122 黒幕
聖女フェスが終わり、通常業務に戻って半年、アウグスト団長と聖女アイリーン、ゲハルトさんが私たちを訪ねてベルシティにやって来た。ネスカとともに応対する。
「今まで本当に世話になった。心から礼を言う。少し神聖ラドリア帝国の情報が入ったので、それを伝えに来た。前にも少し話したのだが、聖騎士団長のピサロが拘束された。そして、近々処刑予定のようだ」
ネスカが言う。
「ということは、すべて解決ということですか?それにしては浮かない顔をしていますね」
「流石だな、ネスカ王子は。まあ、相談というか依頼に来たのだが・・・ピサロを処刑したところで、あの国は変わらん。何かもっと根本的に解決しなければならんと思っておる」
「それは分かりましたが、もっと詳しく話をしてくれませんか?」
「そうだな・・・まずピサロの生い立ちから話すことにしよう」
ピサロは多種族共存派の有力者で、現ヤスダ教の教皇エビルスの長男だそうだ。普通ならば、教会関係の職に就くはずなのだが、帝国学園、私達でいうケーブ学園を卒業後、文官となった。その後なぜか、聖騎士団に配属されたという。
「我が知っているのは、聖騎士団に配属になってからだ。引継書には文官時代に不正を働いたとの記載があった。本人に確認したところ、『私はやってません。嵌められ、濡れ衣を着せられたんです』と言っていた。我は言った。『お前がやっていようがやってなかろうが、我らには関係ない。ここに来たからには、仕事で示せ。剣を持てとは言わん。お前なりに戦え』とな。すると、ピサロは何度もお礼を言ってきた。それがピサロとの出会いだった。
実際に仕事をさせてみると、ピサロは優秀で真面目な男だった。雑用も積極的にこなし、書類仕事も完璧だった。ゲハルトのような馬鹿ばかりの聖騎士団には、稀有な存在だった」
「団長!!そこで俺を引き合いに出すのはやめてください!!」
ゲハルトさんがツッコミを入れるが、アウグスト団長はゲハルトさんを無視して話を進める。
「我が聖騎士団長時代には、ピサロを厚遇した。まずいきなり補給部隊長に任命した。周囲の反発もあり、ピサロも辞退させてほしいと言ってきたが、我は『仕事で示して、黙らせろ』と言ってやった。それに奮起してピサロは仕事に打ち込んだ。半年経つ頃には、誰も文句を言う者はいなかった。それから、ピサロと我の関係は続いた。ピサロは騎士がやりたがらない書類仕事や雑用を完璧にこなしていた。次第にピサロがいなければ聖騎士団は回らなくなっていた。我もピサロに全幅の信頼をおいていた。そして、副団長に任命し、我の後継者として教えられることはすべて教えた。
聖騎士団長に指名する際、反対が多くあった。だが、我の独断でピサロを聖騎士団長に指名したのだ。ピサロならやれると信じていたのだが、見てのとおりだ。我が聖騎士団長を退いてから、ピサロに会ったのは一度きり、アイリーンを迎えに来た時だけだ。その時のピサロは、何か追い込まれたような顔をしていた。今でもあの時にもっと話を聞いていればと後悔しているのだ」
アウグスト団長は悲しそうな表情をしている。自分が手塩に掛けて育てた弟子が不始末をしてしまったのだから、そう思っても仕方がない。
「ピサロが聖騎士団長になってからは会うことはなかった。かなりの功績を上げていることは分かっていて、嬉しく思っていたのだが・・・ゲハルト、ピサロがその後どういう人生を歩んだのか話せ」
「分かりました。これでも俺は第一隊長として仕えましたからね。まずアウグスト団長が引退されてから、隊長クラスが言うことを聞かなくなりました。口を揃えて『文官上がりが偉そうに』とね。アウグスト団長、ピサロ副団長の時は最強でしたよ。武のアウグスト、知のピサロってね。その時俺は、一介の小隊長だったんですけど、酷い隊長とかになると公の場で、『おい、決闘するなら受けてやるぞ』とか言われたりね」
ネスカが言う。
「それでどうなったんですか?そんな状態なら上手くいくはずないでしょ?神聖ラドリア帝国が最大の領土を獲得したのは、ピサロが団長になってからですよね?」
