134 ネスカ更生プログラム ①
後日談①と後日談②の間にあった物語です。
~ミリア視点~
私は今、魔王城にエスカトーレ様、レニーナ様と一緒に来ている。
魔王様直々に要請があったからだ。用件は言われなくても察しはつく。多分、ネスカ絡みのことだろう。
「この度はお忙しいところ、ご足労いただきまして、感謝いたします。早速ですが、本題に入ります。まずはこちらの資料をご覧ください」
魔王様に渡された資料に目を通す。
予想通り、ネスカの現状が記載されていた。
「ネスカを再教育しようと私たちも努力しているのですが、全くどうしていいか分からず、皆さんの力をお借りしようと思った次第です」
これは酷い・・・
全く何も分かっていない。今の状態でクララに謝りに行かせたところで、火に油を注ぐだけだろう。
エスカトーレ様が言う。
「これは何というか・・・ネスカさんは何も分かってませんね・・・」
エスカトーレ様が言うのも頷ける。
資料の末尾にあったネスカが作成した反省文を見れば、その酷さが一目で分かる。クララにどれほど酷いことをしたか、全く理解していない。前科持ちのドラゴンを利用して、クララの心を弄び、クララから告白させるなんて、あり得ない。
「僕は今、反省の日々を送っている。朝から晩までお母様やオルガ姉さんにしごかれ、フラフラになりながら、執務に就く。クララのスキルがあれば、すぐ終わる仕事がここまで時間が掛かるなんて・・・失ってはじめて、クララの偉大さがよく分かる。クララ会いたいよ・・・
あの時のことを振り返り、後悔ばかりしている。もっとクララに明るい未来を伝えればよかった。だからクララ、新婚旅行は楽しみにしておいてくれ。最高のプランを用意しているから」
レニーナ様が言う。
「魔王様、失礼を承知で言いますが、ネスカさんはクララさんのことを全く考えていません。クララさんの友人として、ネスカさんがこんな状態では、クララさんに会わせることは反対です」
私もレニーナ様と同意見だ。本当にネスカは、何も分かっていない。
それと、ネスカ更生プログラムだが、これも酷い。
とにかく痛めつけているだけだ。確かに罰として考えたらいいかもしれないが、更生には程遠い。このまま、プログラムが終了するとネスカはきっとこう言うだろう。
「クララ、僕は反省し、辛いプログラムにも耐えた。結婚してほしい」
クララがブチキレている姿が目に浮かぶ。
そんなことを思っていたところ、レニーナ様に声を掛けられた。
「ミリアさん、貴方からも何か言ったらどう?」
「エスカトーレ様やレニーナ様と同様に私もネスカには腹が立っています。でも、私たちがここに来たのは、ネスカを更生させるためですよね?怒りをぶつけるのは後にして、どうすればいいか、解決策を探しましょう」
エスカトーレ様が微笑みながら言う。
「ミリアさんは、クララさんみたいなことを言うんですね?」
「これでも付き合いは、一番長いですからね」
「ではそうしましょう。まずは資料をもう少し読み込んでいきましょう」
それから資料を読み込んで、意見を出し合う。
ネスカは、悪気があったのではなく、そもそも女心が分からないようだ。これは育ってきた環境によるところが大きい。
ネスカは、上の姉二人に比べて手の掛からない子供だったようだ。ジョブが「智将」でもあり、頭の回転は群を抜いていた。それで早い段階から国外に出て諜報員のような仕事をこなしていた。当然、気を許せるような友人や恋人ができるわけもなかった。
魔王様が言う。
「頭がキレるだけに、人として基本的なことが欠落しているとは、夢にも思いませんでした。親として恥ずかしい・・・」
レニーナ様が言う。
「ネスカさんにとって、私たちが初めての友だちだったのかもしれませんね」
多分そうだろう。
エスカトーレ様が言う。
「ネスカさんなりに反省はしていると思います。反省の仕方は間違ってますが・・・」
激しくね・・・
私は提案する。
「とりあえず、ネスカと面談しませんか?」
★★★
久しぶりにあったネスカは、かなりやつれていた。
それはそうだろう。Aランクの冒険者でも、1日で音を上げるようなカリキュラムだからね。
エスカトーレ様が語り掛ける。
「ネスカさん、十分反省されましたか?」
「もちろんです。すぐにでもクララに会って、謝りたいです」
「分かりました。でも私たちがここに来たのは、友人としてではなく、貴方が真に反省しているかを確認するためです」
ネスカの表情が曇る。
エスカトーレ様は敢えて事務的に質問をしていく。
「まず、クララさんのどのようなところに惹かれたのでしょうか?」
「クララのスキルは凄いんです。それに今でも成長しています。また、スキルだけでなく、冷静な判断力、幅広い知識は魔王国にとって・・・」
クララの良さを熱く語るネスカ。
しかし、明かにズレている。道具のスペックを説明しているかのような口調だ。堪らず口を挟んでしまった。
