17 入学初日
今日からケーブ学園での学生生活がスタートする。
校門をくぐり、校舎入口の掲示板で自分のクラスを確認する。
Aクラスか・・・
Aクラスの場所を備え付けの案内図で確認して、教室に入った。すると、見知った顔を見付けたので挨拶をする。見知った顔というのは、スラっとした体形の茶髪の少女、ミリア・ギールスだった。ギールス商会会長の孫で、彼女も商業ギルドのアルバイトをしていたので、そのときに仲良くなった。
「おはよう、ミリア」
「おはようじゃないわよ!!一体何時だと思っているのよ!!」
「えっと・・・まだ始業時間まで15分以上あると思うんだけど・・・」
「もう!!そういうことを言っているんじゃないのよ!!」
ミリアが言うには、立場を考えろという話だった。男爵家の分際で、この時間に登校すること自体が、舐めていると思われるのだという。そういえば、クラスメイトが私を見る視線が、心なしか冷たいような気もする。
「ご、ごめん。だったら明日から早く登校するよ」
「あまりピンときてないようね・・・ここがどういうクラスか分かっているの?」
「Aクラスでしょ?他に何か?」
「ああ・・・もうそこから説明しないといけないの・・・・」
ミリアが言うには、この学園はA,B,Cの3クラスがあり、Aクラスは王族や高位の貴族、平民でも特殊能力を持った者が集められているクラスだそうだ。なぜ、私がこのクラスなのだろうか?
「多分私たちが選ばれたのは、このクラスのお世話係ね。Aクラスは王族や高位貴族がひしめいているから、平民にお世話させるわけにはいかないからね」
悲報!!
学園での3年間、高位貴族のお世話係になることが決定してしまった。前世での学生時代を思い出して、かなりワクワクしていたのに・・・
私が落ち込んでいることも気にせず、ミリアが話を続ける。
「でもチャンスよ。将来、国の主要人物となる人たちと人脈が作れるからね。ただ、失敗すると親族にも影響が出るかもしれないから気を付けてね」
「私はなるべく目立たないように過ごせればいんだけど・・・・」
「何を言っているのよ!!二人でのし上がるのよ」
ここまでミリアのモチベーションが高いのは、彼女のジョブの所為もあるのだろう。ミリアのジョブは「従者」で仕える相手の能力を最大限高めることができるらしい。なので、自分が仕えるべき最高の主君を探そうと躍起になっているのだ。
彼女のスキルも私の「雑用係」のスキルと似ている点もあり、仲良くなった要因の一つでもある。
「そう言われても・・・そうだ!!重要人物を教えて、気を付けるようにするから」
「アンタねえ・・・商人にとって情報はお金に代えがたい大切なものなんだけど・・・まあ、特別に教えてあげるわ。私の資料を見なさい」
ミリアお手製の資料を見ながら解説を聞く。
「まずはモブキャラからね・・・・」
「モブキャラって・・・・」
モブと言っても、ほとんどが伯爵以上の令嬢や令息だ。それがモブキャラって、どんなクラスなのだろう。
「まあ、この中では彼ね・・・」
中肉中背、黒髪黒目、褐色肌のイケメン、ネスカ・ビーグル、隣国ロイター王国の子爵家の三男だ。
「特に仲良くするメリットはないけど、情報は取るべきかな。スパイかもしれないしね。ロイター王国の噂は知っているよね?」
知っているも何も、ロイター王国の所為で私は、国家機密まで知ることになったのだから。
「噂にはね・・・」
「だからね。怪しい動きがあれば、すぐに探りましょう。商業ギルドで不正を見付けたときみたいにご褒美がもらえるかもよ。まあ、心の隅に置いておくくらいでいいと思うわ。カテゴリーはモブだし」
そういえば、商業ギルドの不正を発見したとき、ミリアと二人で裏付けの資料を作ったんだった。そのときのご褒美は、ベル商会の屋台を場所代なしで、商業ギルドに出店させることだった。屋台の営業には、孤児を多く雇用しているので、かなり喜ばれた。
その後ミリアは、聞いてもないのに、誰と誰は付き合っているけど、親同士が仲が悪いから困っているとかいったゴシップも話始めた。それはそれで、面白かったんだけどね
そんな中、ミリアは時計を確認して言った。
「そろそろね。主要人物が登場するわよ」
それからすぐに入ってきたのは、がっしりした体型で赤髪、赤ゴリラ・・・って・・・
「彼はなんとドナルド侯爵家の・・・」
言いかけたところで、彼は私に挨拶をしてきた。
「おはよう、クララ!!君と一緒のクラスで心強いよ」
「おはようゴンザレス、私もよ」
ゴンザレスが席に着いたのを確認した後にミリアが質問してきた。
「知り合い?どういう関係?」
「ちょっとね。冒険者のギルドのギルマスには、よくしてもらっていて、その弟さんだから・・・」
ゴンザレスの入学準備をしていたことは言えないので、適当に誤魔化した。
「クララもやるわね・・・主要人物ともう繋がりを作ったなんて・・・あっ、あれが・・・」
ミリアの視線の先には、金髪の縦ロールの美少女がいた。
金髪縦ロールって本当にいたんだ・・・見るからにお嬢様っぽいけど・・・・
そんなことを思っていたら、クラス全員が立ち上がり、そのお嬢様に挨拶をした。
「「「おはようございます!!エスカトーレお嬢様」」」
「ごきげんよう・・・皆さん」
挨拶もお嬢様だった。
ミリアの説明によると彼女はエスカトーレ・ウィード、ウィード公爵家の令嬢で、魔法の腕も同世代では並ぶ者がいないといわれるほどの才女らしい。
縦ロールの魔法少女って・・・・私がニヤついていると、ミリアに肘でわき腹をつつかれた。
「それぐらいは知っておきなさいよね。それと次に来る方は説明するまでもないわね」
次に入って来たのは、金髪青目の美少年、ルータス王国第三王子のダミアン・ルータスその人だった。これは私でも知っている。なんでもジョブが「勇者」で、第三王子でありながら、国民の人気は高い。式典で遠巻きに見るくらいだったけどね。
こちらも全員が揃って挨拶をする。
「ミリア、なんで王子様がここにいるのよ?」
「クララ、知らないにもほどがあるよ!!王子様がいるから、今年の入学希望者は3倍になったのよ。大きな声では言えないけど、年齢を誤魔化して入ってきている子も多くいるのよ。それくらい繋がりって大事なのよ」
よく見ると明らかに老けた顔をしている男子やどう見ても10歳にしか見えない少女もいる。
このとき私は悟った。
メンバーだけ見ても、平穏な学園生活は送れないと・・・
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