「不思議なことに、ピサロ団長に反旗を翻していた隊長クラスは軒並み失脚しました。理由は様々です。不正がバレたり、遠征中に問題を起こしたり、女性問題とかもあったかな・・・まあ、そんなわけで俺たちのような若い世代が隊長に抜擢されたんですけどね」
私も質問する。
「ピサロ団長はどんな団長だったのですか?それにジョブは?」
「実は俺は尊敬していたんですよ。とりあえず、ピサロ団長の指示通りに動いておけば間違いなかったですからね。今でもそんなに悪い奴じゃないと思ったりもして・・・何も考えず、ピサロ団長の言うことを聞いていたのがよくなかったのかもしれませんね。
それとジョブですが、頑なに教えてくれませんでした。何でも超レアなジョブらしく、それを言うと嫉妬されて大変になるからと言ってましたね」
ネスカが言う。
「となると・・・「軍師」とか「賢者」とかかな?でも魔法は使えないようだし・・・」
再度、私は質問する。
「ゲハルトさんは、ピサロ団長のどういったところが凄いと思ったのですか?それとアウグスト団長時代と何か変わったところはありますか?」
「とにかく分析力が半端なかったですね。団長室なんか、足の踏み場のないくらいに書類が散乱していて、それでも全部どこに何があるか分かる感じでしたね・・・」
ネスカがツッコミを入れる。
「まるでクララの執務室のようだね」
「なんてこと言うのよ!!それは繁忙期だけでしょ!!」
「仲のいいお二人さんは置いておいて、話を続けますね。隊長クラスの首を挿げ替えた後は、諜報部隊を大量に増員しましたね。アウグスト団長時代の5倍です。何の調査をさせていたのかよく分からないんですけど、とにかく予測がピタリと当たるんですよね。だから、作戦なんかはほとんど被害を出さない。俺たちは最強だって、浮かれてましたね。どんな調査をしていたか教えてあげたいんですけど、書類仕事は部下に丸投げで、よく覚えてないんですよね、本当にこれが・・・」
ゲハルトさんは、アウグスト団長に殴られた。どうもゲハルトさんは魔族っぽい思考をしている。私も魔王軍で苦労したから、ピサロも苦労したのだと思う。
だったら、少し質問を変えてみよう。
「それでは、何か思い出に残ったり、印象深い作戦とかはありましたか?」
「やっぱり、獣人国を占領した時ですかね。あれで100年ぶりに長年の宿敵を属国にしましたからね」
神聖ラドリア帝国の南に獣人の国があった。今はもう国はなく、それぞれの種族ごとの自治区になっているようだが、そのことを言っているのだろう。
「もっと詳しく教えてください」
「俺たちは攻めろって言われた所を攻めただけなんで、詳しい戦術とかは分かりませんが、部族ごとの対立を煽って、仲違いさせて俺たちが攻めた時には、もう戦闘どころではなかったみたいでした。ほぼすべてが無血開城に近かったですね。まず補給線を潰し、戦えなくする。多少戦闘にはなりましたが、安全策を取り、大量の物資で住民を懐柔し、戦う意味をなくさせる。最後はどこも降伏してきました。激しい戦闘を予想していたんですけど拍子抜けでしたね。最後までゲリラ戦で抵抗していた奴らもいましたが、占領政策も完璧だったので、奴らに協力する部族もほとんどいなくなりました。そいつらがどこに行ったのか分かりませんがね」
話を聞いて、ぞっとした。
「ネスカ!!これって・・・」
「そうだね、ルータス王国が仕掛けられた作戦だね」
「そうだ!!思い出した。よくピサロ団長は『火に油を注ぐんだ。ちょっとだけね』と言ってました。獣人国の奴らは、元々部族同士が仲が悪く、頻繁に戦闘を繰り返していたようです。だから、俺たちが攻めた時も共闘することはしてきませんでした。逆に俺たちに協力してくれる部族もいましたしね」
ここまでで分かったのは、ピサロが情報戦が得意で、特殊なジョブを持っているということだった。
「ピサロの為人が知りたいのなら、アイリーンに聞くがいい。アイリーンのジョブは「カウンセラー」だから、人に対する分析は目を見張るものがある」
今度は、アイリーンから話を聞くことにした。
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