118 挫折した聖女 2
ベルシティの聖戦は、私が習った聖戦とは全く違っていました。どうやら、聖女同士がテーマを決めて、競い合うようでした。今回はラーメン対決で、私たちが審査員をすることになりました。結果は甲乙つけがたく、判断に迷いました。
「申し訳ありません。私にはどちらも美味しく、勝敗を判定することはできません。ご期待に沿えず、すいません」
親衛隊の皆も同じようなことを言いました。
「結局、勝負はつかなかったね・・・」
「そうだね・・・実は、しばらくは勝負できなくなるんだ。明日、町を出る。だからリンリンと決着をつけにきたんだけど、また今度会った時にお預けだね・・・」
「私はもう少し、ここで腕を磨くよ。じゃあ、気を付けてね。同志ランラン」
「またね・・・永遠のライバル、リンリン」
二人は抱き合って、別れを惜しんでいました。何かいいものを見た気がしました。
ランランが帰った後にリンリンが言いました。
「聖戦は親睦の意味もあるんだ。何の聖女になるか迷っているなら、聖戦を募集している聖女と実際に聖戦をしてみたらいいよ。自分の意外な才能が見付かるかもしれないからね。実を言うと、私は最初「カレーの聖女」を目指していたからね。人生なんてそんなもんだよ」
「ご親切にありがとうございました。もし私が「カレーラーメンの聖女」になったら、そのときは聖戦を申し込みに来ます」
「それはおもしろいね。じゃあ、健闘を祈るよ。しばらくこの町にいるなら、またラーメンを食べにきてね」
★★★
次の日から、私の聖戦はスタートしました。とりあえず、片っ端から聖戦に勝ち、すべて傘下に入れてしまえばいいのだと考えました。しかし、これは甘い考えでした。最初に戦ったのは「鬼の聖女」でした。魔族であるオーガ族の女性で、体も大きく筋骨隆々でした。しかし、その辺にいる聖女なんて大したことはないと思い、戦うことにしました。軽く一捻りにしてあげますわ。
「ほう・・・いい度胸だな。最近は誰も戦ってくれなくてな。退屈してたんだよ。聖戦のやり方は普通の模擬戦だ。それでいいか?」
「それで構いません。これでも多少の心得がありますからね。もしを怪我をしても私が治して差し上げますから、心配しないでください」
「言うねえ・・・口だけじゃないことを祈るよ」
勝負はすぐにつきました。一捻りにされたのは私の方でした。
「才能はまあまあだ。けど、訓練も実戦経験も足りてない。ちゃんと修行して出直して来な!!」
この私が、その辺にいる訳の分からない聖女に勝てないなんて・・・
プラークが慰めてくれました。
「あのオーガの女はかなりの武人です。私が戦っても勝てるかどうか分かりません。しかしエルザ様、聖女として相応しいかはまた別です。エルザ様にはエルザ様の良さがありますから」
「ありがとう、プラーク。相手は訓練を積んだ猛者だったのですね。少し油断しました。もう遅れは取りません」
続いて戦ったのは、「傭兵聖女団3番隊」でした。こちらは傭兵国家ロゼムから来ている人たちで、先ほどのオーガみたいに一捻りにされたわけではありませんでしたが、それでも経験の違いを見せつけられました。
「そこそこ才能はあるから、ウチに来ないか?一端の傭兵にしてやるよ」
更に「ナダスの聖女」と呼ばれる熊人族の女性とナダスで聖戦をしましたが、こちらも何度も投げ飛ばされてしまいました。ナダスとは、素手で戦い、相手を円形の土俵から出すか、降参させるかすれば勝負が決まる単純な競技です。だから、簡単に考えていたのですが、かなり奥が深いことが分かりました。
赤髪の親衛隊長さんが言いました。
「それなりに君は才能があるようだ。よかったらナダス愛好会に入ってくれ」
私はあまり近接戦闘の才能がないことが分かりました。ならばと魔法で勝負することにしました。でも「闇の聖女」と呼ばれるダークエルフに完敗しました。歌を歌っても「歌の聖女」には勝てませんでした。
ここまで連敗すると、何が何でも1勝はしたいと思って、誰彼構わず聖戦を吹っかけました。「大食い聖女」と大食い対決をしたり、「新缶詰聖女」とは暗算対決をしました。それでも結果は連戦連敗です。
半ば自棄になった私は、聖女が多数在籍する「聖女の御奉仕」というお店で、ご奉仕対決を考えましたが、これはプラークに強く止められました。
