133 後日談② 結婚前夜
私は今、生まれ故郷のルータス王国の王都ケーブに来ている。結婚式を挙げるためだ。
誰とだって?
もちろんネスカだよ。
あれから1年、改心したネスカは、持ち前の能力を生かして、コツコツと外堀を埋めて来た。私の両親、派閥のメンバー、それに魔王様やオルガ団長、スターシア団長と多岐に渡る。それにオルガ団長のハートを射止めたチャックさんに弟子入りし、その心意気を学んでいた。そうなったら私は為す術がなかった。あえなく陥落した。
だったら最初からやれよ!!
そうツッコミを入れたくなる。まあ、ネスカは器用に見えて、かなりそっち方面は不器用だ。それが魅力でもあるんだけどね。
そして、ネスカの提案で、最初に王都ケーブで式を挙げることになった。
「クララと出会ったこの場所で、結婚式を挙げたい。お世話になった神父様も協力してくれるからね」
ネスカは王子だし、私はベルシティの領主の娘だから、王都ブリッドとベルシティでも大々的に結婚式をしなくてはならない。そうなるとかなり大きな行事となるので、その前に身内や近しい人を集めてケーブで、こじんまりと挙式することにしたのだった。
結婚式前夜、親しい友人たちと語り合う。場所はベル商会の本店だった食堂で、いつものメンバーが集合した。ゴンザレスも結婚式に来てくれた。ザスキア様に乗って、三人娘とハイエルフの姉妹、「ナダスの聖女」クマーラさんと共に。
ミリアが言う。
「結婚式の前夜、友人と過ごすのに、新郎新婦が同じっていうのも珍しいわよね?」
「そうね。ネスカは性格が悪いから、友達はみんなしかいないからね」
「クララ、ちょっとそれは酷いんじゃないか?」
「だったら、誰か他にいるの?」
「チャックさんとか・・・」
「それは義兄でしょ?」
他愛のない会話が続く。生まれたばかりの赤ちゃんを抱いたエスカトーレ様が言う。
「もしかしたら、子育てマニュアルを作ってもらうかもしれません。ダミアンが、パニックになって・・・母親の私よりも過保護なんですよ」
「そ、それは大変ですね・・・」
エスカトーレ様とダミアン王子は相変わらずのようだった。
「私も早く赤ちゃんが欲しいです。異種族間では子供ができにくいと言われてますし、頑張らないと」
レニーナ様も昨年、イカルス教官と結婚されていて、今はダークエルフの里にエルフの伝統的な生活を指導しに行っている。
「ところで、ミリアはどうなの?」
「それがね・・・あるにはあるんだけど・・・」
皆が期待しているところに、ゴンザレスが叫び始めた。
「そうだ!!何か忘れていると思ったら、大事なことを思い出した。ネスカ!!勝負だ!!クララは渡さないぞ!!」
おい!!いつの話だ?
それって、私が魔王国ブライトンの捕虜になった1年後の話だろ!!
それに今の今まで、忘れていたんだろ?空気を読めよ。明日は結婚式だぞ。
ミリアが言う。
「ゴンザレス様、今言われてもクララもネスカも困ると思いますし、それにゴンザレス様はクマーラさんと婚約を考えているんでしょ?」
それは初耳だ。
「だが・・・親友であるネスカとの約束が・・・」
ネスカが言う。
「ゴンザレス、勝負だけしよう。それでいいだろ?」
結局、軍略将棋で勝負することになり、ものの3分で決着がついた。もちろんネスカの圧勝だ。
「ネスカ、俺の負けだ。クララを頼む」
「ありがとう、ゴンザレス。クララを幸せにするよ」
ネスカとゴンザレスが熱い抱擁を交わしている。一見すると感動する場面に見えなくもないが、事情を知っている者からすると何とも言えない光景だ。
エスカトーレ様が言う。
「でもよかったですわ。今思い出して。明日急に思い出したら大惨事でしたしね」
やっぱりゴンザレスはゴンザレスだった。でもゴンザレスが居てくれて本当に有難いと思っている。これくらいのことは許してあげよう。
そんなことを思っていたら、私を訪ねて来た人がいた。レベッカさんとガルフさんだ。二人は結婚していないが、ずっと付き合っていたそうだ。結婚は、仕事が落ち着いてからだという。
「私たちはクララ嬢とネスカにおめでとうを言いに来た。明日の結婚式は出席できないからな」
「お仕事ですか?」
「そうだ。ドナルド家の威信を懸けた仕事だ。失敗は許されない」
これにガルフさんがツッコミを入れる。
「カッコいいことを言っているが、キャサリン様の監視だ。否、監禁に近いな。フレッド様もジョージ様も俺を含めた特殊部隊も全員が張り付いている。安心して結婚式を挙げてくれよ」
「大変ですね・・・」
レベッカさんが言う。
「ガルフ、それを言ったら、クララ嬢が不安になるだろうが!!」
「だって、もし逃げたら困るだろ?魔王国の奴らや、ここにいるメンバーにも協力してもらわないと」
「それはそうだが・・・」
そんな時、ガルフさんの通信の魔道具に緊急通話が入った。
「緊急!!緊急!!対象のキャサリン様が逃走した。現在所在不明!!至急捜索に当たれ」
レベッカさんは言う。
「何をやっているんだ!!ゴンザレス、お前はクララ嬢に張り付いて、無事に式を挙げさせろ」
「はい!!姉上」
「ネスカ、悪いが・・・」
「大丈夫です。クララは僕が守ります」
そんなこんなで、最後の最後までトラブル続きだった・・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
これで、この物語は終了です。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。気が向きましたら、後日談を追加しようとは思っていますが、今のところ、予定はありません。この物語を書くにあたり、普通の転生成チート物には、したくありませんでした。実際の人生も同じですが、ほんの少しのボタンの掛け違いで、才能があっても不遇な目に遭うことは多々あります。そういった不条理を乗り越えて活躍する主人公を描きたかったのです。クララは、一度目の人生は失敗しましたが、しっかりと試練を乗り越えてくれました。本当に嬉しく思います。
新作を発表しましたので、是非読んでください。クララと同じ元OLの転生者ですが、こちらの主人公はクララと違って尖った能力の持ち主です。
勇者が来ません!!~物語の初期段階で勇者に剣術スキルを教える女道場主に転生しましたが、いつまで待っても勇者が来ません。だったら、こっちは好きにさせてもらいます。まずは剣術道場の経営再建から!!
https://book1.adouzi.eu.org/n4800kc/
あらすじ
大人気RPG「雷獣物語」の世界で、勇者に剣術スキルを教える剣術道場の女道場主エミリアに転生した元OLの物語です。前半はあの手この手で、勇者が来るまで、経営破綻目前の道場を存続させるためにエミリアが奮闘します。剣術道場版の細腕繫盛記ですね。
後半は、多くの陰謀に巻き込まれ、世界の謎を解明していきます。
この物語では、RPGあるあるの信じられないくらい強いモブキャラが多く登場します。エミリアも初期の剣術スキルしか使えませんが、その内の一人です。本人は気付いてませんけどね・・・




