112 エピローグ
私たちは地下の闘技場に移動する。ネスカが言うには、特別な結界が張られていて、思いっきり戦っても大丈夫な場所らしい。ダンジョンのボス部屋をアレンジして作られたのかもしれないとも言っていた。
一騎打ちが始まる前に小声でネスカが言う。
「母上、少しは手加減をしてくださいよ。せっかく理解者を確保できたのに、殺してしまっては元も子もありませんからね」
「大丈夫ですよ。私もブライトン王に習って、剣をへし折ってあげますよ」
アウグスト氏が言う。
「聞こえてますぞ!!さあ、勝負です!!」
アウグスト氏は元聖騎士団長だけあって、かなりの使い手だ。大剣を振り回して、魔法まで使って来る。レベッカさんよりも強いかもしれない。しかし、魔王様は別格だった。最初は遊んでいたのだけど、いきなりファイアブレスを吐き出した。
「ああ、楽しい!!もっと来なさい」
アウグスト氏は防戦一方だ。ネスカが言う。
「母上は最強生物なんだ。竜人族は「部分竜化」という体の一部を竜化したり、一部の竜の能力を使える。その中でも母上の実力は群を抜いているけどね。竜人族が魔王軍にいないのは、やり過ぎてしまうからだ。魔物を倒しても、町が更地になったら元も子もないだろう?因みに僕と姉上たちと三人で母上と戦っても、遅滞戦闘をするのがやっとだからね」
なるほど・・・ダークエルフの里で魔王様が「最悪の場合は、やりたくはありませんが、私が何とかしましょう」と言っていた意味が分かり、ぞっとした。こんなんだったら、森ごと消滅させてしまうかもしれない。
そして、決着はつく。
「楽しかったのですが、この後も予定が詰まっていますので、この辺で。ドラゴンナックル!!」
竜化した拳がアウグスト氏の大剣に命中、エランツと同じように大剣はへし折られた。
「参りました!!一騎討ちを受けて下さり、ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったですよ。私もブライトン王に習って剣を贈ります。武器職人コンテストの優秀作品ですから、それなりの値打ち物ですよ」
因みにアウグスト氏に渡した大剣は、ドシアナの作品だった。忙しい合間を縫って、コンテストに出品していたようだ。性能だけでなく耐久性も評価されたらしい。こんなところでも、ドシアナの成長が見られて嬉しく思った。
その後、魔王城で1泊し、ベルシティに帰還した。そしてアウグスト氏たちともここでお別れだ。
アウグスト氏が言う。
「本当にありがとう。我の進むべき道が見えた。心から礼を言う」
ゲハルトさんも続く。
「俺たちも吹っ切れたよ。これからは聖書とか論文とかも読むようにするよ。じゃあ、団長、帰って一暴れしてやりましょう。そんで今度はレオルドの野郎に勝たないとな。魔王様は無理だけど・・・」
隊長さんたちも打ち解けると気さくでいい人たちばかりだった。別れ際にアウグスト氏が言う。
「これも何かの縁だ。少し頼みたい奴がいるのだが、無理はせんでいい。少し気に掛けてやってくれれば・・・」
★★★
その後の話を少しする。帰還したアウグスト氏は神聖ラドリア帝国から脱退を宣言し、テンプル騎士団として活動を開始した。団長はもちろんアウグスト氏だ。それに5人の聖騎士団の隊長が聖騎士団を脱退して、これに参加する。更に呼応して多くの騎士たちも加わっている状況だ。
神聖ラドリア帝国は、聖騎士団の約半数が離脱したことや、テンプル騎士団の本拠地が、丁度小国家群との国境付近にあるという地理的状況などから、すぐに対処できないでいる。なので、メサレムに一般信者を装って、派遣している部隊を招集して対応に当たるようだ。
これで、獣王国ビーグルとロイター王国の紛争は事実上回避された。全く斜め上の展開になってしまったが、これも「聖女」である三人娘の力なのかもしれない。私も少し優しくしようと思ってしまう。そんな三人娘だがハイエルフの姉妹とともに演劇の次回作の製作に嵌っている。今回は前作が大ヒットとなったので、多くの脚本家やスタッフが集まっていて、私の出る幕はないけどね。
国際情勢に話を戻すとロイター王国はボロボロだ。ルータス王国、魔王国ブライトン、獣王国ビーグル、小国家群とは外交問題を抱えており、頼みの綱の神聖ラドリア帝国も国内問題や宗教問題を抱え込み、支援なんてできる状態ではない。
なので、メサレムを中心に国土は荒廃している状況なのだ。盗賊も多く出没し、各国は盗賊や討伐できなった魔物が自国内に侵入しないよう国境沿いに警備隊を派遣するのみで、ロイター王国からの援助要請はすべて撥ね付けている。
人道的には支援するべきだと思うが、散々騙して支援金を巻き上げておいて、都合が悪くなると支援を求めるなんて、虫が良すぎる。これは私だけではなく、各国の国民もそう思っている。今のまま支援するなんて、国民感情が許さない。
私が神様なら、聖女を派遣するのにとは思うけどね。
まあ、そんな感じでとりあえずの危機は去ったのだった。
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次回から最終章になります。




