126 取調べ 2
「なぜ分かった・・・」
「同じ「雑用係」ですからね。当然ですよ」
「理由を聞いても?」
まず、ここに来るまでの10日間で、ピサロの経歴を徹底的に調べ上げ、関係者からも事情聴取した。幸い比較的書類に強い聖騎士団の元第二隊長と元第四隊長が作戦の詳細を覚えていてくれたので、検証はしやすかった。
実際にピサロが指示した作戦を自分なりにシミュレーションしてみた。多分、私もピサロと同じ作戦を取るだろう。それにピサロの経歴を見ても各部署で雑用ばかりをやらされている。神官見習い時代も文官時代も全く評価されなかった。聖騎士団に配属されて初めて、頭角を現した。こんなに部署によって、評価が真っ二つに割れることは珍しい。
私はこの世界に転生し、家族にも友人にも上司にも恵まれた。しかし、前世のOL時代のように環境によっては全く評価されなかった可能性は十分にある。
そして、決め手はスキルだった。私と同じ「転写」が使える時点でもそうだが、他のジョブにないスキルを持っていることもピサロが「雑用係」であると確信した。「ジョブ鑑定」なんていうスキルはないしね。それにピサロは神官見習い時代にジョブ鑑定を行う部署に配置されていたとの記録があった。そこで何かしらの理由で「ジョブ鑑定」のスキルを獲得した可能性が高い。
他にも、色々とあるが、まあとりあえずは、そんなところだ。
「なるほどな・・・ところで、君は?」
「申し遅れました。私はクララ・ベル、魔王国ブライトン総務、改革推進担当、復興支援担当、業務改革推進担当、都市開発推進担当大臣兼外交官です」
「まさに雑用係だな。君は確か・・・そこのネスカ王子とともにエスカトーレの派閥にいたよね?名前に記憶があるが・・・そうか、部下も気にしなかったのだろうな・・・」
そうだ。常に裏方だったからね。
「よし、分かった。君と二人なら話してあげてもいいだろう。但し、条件としてこちらの質問にも、答えられる範囲で答えてもらう。どうだね?」
私はネスカを見る。
「許可しよう。但し、クララに危害を加えるようなことがあれば・・・」
「好きにしていい」
なし崩し的に私が取調官になってしまった。
★★★
早速、取調べに入る。
「ジョブは分かりましたが、神聖ラドリア帝国を裏で操っていた黒幕について教えてください」
「その前に君の生い立ちを聞きたい。それが条件だったと思うが?」
仕方なく私は、自分の幼少期からジョブ鑑定、それからケーブ学園の入学までの話をした。ケーブ学園に入学してからの話をしようとしたところ、ピサロに遮られた。
「思い出した、ベル商会だ!!ロイター王国と魔族の小競り合いの事件をきっかけに大きくなった商会だな?短期間で急激に大きくなった商会だから、工作をしやすいと思って部下に指示した。結局、上手くはいかなかったがね」
「えっ!!貴方が指示してたんですか?魔物の素材を横取りするやつでしょ?」
「そうだ!!・・・なぜそれを?」
私が事情を説明する。
「なるほどな・・・入学前から活躍していたとはな。ところで、ベル商会が急激に大きくなったきっかけを教えてくれ。自分でもあの工作は自信があったんだ。一体誰が私の計画を潰したのか、今でも気になっていてね・・・」
正直に私がやったことを答える。
8歳の時、相場が特徴的な値動きになり、前回魔族と小競り合いがあったとされた時の値動きと酷似、様々な資料分析から、おかしいと気付いた。そういえば、あれが最初に陰謀を防いだ事件だった。
「そ、そうか・・・私も同じだった。相場の値動きを根拠に、ロイター王国へ大量に諜報員を動員したんだ。その結果、ある事実が判明した。ロイター王国と魔族が過去に交戦した事実自体がなかった。これを公表するだけでも大スキャンダルだが、これを利用することを思い付き、ルータス王国も巻き込むことにしたんだよ・・・それを君が防いだというのか・・・じゃあ、続けてくれ」
そこからケーブ学園での話をした。主にケンドウェル領での出来事や職場研修で倉庫整理から騎士団の不正を暴いた話を中心に話した。
