123 黒幕 2
アイリーンのジョブが「カウンセラー」と分かったのは驚きだが、今はそれどころではない。アイリーンが話始める。
「先程、ゲハルト隊長が言ったとおり、『火に油を注ぐんだ。ちょっとだけね』はピサロの口癖でした。それを随所で行うんです。それと分析能力ですが、書類や資料だけでなく、対象の人物の弱み強み、何を恐れていて、何を欲しているか・・・それがほぼ完璧に近い形で分かるようでした。私のジョブは「カウンセラー」で普通の人よりは、相手の気持ちが分かると思いますが、そんなレベルではなかったように思います」
一旦、アイリーンは話を切る。
「私を例に取るとお世話になったアウグスト団長やテンプル教会の方たちに迷惑を掛けたくないというのが弱みで、アウグスト団長の期待に添えるように立派な聖女になるのが、目標でしたからそれを利用されました。後ろめたい仕事をさせられたのも、今にして思うと私の弱点を増やすことだったと思います。私は、暗殺の手引きをしたとずっと思い込んでいたのですが、アウグスト団長に調べてもらったところ、私が暗殺の手引きをしたのではなく、後日自殺しただけだったそうです。そのときのピサロの言葉は、今も忘れません・・・
『もう手遅れだよ。多くの人を騙し、多くの人を殺めた・・・これがバレたら団長や教会の皆が悲しむだろうね。まあ、そういうことだよ。これからも頑張ろうね、聖女さん』
私を絶望の淵に叩き込む、悪魔の言葉でした」
アイリーンは感情が昂ったのか、涙を流して泣き出した。アウグスト団長が優しく抱きしめる。
「大丈夫だ。もうお前は立派な聖女だ。それに大事なのは過去ではない。今だ。そしてこれからどうするかだ。過去に恥じるべき点があるのなら、それをこれから取り戻せばいい・・・」
「ありがとうございます。大丈夫です。もう落ち着きました」
私はかなり腹が立った。ピサロがいなければ、アイリーンは優しい聖女のまま、今を迎えられたのに・・・
ネスカが言う。
「今までの話を聞くと、アウグスト団長が退団されてから、ピサロの印象が大きく変わったと感じました。優秀で真面目な男が、冷酷な独裁者になった感じがします。その点を踏まえて、何か原因となるものは考えられますか?」
ゲハルトさんが言う。
「アウグスト団長時代は、とにかくみんなアウグスト団長を恐れてました。ミスがあってもアウグスト団長には、何とかバレないようにしてましたね。それで、ピサロ副団長にまず相談に行って、上手く収めてもらうことが多かったと思います。そのときは、特に若い世代には結構人望も厚かったんですよ。書類に厳しい以外は面倒見もよかったですよ」
「最初から聖騎士団を乗っ取るつもりだったとは思いませんでしたか?」
「それはないと思いますよ・・・だって、団長に指名されたときも『私が団長なんて無理だ』とか言ってましたからね。でもアウグスト団長の期待に応えたくて、受けたように思いますけど・・・」
しばらく考え込んだネスカは言う。
「だったら、団長になってから、又はその前後に何かあったと考えるべきでしょう。よく思い出して下さい」
「獣人国を属国にした辺りまではよかったんですが、それからしばらくして、凄く機嫌が悪くなりましたね。何年も掛けて準備していたことがすべて駄目になったとか言ってましたね・・・特にここ数年は荒れまくってましたよ。アイリーンを連れて来たのもそんなときです。何かあったかな・・・」
アイリーンが言う。
「私が聖女になってからも、大きく変化があったと思います。ピサロは長い時間を掛けてコツコツと作戦を積み上げていく感じでした。だから私を聖女として、国民の信望を集めさせたのでしょう。私が短期間で成果を上げたのも、ピサロの計画通りに行動していたからだと思います。でも、あるときから、かなり強引になりました。勇者パーティーを編成したり、信者を大量に死地に送り込むなんて、今までのピサロにはなかったですからね」
「具体的に何があったか、また誰に対して怒っていたとか、分かりますか?」
「多分、ルータス王国への工作が全く進まなかったことが原因だと考えられますね。私が聖女にされたのも何か大きな計画が失敗したからだと思います。そして、多くの信者を犠牲にするという最低最悪の作戦を実行に移したのも、ルータス王国に潜ませていた有力者が軒並み処刑されたことが原因だと思われます。それとエスカトーレ様には怒ってましたね。『忌々しい聖女め!!ジョブや家柄に恵まれただけのお嬢様が!!』と怒鳴っているのを聞いたことがあります」
大きな計画?それって、私が8歳の時に潰したあの計画だろうか?
ルータス王国の工作活動もことごとく、失敗しているし、そのすべてがエスカトーレ様の活躍ということになっている。
「これは私の個人的な感想ですが、何かコンプレックスのようなものを抱えていると感じました。それが何のか分かりませんが、『功績を上げ続けなければ、俺は終わる』とか言っていましたね。いつも何かに怯えているような感じで、誰かに脅迫されていたのかもしれません」
ネスカがまとめる。
「つまり、ピサロが処刑されたところで、黒幕にはたどり着かないし、トカゲの尻尾切りにされるということですね。となるとピサロから話を聞く必要があると思いますね」
アウグスト団長が言う。
「外交ルートを通じては無理だろう。国はすべてピサロに罪を着せるつもりだ。今もすべてピサロが裏で糸を引いていたことになっているからな。国としてはその方が都合がいい。実行犯はピサロで間違いない。だが、もっと別の奴らに指示されていたのかもしれんな・・・」
★★★
アウグスト団長たちには、別室で休んでもらい、私とネスカは話し合うことになった。
「ピサロの身柄を押さえることが一番早いね。少々強引な手にはなるけど」
「それって、テロリストが脱獄の手引きをする感じね。やるとしたら誰がやるの?」
「僕たちしかいないだろうね。流石にエスカトーレ様たちに協力は仰げないよ」
「じゃあ・・・」
結局、答えが出ないまま、朝を迎えた。
世界をこんな状況にした黒幕を暴きたい。でも私の仕事はそれだけではない。眠い目を擦りながらいつものように書類の束と格闘する。
あれ?これって・・・
私の目に留まったのは、諜報部隊からの報告書だった。そこにはこう書かれていた。
「奇跡の三聖女」が神聖ラドリア帝国の帝都に入った。帝都での滞在は概ね1ヶ月の予定。公演や聖戦を行うとの言あり。メンバーは、ハイエルフの姉妹、ドラゴン(ザスキア)「天使の聖女」、「歌の聖女」・・・
なぜ奴らがここに?
まあ、奴らになぜ?は通用しないことは長い付き合いだから分かる。
でも何か運命的なものを感じてしまう。
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