120 ロイター王国崩壊
聖女の認定を開始してから3年が経った。
私はというと、いつもどおり忙しい日々を送っている。
この3年で、聖女の戦いは激しさを増した。最近の流れは派閥を作り、それを大きくすることが主流になりつつある。まあ、私も派閥に加入しているんだけどね。
その名も「ケーブ学園OG会」だ。いつものメンバーに加えて、ルータス王国出身者やケーブ学園の卒業生を中心に加入している。特に活動はないけど、食事会を開いたり、新人聖女の悩みを聞いたりはしている。そんな中、今一番注目しているのは「謎の聖女団」だ。
面接で「謎です」を繰り返した聖女が中心となり、ロイター王国を中心に活動しているのだ。報告書を読む限りでは、かなり優秀な人物のようで、誰に対しても分け隔てなく接していて、非の打ち所がない人物のようだ。
彼女のお陰で、多くのロイター王国の国民が救われたことは確かだけど、それにしても怪しい。聖女認定協会としても、認定してしまっているから本当にヤバい奴だったら、責任問題になるかもしれない。まあ、これについては、経過観察だな。ゴンザレスも「ナダスの聖女」に同行して、「謎の聖女」の近くに行っているし、情報はすぐに入るしね。
同じ聖女関係でいうと、心配なこともある。それは、神聖ラドリア帝国の聖女が失踪して、もうすぐ2年を迎えるからだ。神聖ラドリア帝国の必死の調査にも関わらず、まだ見付かっていない。今のところ、最終目撃地点はこのベルシティで、神聖ラドリア帝国は「魔族に拉致された可能性が非常に高い」とう声明を発表している。
変なことが起きたら、全て魔族の所為にするのは止めてほしい。
神聖ラドリア帝国からすれば、アイリーンのように明らかに不利益となる存在であれば、認定を取り消して、新たな聖女を認定してもいいだろうけど、失踪となるとそうもいかない。また、短期間で何人も聖女を認定したのでは、神聖ラドリア帝国の聖女の価値も下がってしまう。どうするか対応を迷っているのだろう。
そして、一番の懸案事項は、「謎の聖女」とアイリーンが聖戦を行っており、近々決着がつくというのだ。「謎の聖女」もアイリーンも私はいいイメージを持っていないので、どっちの味方になるわけでもないのだが、心配なことには違いない。
とりあえず、ネスカと相談して、対応を協議しないとね。
私はネスカの執務室に報告書を取りまとめて、報告に向かった。
「クララが心配するのも分かるよ。だったら、見に行こうよ。治安が回復したから、三人娘やルシルさんは公演をしながらメサレムに向けて出発しているしね。それに僕たちはビッテさんに乗って行けばすぐだしね」
最近のドラゴン御一家とハイエルフの姉妹の行動について触れておくと、ベンドラ様とパミラ様は一旦、東大陸に帰っている。ご息女のザスキア様とハイエルフの姉妹は三人娘と行動を共にし、ビッテさんは私たちと行動を共にしているのだった。
3日後、引き継げる仕事をすべて引き継ぎ、私たちはメサレムに向けて出発した。この旅に同行するのは、エスカトーレ様、レニーナ様、ミリアといういつものメンバーで、ギルドの設営のため、レベッカさんとガルフさんも同行している。
移動はビッテさんにお願いした。そうは言っても、途中までは鉄道が通っているから、鉄道が通っていない区間だけなんだけどね。
移動中は「謎の聖女」とアイリーンの話で盛り上がる。
ミリアが言う。
「あのアイリーンがメサレムで真面目になったなんて信じられないわ」
「でもテンプル騎士団のアウグスト団長の話だと、昔は優しくていい子だったそうよ。私からすれば、「謎の聖女」のほうが心配かな・・・報告書を読む限りでは、本当に凄い功績を上げているんだけど、顔を隠して活動するなんて、ちょっとどうかと思うのよね」
ここでエスカトーレ様も会話に入って来る。
「私はこれでも「謎の聖女団」のことを評価していますよ。知り合いの聖女も多く在籍していますし、有名ラーメン店の「こってりラーメンの聖女」リンリンさんのお弟子さんも参加していますからね。ゴンザレスさんも一緒に行動していますし、顔を隠しているだけで、悪い人だと決めつけないほうがいいかと・・・」
レニーナ様も言う。
「そうですね。でも聖戦の内容が「どれだけ民を幸せにしたか」というのが不思議ですね。一体どうやって決着をつけるんでしょう?メサレムの民に聞けば、間違いなくアイリーンさんを選ぶでしょうし、「謎の聖女」のお膝元であれば、「謎の聖女」でしょうし・・・」
これにミリアが反対の意見を述べる。
「私は「謎の聖女」だと思いますね。だって、いくら勝負に勝つためだとしても、獣王国ビーグルと交渉して、メサレムに鉄道を敷くなんて普通は考えられませんからね。何か秘策でも持っているかもしれませんよ」
そうなのだ。
「謎の聖女」は物凄く功績を上げている。アイリーンはメサレムだけだが、「謎の聖女」の活躍は、ロイター王国全域と小国家群にも跨る。それに「謎の聖女団」に在籍している聖女の数も多いしね。
ただ、私が気になったのはネスカが何も言わないことだ。会話を聞いてニヤニヤしているだけだった。こういうときは何か企んでいることが多いんだけどね。
そんな話をしている内に、メサレムに着いた。
領主館を訪ねるとアウグスト団長とアイリーンに出迎えられた。アイリーンに会うのは、勇者パーティーとして活動していた時以来となる。
アイリーンは、私たちに会うなり、謝罪してきた。
「あの時は本当に申し訳ありませんでした。魔族と交戦しなければ、暗殺部隊に皆さんを殺させていたと思うと会わせる顔もありません。それで、明日の「謎の聖女」との聖戦の結果発表の際に私はすべての罪を告白し、断罪されようと思っています。今はどうであれ、多くの人を騙して、死地に送り込もうとしたことは間違いありませんからね」
アウグスト団長が言う。
「ずっとこの調子だ。貴殿らからも何か言ってくれないか?」
皆で話を聞いたが、アイリーンの決意は固いようだった。
そして、いよいよ聖戦の結果発表の時を迎える。
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