私は、自分で思っていたほど、大した才能がなかったのです。「まあまあ」「そこそこ」「それなり」・・・それが本当の私で、それを家柄や国の力で、嵩上げしていただけだったのです。私は打ちひしがれました。もう「無能な聖女」で登録しようと思ったくらいでした。
そんなとき、褐色肌で黒髪のイケメンが声を掛けてきました。プラークはかなり警戒していましたけど。
「聖女さん、お悩みのようだね。僕は聖女認定協会の会長をしているネスカと言います。会長をしている傍ら悩める聖女のサポートもしているんだよ。せっかく聖女を目指してベルシティに来てくれたんだから、成功してほしいと思うんだ」
若干、胡散臭さを感じましたが、私は藁にも縋る思いで、彼に相談しました。
「なるほどね・・・多分それは相手の土俵で戦っているから上手くいかなかっただけだよ。自分が得意なことで勝負すればいいんだよ。それとベルシティで戦っていくには、少しインパクトに欠けるね。嫌かもしれないけど、少し奇抜なことをしてもいいかもしれない。僕に少し考えがあるんだけど・・・」
私は彼のアドバイスに従って、修道服にベールで顔を隠し、「謎の聖女」と名乗ることにしました。変更は3回まで可能ですから、失敗してもやり直せばいいだけです。登録はすぐに終わりました。具体的な活動なのですが、私が1年間やって来た慈善活動を行うことにしました。辺境と呼ばれている村や魔物被害、疫病で苦しんでいる村々を中心に献身的に活動を行いました。
一つ違ったのは、ネスカ会長に助言されたことを忠実に守りました。例を挙げると、実は完全に素顔を隠すよりも、ごく偶に偶然を装って素顔を見せてあげると喜ばれると言うので、試しにやってみました。この効果は絶大でした。
「凄い美少女だ!!」
「何か偉い人なんだろう」
「事情があって、素顔を見せられないのに・・・有難い」
そして、ネスカ会長のアドバイスで一番驚いたこと、それは国際的な聖女、つまり3つ以上の都市や国で、聖女認定されるまで、聖戦はしないというものでした。理由を聞くと、まずは聖女としての自分を確立することを優先するようにと言われました。
私の場合、神聖ラドリア帝国とベルシティで認定されているわけですから、実質後一つです。このまま、地道に活動していけば、半年も掛からずにできるでしょう。
実際には1年掛かりました。というのも、神聖ラドリア帝国は本名で登録しているので、「謎の聖女」としては認定を受けていないのではないかという議論が生まれ、念のためもう1箇所で認定されるように活動をしていたからです。
1年間小国家群の辺境を中心に活動した結果、目標どおり、小国家群の2つ都市が私を聖女認定してくれました。1年も地道に活動していると、それなりに有名になりました。何度か訪れた村では、大歓迎を受けました。懐かしい感じがしました。これは神聖ラドリア帝国に居た時と同じ反応です。それを国の力も家の力も使わずにここまでできたことで、私は自信を取り戻しました。
そんな時です。事件が起きました。
プラークが慌てて報告に来ました。
「エルザ様!!大変です。我々の偽物が出ました。不届きな奴らにはお灸をすえてやらねば!!」
とりあえず、落ち着くように言って、私たちは確認に向かいました。そこには体が大きく、私には似ても似つかない聖女がいました。プラークが問い詰めます。
「実は・・・私は容姿に自信がなく、でも「謎の聖女」様のような活動がしたかったので真似をしていました。本当にすみません」
「では、今すぐにやめろ」
「はい・・・」
しかし、可哀そうな彼女を見ていると私は、活動を続けていいと許可を出しました。
「プラーク、悪いことをしているわけではありませんから、許してあげましょう。それに彼女はベルシティから「秘密の聖女」として認定を受けていますしね・・・」
彼女を皮切りに多くの偽物が誕生しました。彼女と同じように私に許可を求めて来る者はいいのですが、中には「本家謎の聖女」を名乗って、私たちを逆に偽物呼ばわりする輩も出てきました。
プラークたちは「聖戦だ!!」と騒ぎましたが、私は、ネスカ会長に相談することにしました。
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