128 取調べ 4
今日も取調べが始まる。
「神聖ラドリア帝国は中央大陸の南部に位置している。神聖ラドリア帝国以南の国はすべて平定したのだから、当然北に目が向く。北にあるのは小国家群と大国であるルータス王国だ。大陸の東に魔族が国を作っていることは情報として知っていたが、すぐに攻めるのは得策ではないと思っていた。そうなると狙いはルータス王国だ。ルータス王国さえ、押さえてしまえば、小国家群など、どうとでもなる。それが、上層部の意見だった。
私は聖騎士団長として、これ以上の領土拡大には反対した。ここまで連戦連勝だったのは、私が名将であったり、最強の軍隊を持っていたことが要因ではなく、ただ単に相手が弱っていたことと、住民から保護を要請されていた大義もあり、協力を得られたことが大きい。それを誰よりも分かっていたからね。
そんな弱気な発言の私に皇帝陛下もライバルである騎士団長も、挙句の果てに文官までもが腰抜け呼ばわりしてきたよ。流石にキレそうになった。「だったらお前らがやってみろよ」ってね・・・」
一旦ピサロは言葉を切る。
「最終的にこう言われた。『これは命令だ。嫌なら更迭する』とね。仕方なくルータス王国、ついでにロイター王国の情報を集めた。そして、前にも話したと思うけど、ロイター王国の情報を掴み、それを元にルータス王国に工作を仕掛けることになった。結果は知ってのとおりだが・・・」
ここで私は質問する。
「聖女アイリーンも言っていましたが、貴方の工作はだんだんと強引になってきたと言っていました。それはなぜですか?」
「そもそもの話、私に謀略のスキルなんてないし、工作が得意なわけでもない。火種があるところに少しだけ、油を注ぐだけだ。火のないところに煙を立てることはできない。それを分かっていない連中から、半ば強制的に工作活動をするように指示を受けた。これまでが上手く行き過ぎたこともあり、そうなっても仕方がなかった。それでも自分なりに努力したが、結果は見てのとおり、同じ「雑用係」にすべて防がれたというわけだ。そして、その失敗の責任をすべて押し付けられ、こうなっているんだよ」
私は何とも言えない気持ちになった。
「貴方が黒幕がいないと言った意味は何となく分かりました。では、質問を変えます。どうすれば、神聖ラドリア帝国の領土拡大政策は止まりますか?」
「フフフ・・・「雑用係」っぽい質問だね。非常に現実的だ。ヒントを出すとすると同じことをすればいいんじゃないか?それが因果応報というものだろう?後は自分で考えてくれ。面白そうな計画なら手伝いはしよう。雑用でも何でもするよ。「雑用係」だからね」
取調べは一旦中断した。
ここまでの内容をネスカに伝える。ネスカが言う。
「ピサロが言ったことから考えると、神聖ラドリア帝国内の対立を煽れってことかな?例えば、皇帝と貴族たち、騎士団と聖騎士団、ヤスダ教に目を向けても多くの宗派がある。それらに工作を仕掛けて対立関係を煽れば、他国への侵略どころではなくなるということだろうね・・・」
「じゃあ具体的には?」
「まずは皇帝と貴族たちの関係に楔を打ち込む。「謎の聖女」であるエリザベス・クレイラーの実家、クレイラー公爵家を中心に反皇帝派閥を形成させる。併せて、ヤスダ教への工作も行う。ヤスダ教の代表的な宗派であるエランツ派、庶民派、多種族共存派、現実派はぞれぞれ支持母体が違う。エランツ派は騎士や軍部が多く、庶民派と多種族共存派は一般市民が、現実派は商人が多い。それぞれが正しい教えは自分たちだと主張しているから、それを煽るのもいいかもしれない。それぞれに聖女を認定させたりしたら、面白いかもね」
私はネスカの話を聞いて、違和感を覚えた。
それをやったところで、ピサロの二の舞になるような気がしたからだ。
「上手く言えないけど・・・何か違う気がする。神聖ラドリア帝国の国力を落すことが答えなら、それが正解だとは思うけど・・・でもそういうことじゃない気がするのよ」
「そうだね・・・だったら、これからそれを見付けないか?僕たち二人なら、きっと見付かるよ。これまでのピサロの取調べの記録を見ても、彼の側に理解者や協力者がいなかったことが原因の一端だと思っている。その点同じ「雑用係」でもクララには僕という理解者であり協力者がいるからね」
「そうね・・・ネスカだけじゃなく、家族や友人、様々な人に支えられてきたと思っているわ・・・」
「そこは、ネスカが頼りって言ってほしかったけどね・・・」
冗談はこれくらいにして、私とネスカがやったことは、結局資料の分析だ。
ピサロが供述した内容を元に資料を取り寄せ、関係者の証言もまとめる。そして、ある結論に達した。
「ネスカ、多分だけど・・・ピサロが失敗した原因が分かった気がする」
「それはクララの大活躍があったお陰だろ?」
「それはそうなんだけど・・・それだけじゃないと思うの・・・」
ピサロが聖騎士団長になって行った獣人の国の属国化も遊牧民を平定したのも、根底は領土を広げることよりも、国境沿いの国民を守ることが第一の課題だった。獣人の国を例に挙げると、国民を守ることから派生して、虐げられている獣人の種族を救うことが目的になり、結果として獣人の国を属国化したのだ。遊牧民を平定したときも遊牧民の略奪行為が問題になっていて、当初は話合いでの解決を試みたようだが、交渉が決裂し、仕方なく軍事行動を取り、結局平定してしまった。
ピサロが属国化することが最善手だと判断した結果だろうけどね。
でも、ルータス王国やロイター王国への工作は違っていた。目的は国民の生活を守ることではない。領土を広げることが目的になってしまっていた。だから、本来守るべきである国民を死地に送り込むような作戦も敢行したのだろうと想像する。
つまり、ピサロも神聖ラドリア帝国も、最初の目的を間違えたということだ。
「だから、具体的にどうすればいいかは分からないけど・・・神聖ラドリア帝国の対立を煽ったところで、一時的にはよくても、長い目で見たらよくないことが起こると思うのよ。幸せのスライム作戦で懲りたしね・・・」
「そうだね・・・だったら、神聖ラドリア帝国の国民も幸せになり、そして、僕たち魔族や他の国も幸せになる方法を考えてみようよ。僕たちだけじゃなく、エスカトーレ様やみんなの意見を聞いてさ」
それから3日間は、徹夜だった。
やっとのことで資料にまとめた。そして今日、ピサロと対峙した。
「疲れているようだけど、大丈夫かい?」
「大丈夫です。答えを持ってきましたよ!!」
ついでだから言うが、このピサロも救うべき人間の一人だ。
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