「ケンドウェル領も君だったのか、それに長年子飼いにして来た奴らも、多く拘束された事件の端緒が倉庫整理だって!?」
「だって、「雑用係」ですからね・・・」
そんな話をしていたら、突然ピサロは笑いだした。
「ワハハハハ!!本当に自分が馬鹿らしい。ジョブに関係なく、努力で何とかなると思ってここまで頑張って来たのに・・・私の計画をすべて防いだのが同じ「雑用係」だったとは、本当に皮肉だ」
「そうですね・・・資料を分析しただけですからね。同じ結論になっても仕方ないと思います」
「見たところ、君は幸せな人生を歩んでいるようだね。だったら、同じ「雑用係」として、私のこれまでの人生を話してやろう。それで私が「黒幕はいない」と言った意味が分かると思う」
それから、ピサロは自分の生い立ちを語り出した。
★★★
ピサロは多種族共存派の有力者で、現ヤスダ教の教皇エビルスの長男として生まれた。幼少期から頭の良さには定評があり、将来は期待されていたという。しかし、ジョブ鑑定で「雑用係」と鑑定されてしまい、生活は一変する。弟も生まれたことも相まって、教皇候補から外れてしまう。私とは全く逆の対応をされたようだった。
「その時、父から言われた言葉を今でも覚えているよ。『教皇になれるジョブではない。今まで、身を粉にして国に尽くしてきたのに・・・これは天罰かもしれんな・・・』8歳の少年には厳しいだろ?」
「そうですね。私と全く逆ですね。私は両親や家族から称賛され、祝福されました。ジョブ鑑定後にすぐに商会の仕事を手伝うようになったのですけど、いつもみんなが褒めてくれました」
「私もそういう環境であれば、違った人生を歩んでいたかもしれないな・・・」
ジョブ鑑定を受けた後、ピサロは帝国学園への入学まで、教会関係の雑用をやらされることになる。それも全く評価されず、しかもジョブを理由にいじめられたりもしたそうだ。
「10歳の時、ジョブ鑑定をする部署に回された。簡単な仕事だった。ジョブ鑑定の魔道具に表示されたジョブを伝え、必要があれば鑑定書を作成する。ジョブについての質問があれば、過去の書物に書かれてある内容を答えるだけだった。自分では誰よりも仕事ができていると自負していたが、評価はしてもらえず、逆にいじめられてしまったよ」
「なぜですか?凄く助かると思うんですけど。私がお世話になっていた神父様なんか、いつも一人でいいから助手がほしいと言っていました」
「私が下働きをしていた教会が特殊だったんだ。君が通っていた教会が人手不足だった一方で、こっちは飽和状態だった。教会で何をするかではなく、教会に務めていることがステータスだった。まあ、由緒ある教会だからね。一人でできるような仕事を何人もでやる感じだ。そんな状況で一人で何でもできる少年が現れてみろ・・・結果は想像がつくだろ?」
ピサロは、すぐに鑑定もやらせてもらえるようになったそうで、これも嫌がらせの始まりだったようだ。有名貴族の子弟を鑑定をするのに、わざと壊れた鑑定の魔道具を渡されたそうだ。
「そのとき心に強く思った。どうか鑑定をさせてください!!神様!!ってね。そうしたら「ジョブ鑑定」のスキルが発現したんだ。そして、その場は切り抜けた。しかし、腹を立てた奴らがこう言ってきた『魔道具が壊れていた。適当にジョブを言ったら当たっただけだ。ピサロは大噓吐きだ!!』とね。一生懸命に説明したが、無駄だった。
次の日から別の部署に飛ばされた。そこからは誰も信じられなくなり、主に人と接しない資料係をしていたよ。そのとき、「転写」などのスキルを身に付けたんだ」
そこまでの話を聞いたところで、ネスカが取調室に入って来た。
「そろそろ時間だ。続きは明日にしてくれ」
「分かったわ」
私はピサロの人生に興味が湧いてきた。だって、前世の私に似ている。OL時代のとそっくりだ。
「じゃあ明日も楽しみにしているよ。この気持ちが分かるのは君だけだからね」
少しネスカは、ムッとしていた。
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