132 後日談① 歴史は繰り返す
その日私は、見てはいけないものを見てしまった。
ネスカとビッテさんがイチャついている。非常に腹立たしい。
よくも私のネスカを!!この前科持ちの泥棒ドラゴンが!!
しかし、よく考えてみると私とネスカは付き合ってもいないし、ネスカとビッテさんがそういう関係になっても、浮気にもならない。ここで私が文句を言うのもおかしな話だ。
それからというもの、私は仕事が手に付かなくなった。どうしたらいいんだ?
悶々とした時を過ごす。だが、このままではいけない。論文の締め切りは間近だし、大臣としての仕事もある。
でも頭に浮かぶのはネスカとビッテさんのことばかりだ。そういえば、最近ネスカとビッテさんはよく二人で出掛けている。視察や外交関係だというが、本当のところは分からない。二人っきりでいつの間にかとか・・・あり得なくはない。
そんなとき、女子会に誘われた。というのもエスカトーレ様がご懐妊したから、そのお祝いをするのだ。集まるのはいつもの私、エスカトーレ様、レニーナ様、ミリアだった。最近オープンしたベル商会系列のレストランに集まった。
料理も美味しく個室もあり、少し値段も高めの設定にしている。ベル商会には珍しく、上流階級向けのレストランだ。最近ベルシティは多くの王族や貴族がやって来るからね。
個室に集まり、エスカトーレ様を迎える。レニーナ様が代表してお祝いを言う。
「本当におめでとうございます。自分のことのように嬉しいです」
「ありがとうございます。これもすべて、皆さんのお陰ですよ」
そんな形でスタートした女子会だったが、私はネスカとビッテさんのこともあり、普段以上にお酒を飲んでしまっていた。ミリアから、止められても、飲み続けた。
「クララ、どうしたの?ちょっと飲み過ぎじゃないの?嫌なことでもあったの?」
酒の勢いもあり、つい愚痴ってしまった。
「実はネスカとビッテさんがね・・・最近、急接近してさ。無理やり魔王国ブライトンに連れて来られたのに、ちょっと酷すぎない?別れるにしても、はっきり言えばいいのに・・・」
「別れるって、アンタたち付き合ってたの?」
「付き合ってはないけど・・・」
その後、みんなから、根ほり葉ほり聞かれた。
意見は二つに分かれた。ミリアは言う。
「付き合ってないんだったら、仕方ないと思うわ。どっちつかずのクララも悪いと思うしね」
これに対して、レニーナ様は違った。
「酷すぎます!!女性の心を弄んで、許せません。それにビッテさんにも腹が立ちます。ヤスダ様とブライトン王の仲を引き裂いた上に今度はその子孫にも迷惑を掛けて。ドラゴンの風上にも置けません」
「でもレニーナ様!!、クララとネスカは、まだ付き合ってもないわけですし、問題はないと思いますけど」
「規則や法律の話をしているわけでは、ありません。これはクララさんの気持ちの問題です!!」
ここでエスカトーレ様が仲裁に入る。
「レニーナさんの意見もミリアさんの意見もよく分かります。それで結婚した先輩の意見として申しますと、きちんとクララさんが思いを伝えるべきです。そこからですよ。女性から告白しても問題はありませんし、私なんて、何年も思いを伝え続けてきたのですから。何度も折れそうになったとき、皆さんが支えてくれました。だから、私としてはクララさんを支えたいと思います」
レニーナ様が言う。
「分かりました!!これは派閥の活動です。必ずや成功に導きましょう」
「そういうことだよ、クララ。とりあえず告白しなよ」
「私は好きとは・・・」
そんな私の言葉は聞いてくれず、次の日、急遽告白することになってしまった。
★★★
告白にはエスカトーレ様、レニーナ様、ミリアがなぜかついて来てくれた。レニーナ様が言うには、これは公式の派閥の行事だと言い張っていた。みんな興味本位だったのだろう。
仕方なくネスカの執務室を訪ねる。今日もビッテさんがネスカの執務室に居た。
私は怒りに任せて言った。
「ビッテさん!!これ以上ネスカに近付かないでください。本当に不快です。それに貴方には前科があるでしょう?」
「そ、それはそうですけど、まだ付き合ってませんよね?」
「そうですけど、私はネスカに求婚されてますし、私も・・・私も・・・」
「私も・・・何ですか?」
意を決して言う。
「・・・好きです。ネスカが・・・」
ミリアたちは人の気も知らないで、盛り上がっている。他人の修羅場を見るのは面白いからね。
そんな時、ネスカが得意気に言った。このときのネスカの顔を私は生涯忘れないだろう。
「やっと本当のことを言ってくれたね。嬉しいよ。実はビッテさんに協力してもらっていたんだ。ビッテさんには前科があるし、君も不安になるだろうと思ってね。君の気持ちも分かったし、早速婚姻の手続きをしよう。ビッテさん、ありがとうございました」
「いえいえ、少しはヤスダに罪滅ぼしができたと思います。クララさん、本当にごめんなさいね。心苦しくて・・・ヤスダもクララさんと同じ気持ちだったんだなって思って・・・反省してます」
私は怒鳴り散らした。
「ネ・ス・カ!!!!!この馬鹿野郎が!!何も分かってないじゃないの!!この馬鹿!!アンポンタン!!」
エスカトーレ様が言う。
「流石にこれは酷すぎます。スターシア王女に報告し、然るべき対応をしてもらいます。いくら王子だからといって、ルータス公国の領主の娘にしていい仕打ちではありません。場合によっては国際問題になるかもしれませんよ」
レニーナ様とミリアも続く。
「最低です。見損ないました。派閥からの除名も検討します」
「本当に引いたわ・・・私はオルガ団長と冒険者ギルドの関係で伝手があるから、報告しておくよ。少しは堂々と告白したチャックさんを見習ってほしいわ」
少し落ち着いた私は、ネスカに言った。
「私も魔王様に報告します。それから一生ネスカ王子とは業務以外で口を利きません。これから新しく契約書を作り直します!!」
「そ、そんな・・・さっきは好きだって・・・」
次の日、魔王様とスターシア団長、オルガ団長が飛んで来た。ネスカは激しく叱られ、王都のブリッドに連行された。
その後、ネスカがどうなったか、私は知らない。
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次が最終話です。
新作を発表しましたので、是非読んでください。クララと同じ元OLの転生者ですが、こちらの主人公はクララと違って尖った能力の持ち主です。
勇者が来ません!!~物語の初期段階で勇者に剣術スキルを教える女道場主に転生しましたが、いつまで待っても勇者が来ません。だったら、こっちは好きにさせてもらいます。まずは剣術道場の経営再建から!!
https://book1.adouzi.eu.org/n4800kc/
あらすじ
大人気RPG「雷獣物語」の世界で、勇者に剣術スキルを教える剣術道場の女道場主エミリアに転生した元OLの物語です。前半はあの手この手で、勇者が来るまで、経営破綻目前の道場を存続させるためにエミリアが奮闘します。剣術道場版の細腕繫盛記ですね。
後半は、多くの陰謀に巻き込まれ、世界の謎を解明していきます。
この物語では、RPGあるあるの信じられないくらい強いモブキャラが多く登場します。エミリアも初期の剣術スキルしか使えませんが、その内の一人です。本人は気付いてませんけどね・・・




