116 聖女戦国時代 2
自分で企画した今回の企画だが、私を苦しめることになる。私は「缶詰聖女」であると同時にベルシティ聖女認定協会の副会長にされてしまった。会長はネスカだ。ネスカは各種イベントに引っ張りだこで、私は事務仕事全般を取り仕切ることになる。ただでさえ、忙しいのにである。
その中でも、一番の厄介事は聖女の認定作業だ。ベルシティで聖女と認定される条件は下記のとおりだ。
1 女性であること
2 親衛隊(日本で言うファンクラブ会員)が2人以上いること
3 登録費金貨1枚(日本円で約1万円)を支払うこと
4 聖女として、相応しい行動が取れること
5 月に1回以上の活動実績があること
1と4は置いておいて、ファンが全くいなければ聖女としてやっていけないし、金貨1枚すら払えないのなら、もう辞めたほうがいいと思う。これでも条件が厳しすぎるという輩はいるけどね。
しかし、普通に考えてこれはかなりハードルが低い。夜のお店のお姉さんが、お客さんを集めて月に1度、食事会を開くだけでも成り立つし、学生が仲間たちと一緒に月の1度ボランティア活動をするだけでも成り立つ。
なので、引っ切り無しに聖女の希望者がやって来るのだ。
ほとんどは、簡単な審査だけで認定するのだけど、中にはびっくり人間もやって来る。私がどれだけ苦労しているかをこれから語るとしよう。
まずはゴンザレスだ。女装してやって来て「ナダスの聖女」として活動すると言い出した。流石にこれはネスカとともに説得して止めさせた。しかし次の日、熊人族のクマーラさんという女性を連れて、再度申請に来た。ゴンザレスとナダス愛好会のメンバーが親衛隊となり彼女を支えていくという。ネスカに判断を仰ぐ。
「もうなんでもいいんじゃないか?まだマシなほうだよ」
それはそうだ。こんなの序の口だった。
次はハイドンだ。虹色に輝く謎のスライムを持ってきて、「スライムの聖女」として登録すると言い出した。そもそもスライムに性別なんてないし、これを認めたら次々と意味不明な魔物を登録する者が出て来る。当然却下した。
しかし、ハイドンは諦めず、スライム研究所で会計担当をしているササラさんというサキュバスの女性を連れてやって来た。ササラさんは魔王国ブライトンのエサラ財務大臣の妹で優秀な女性だ。しかし、面接で意味深なことを言い出した。
「ローションスライムから極上のローションが取れるんですよ。それをマッサージに使って・・・ハイドン所長も絶賛してくれています。天にも昇る気持ちよさだって・・・」
前世を含めて恋愛未経験の私には、刺激の強い内容だった。というかハイドン・・・オルガ団長一筋じゃなかったのか?
「それはそうと、サキュバス仲間を集めて、お店をオープンすることにしました。ネスカ王子も是非来てくださいね!!」
調査したところ、「聖女の御奉仕」という夜のお店で、現役聖女が多数在籍というのが売りのようだった。私はネスカに言った。
「行ってもいいけど、一生絶交するからね」
「行かないよ。僕はクララの親衛隊長だからね」
本当の所はどうか分からないけど、まあ、信じてやることにする。
そして今日も意味不明な聖女の面接を行う。今日は修道服にベールを纏った聖女とその親衛隊がやって来た。申請書を見ると「謎の聖女」と記載してある。とりあえず、定型的な質問をしてみる。
「「謎の聖女」ということですが、どういった活動をされているのでしょうか?」
「謎なのでお答えできません」
「本名、出身地などを教えてください」
「謎です」
「なりたい聖女とか、目標にする聖女とかはいますか?」
「謎です」
仕方なく親衛隊に質問する。
「親衛隊の皆さんは、こちらの聖女様のどういった点に共感されたのですか?」
「秘密だ!!」
「今後はどういった活動をされる予定ですか?」
「秘密だ!!」
一体何が目的なんだ?イカれた集団なのか?
ネスカを見やるとニヤついて言った。
「認定してあげなよ」
ネスカも投げやりになってしまったのだろう。
「分かりました。登録料の金貨1枚をお納めください。今日から活動ができます」
謎の集団を認定してしまった。
★★★
そんな私にも聖女としての活動がある。執務室で仕事をしていたところ、文官から報告を受ける。
「クララ大臣、聖戦の準備が整いました。そろそろ出発を」
「分かりました。すぐに行きます」
聖女用のドレスに着替え、聖戦の決戦の地に向かう。町の広場だ。
聖戦について、少し説明すると、本来聖書にある聖戦は信者全員が武器を取り、敵に立ち向かうことだ。神聖ラドリア帝国はこれを利用し、多くの信者を死地に送り込もうとしている。なので、私たちは聖戦の意味を捻じ曲げることにした。相手が聖書や教義を捻じ曲げたのだから、こっちがそれをしても文句は言わせない。
私たちが定義した聖戦は、聖女同士が平和的に競い合うこととした。模擬戦でもナダスでもいいし、料理対決でもいい。負けたからといって聖女を辞めなくてもいい。これが普及すれば、たとえ神聖ラドリア帝国が聖戦を発動したとしても、「ふうん、ところで誰と誰が、何で戦うの?」くらいのレベルになると思う。
なので、私も月に1回は聖戦をしているのだ。ほとんどが缶詰の売り上げ対決だけどね。今日の相手は、ゴブリン族のゴブゴブ商会のゴブミちゃんだ。5歳の女の子で「本家缶詰聖女」なのだ。余談だが「缶詰聖女」は多く存在する。例を挙げると「元祖缶詰聖女」、「初代缶詰聖女」、「新缶詰聖女」などだ。どれもバックに缶詰を扱う商会が付いている。
これはこれでいいと、ネスカは言う。
「聖女自体、何かのプロパガンダだったり、商品の販売促進に利用されると多くの人に分かってもらったほうがいいからね。結果的に神聖ラドリア帝国の聖女の価値を貶めることになるしね」
まあ、そんなことは置いておいて、とりあえず勝負は勝負だ。絶対に負けられない。
しかし、ゴブミちゃんの愛くるしさには勝てず、惜敗する。お互いに握手を交わす。今回は負けたほうが、イベント参加者に缶詰を使った料理を振る舞うことにしていた。
待てよ・・・これってベル商会の缶詰を食べたいイベント参加者が画策したんじゃ・・・
止めておこう、負け犬の遠吠えは。
今日もベルシティは各地から多くの聖女が集まり、市内各地で聖戦が繰り広げられている。また、聖女認定の動きは違った展開を迎える。聖女たちの間で、認定されている都市や国の数を競うようになったのだ。そして、3箇所以上で聖女認定をされて初めて、一流の聖女と認められる。
今のところ「風の聖女」エスカトーレ様がトップだけどね。ベルシティ、ルータス王国、獣王国ビーグル、傭兵国家ロゼム、マドメル魔法国、学園都市、その他小国家群の都市4箇所の計10箇所だ。今のところ、国際的に一番有名なのはエスカトーレ様だろう。
ベルシティ以外はそれなりに認定基準が高かったり、独特だったりするからね。魔王国ブライトンなんて、現役聖女が「鬼の聖女」オルガ団長と「闇の聖女」スターシア団長の二人だけだし、認定基準が現役聖女に模擬戦で勝つことが条件だから、実質無理だろうしね。
そんなこんなで、ベルシティは凄く景気がいい。私は過労死寸前だけどね。
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