところもなく、実に好青年だった。詳しい事情は分からないが、祖国から無理難題を押し付けられたと予想がつく。ロイター王国の人間だし、完全に信用したわけではないけど、今のところ、仲良くはしておこう。
雑用を終わらせるとゴンザレスやエスカトーレ様も登校してきた。すかさず挨拶を行う。ここでいきなり「派閥に入れてほしい」とは言わないらしい。どうするかというと、エスカトーレ様が昼食で食堂に向かう際や授業の教室移動のときなど、派閥の最後尾に随伴するのだ。
「クララ、なんでこんなことをするの?っていう感じが顔に出ているわよ」
ミリアの説明によると、これも作法の一つで、自分から声を掛けることはせず、声を掛けてもらうのを待つのだという。
「朝の清掃、挨拶なんかを地道に頑張りましょう」
そういえばOL時代、営業成績のいい同期が、「何もなくても顔だけは出して、何か言いつけられるのをひたすら待つこともある」とか言ってたな。雑用しかしてなかった私は、非効率的なことをよくするなあ、と思っていたけど、実はそういったことが案外大切だったのかもしれないと思ってしまった。
死んで転生した今では、後の祭だけどね。
そして苦労は実を結ぶ。
3日目の昼、エスカトーレ様の右腕と言っていい人物、レニーナ・ケンドウェル伯爵令嬢が声を掛けてきた。こちらも青髪のロング、切れ長の目が特徴の美少女だ。
「貴方たち、何か御用かしら?」
対応はミリアに丸投げした。
「お声掛けいただきまして、ありがとうございます。私はミリア・ギールス、こちらはクララ・ベル、ともにしがない商人の娘でございます。何かエスカトーレ様のお役に立てればと思っておりまして・・・」
「そうなの・・・ふーん・・・まあ、私が取り次いであげなくもないわね」
「そうなのですか!!レニーナ様、よろしくお願いいたします」
放課後正式に、エスカトーレ様に紹介をしてもらい、無事に派閥入りが決定した。
下校時にミリアからレクチャーを受ける。
「どうして私がこんな回りくどいことをしたかというとね。派閥に入った後のことも考えてなのよ。レニーナ様に取り次いでもらって、エスカトーレ様に紹介されたわけなんだけど、派閥のナンバー2であるレニーナ様の顔を立てる意味もあったのよ」
ミリアの話によるとレニーナ様は早い段階で私たちの存在に気付いていたそうだ。そしてすぐに私たちの身辺調査を実施して、問題ないと判断して声を掛けたのだという。
「もし私たちが派閥内で評価されたら、私たちを派閥に引き込んだレニーナ様も評価される。そうなると私たちの足を引っ張ろうとするメンバーも迂闊に手は出せないでしょ?もちろんレニーナ様には、エスカトーレ様と同じくらい敬意を払うのはもちろんだけどね」
ミリアと話をしてみて、自分がOL時代に評価されなかった原因の一端が分かった気がした。上手く表現できないが、ミリアがやったようなことがOL時代にできていたら、私の評価も変わっていたのかもしれない。今思い返してみると、やっぱり付き合いは悪かったと思う。
★★★
この世界も一週間は七日だ。基本的に週休二日、まあお役所や貴族以外はあってないようなものだが。大きく違うのは、日本で水曜日にあたる週の中日が、昼で業務が終了する。これはケーブ学園も例外ではない。だから、私もミリアも昼からは普通に仕事を入れているのだ。
「クララ、今日は昼から何をするの?」
「ベル食堂で、仕込みの手伝いかな。大口の宴会が入っているからね」
「そうなのね。だったら昼はベル食堂で食べようかな?私は商業ギルドに顔を出す予定だから」
結局、昼はベル食堂で一緒に食べることになった。
そんな会話をしながら、下校していると、意外な人物から声を掛けられた。いきなり、いかにも高級そうな馬車が止まり、金髪縦ロールのお嬢様、エスカトーレ様が下りてきた。
「ごきげんよう、クララさん、ミリアさん。少し話をしたいなと思いましてね」
ミリアが笑顔で応対する。
「そうなのですね!!実はこれからクララと一緒に昼食を食べる予定だったんですよ」
「だったら一緒にどうですか?私の馬車でお送りしますよ」
ウチのベル食堂は味と量には自信があるが、流石に上位貴族をもてなすような店ではない。
「申し訳ないのですが、ウチの店は、エスカトーレ様のお口に合うかどうか・・・」
「お気になさらずに、普段貴方たちが食べている物を私も食べてみたいですからね」
結構強引だなあ・・・
しかし、断ることもできず、私たちは馬車に乗せられ、実家が経営するベル食堂に向かったのだった。
店に入り、お母様を探したが、急用で出かけているそうだ。なので、顔見知りの店員に個室に案内してもらった。
「エスカトーレ様、庶民的な店で申し訳ありません。メニューなのですが・・・」
言いかけたところで、遮られた。
「もう決めているわ!!ラーメンセットとカツカレー、両方とも大盛で!!」
公爵令嬢にあるまじき、量だ!!
ってツッコムところは、そこではないか・・・・
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