「それってクララじゃなくても、同じような能力を持った人だったら誰でもいいってことよね?」
ネスカは少し考え込んだ後に言った。
「クララじゃないと駄目だ・・・説明はできないけど・・・」
「じゃあ、いつから好きになったの?」
「それが分からないんだ。クララは優しくて、頑張り屋で、困っている人を放っておけない。最初は、そんな無駄なことをして何になるんだと思っていたけど。接するうちにクララを放っておけなくなってしまった。クララが他の男と楽しそうに話していると、腹が立つようになって・・・そしていつの間にか・・・もしかして・・・」
「もしかして?」
「クララは、そういったスキルを持っているんじゃ・・・」
絶句する私たち。
「これは重症ね。更生には時間が掛かりそうだわ」
「そうですね。変に能力が高いだけに今まで気付きませんでした」
「変に捻くれてないだけ、ダミアンのほうが扱いやすいかもしれません・・・」
再度、ネスカに質問する。
「ネスカがクララを好きなのは、分かったわ。それで貴方は何をしたの?」
「最高の条件を用意したんだ。報酬も大臣職もクララの能力が生かせる職場も・・・多少強引なところはあったけど・・・」
エスカトーレ様が語気を強めて言う。
「ネスカさんがやったことは、たとえるなら、小さな男の子が好きな女の子の気を引こうとして、ダンゴムシを大量にプレゼントしているのと同じです。まずは相手の気持ちを考えてですね・・・」
「エスカトーレ様、お言葉ですが、僕は小さな男の子ではありません。僕ならその女の子が何を欲しがっているかを入念にリサーチして、その女の子が望む物を用意します」
「では聞きますが、クララさんが真に望んでいることは何ですか?」
黙り込むネスカ。
エスカトーレ様は、更に詰問する。
「貴方は、クララさんの為と言いながら、自分の価値観を押し付けていただけではないのですか?」
絶句するネスカ。
「僕はクララのことを何も知らない。というか、知ろうともしなかった・・・」
「ではこれからどうすればいいか、分かりますね?」
「もちろんです。徹底的にクララのことを調べ上げ、対策を練ります」
呆れる私たち。
「ゴンザレス様やダミアン王子がいたから気付かなかったけど、ネスカが一番ポンコツだったわ・・・」
「更生までの道のりは長そうですわね・・・」
「そうですね・・・これじゃあ、クララさんに会わせられません」
こうして、私たちの第一回目の面談は終了したのだった。
★★★
~クララ視点~
ミリアが執務室にやって来た。
冒険者ギルド関係の定期報告の為だ。
「これで定期報告は終わりね。後はネスカのことなんだけど、これを読んで」
渡された報告書に目を通す。
ネスカに悪気はないのは知っていたけど、ここまで酷いとは・・・
「ご苦労様、ミリア。エスカトーレ様とレニーナ様にもお礼を言っておいて」
「ネスカがあんなにポンコツだとは思わなかったわ」
「ネスカが私を知ろうとしなかったように、私もネスカのことを知ろうとしなかった。今後は、ネスカを注意深く観察し、管理していかないとね。ネスカのことは許せなくても、ネスカがいなければ、私の仕事が増える一方よ」
ミリアが帰り際に呟いた。
「ネスカと同じことを言ってるわ・・・案外、お似合いかもね・・・まだまだ、先は長そうだけど」
いつまでもネスカを監禁しておくことはできない。
だったら、私が管理する。徹底的にね。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
ネスカの更生には時間が掛かっておりますので、ご了承ください。
新作を書きましたので、よろしければ、読んでいただけると幸いです。
「実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています」
https://book1.adouzi.eu.org/n8250ko/
あらすじ
18歳のある日、エクレアは生まれ育った転職神殿から追放処分を受けてしまう。エクレアはジョブが「上級転職神官」だったが、誰一人として転職させることができなかった。更にエクレアのことを良く思っていなかった腹違いの妹のマロンが裏で糸を引いていた。そして、婚約者であった聖騎士ユリウスもマロンの策略でエクレアを断罪する。失意のエクレアは、未開の地である魔族領に向かうのだった。
そこでエクレアは気付く。自分が転職させられなかったのは、エクレアに問題があるのではなく、転職させる者に適性がなかったのだ。そして、ジョブ転職の真実に気付いたエクレアは、大聖女として崇められるまでになった。エクレアのお陰で魔族領は大発展していく。これは、無能として追放された転職神官が、大聖女として再生する物語である。
※ 妹のマロンと婚約者のユリウスは当然の如く、ざまぁされます。




