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【祝!300万PV】転生した底辺OLが、雑用スキルで異世界を無双する話  作者: 楊楊
第六章 代理戦争

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109 エランツの思い

「幸せのスライム作戦」は当面の間、中止となった。

 これは三人娘とハイエルフの姉妹たちが、誤爆したからだけではない。まず、その事件について触れる。結論から言うと「聖女の奇跡」が発動したのだ。ご褒美を間違えて投下した神聖ラドリア帝国にあるエランツ派の教会だが、実はエランツ本来の教えを忠実に守り、清貧を旨として鍛錬と自己研鑽に努める集団だった。詳しく調べたところ、そもそもが修行施設のような場所で、周辺の村以外との交流はないものの、付近の住民からは評判が良かったそうだ。魔物が出たら討伐してくれるし、怪我人が出たら格安で治療してくれていたらしいからね。


 一方、誤爆した小国家群の多種族共存派の教会だが、実は奴隷密売組織だった。表向きは、多種族共存派の教会として、獣人や亜人たちを集め、頃合いを見て密かに奴隷として売り飛ばしていたのだった。結果としては良かったが、もし計画通りに任務が遂行されていたらと思うとぞっとする。

 これを重く見た私たちは緊急会議を行った。エスカトーレ様が言う。


「やはりこの作戦は中止しましょう。そもそも私たちが神のように善悪を決めて、神罰を与えたり、神の恵みを与えることが、おこがましいことだったのです」


 それはそう思う。メサレムに集結していたエランツ派の集団は、明らかに軍事行動を目的にしていたから、こちらから攻撃されても文句は言えない。盗賊が討伐されても文句を言えないのと同じだ。また、私たちが最初に神の恵みを与えた教会は、自信をもって素晴らしい教会だと言える。何年も付き合いがあるし、長年スラムのために頑張ってきたからね。だが、他の施設はどうだろうか?完全に間違った活動をしていたとは言い切れないのではないだろうか?


 魔王様も同じ意見だった。


「私もそう思います。エランツ派はすべて悪だと決めつけるのは、獣人や亜人を迫害してもいい、という思想に通じるものがあると思います。なので、明確な敵対行動を取る相手以外には、こちらから攻撃することはせず、この作戦は当面中止とします」


 そんな「幸せのスライム作戦」だったが、思わぬ効果をもたらした。ご褒美セットに入っていたベル商会とギールス商会の商品が、かなり売れ行きが伸びたので、これに便乗する商人が続出したのだ。勝手に自分の商会の商品を小箱に詰め込み、偽装したヤスダの手紙とともに教会や孤児院に送りつける。真相を知らない貰った方は喜ぶし、送った方の商会も儲かる。意外にWIN-WINな状況になってしまった。また、これに便乗した貴族も出現する。施設に寄付をして、「絶対神ヤスダの代わりに我が褒美を与えてやろう」とか言う勘違い貴族も出て来た。誰にも迷惑を掛けてないし、寄付すること自体はいいことだから、とりあえずよかったと思うことにしている。


 そして、エランツ派の施設にもご褒美が届いたことで、エランツ派も混乱する。悪魔に魂を売った邪教徒から狙われているという設定がグラついたのだ。そして、エランツ派の中にも分断が生まれた。「我々は何か間違った行いをしていたのでは?」と自己批判する者やとにかく修行に励むことを主張する者も多く出て来たという。なので、エランツ派の活動は停滞している。


 そんな状況を考えると「幸せのスライム作戦」は結果だけ見れば大成功だった。ただ、本当に運が良かっただけだと思うけどね。


 ところで、問題を引き起こしたハイエルフの姉妹と三人娘だが、この事実は知らせていない。少し反省させるためだ。罰として、魔王城の資料室の整理を命じている。これは私が提案したことで、何か解決のヒントになるような物が見付かればと思ってのことだった。あの三人娘なら、私たちが思いもよらない方法で解決してくれるかもしれないからね。



 ★★★


「幸せのスライム作戦」は中止になったが、その効果もあり膠着状態に戻った。戦争のないことが平和と定義すれば平和なのかもしれない。根本的な解決には至ってないけどね。

 そのような状態になったので、また通常の業務に戻る。やることは色々あるが、やはりヤスダやブライトン王をもう少し研究してみようと思う。ヤスダの手記を見る限り、悪い人ではないのだが、どうも行き当たりばったりというか、計画性が全くない。思わぬところで思わぬことをしていることは十分にあるからね。


 そんなことを思いながら、とりあえず書類仕事を片付ける。そんなとき、私を訪ねて来た集団がいた。担当の文官が伺いを立てに来た。


「神聖ラドリア帝国のテンプル教会の方が来られています。用件は「真理を求めに来た」と言っています」


 テンプル教会・・・間違えて、ご褒美を与えた教会じゃないか!!


「少し対応を協議します。ネスカ王子とエスカトーレ様にお声掛けをしてください」


 すぐに来てくれたネスカとエスカトーレ様とで協議を行った。結局、護衛を多めに配置して会うだけ会ってみようということになった。

 そして現れたのは、アウグストと名乗る老人とその従者5名だった。アウグストと名乗る老人もその従者も聖職者というよりは、武人といった雰囲気だった。特にアウグストと名乗る老人は、素人の私から見ても相当な実力者だと思う。


「急の訪問に対応していただき感謝する。我はアウグスト、エランツの教えを忠実に守る者だ。この度はクララ博士に教えを請いに参った。クララ博士の発表された論文を拝読し、直接話を聞いてみたかったのでな」


 私の論文は、エランツ派にはあまり評判が良くないんだよな・・・

 文句を付けに来た可能性も否定できない。


「まず私の論文ですが、単に魔王城の資料室にある文献をまとめ、発表しただけです。ですので、誰かの教えを否定したり、逆に称賛する意図はありません。ただ、資料を分析すると絶対神ヤスダが魔王国ブライトンの初代王妃である可能性が高いという推論に達しただけのことです。それでもよければ、お話をさせていただきます」


「それで構わん。では我がエランツ派について、どう思われる?」


 おいおい・・・いきなり直球で来たな・・・これは逆に答えづらい。無意識にネスカに目で助けを求めてしまう。


「クララ博士は、魔王国ブライトンの大臣でもあり、このベルシティの領主の娘でもあります。政治的な立場もありますので、そちらの意図をまず聞かせてください」


 流石ネスカだ。ここで不用意に何か言って、国際問題になったら大事だ。


「政治的な意図などない。我らは真理を求めている。その上で我らの教えを否定するなら、してもらっても構わん。それで我らの信仰心が変わることはない」


 ネスカが耳打ちをしてくる。


「多分、まっすぐな人だと思う。正直に言っても大丈夫だよ」


 ネスカがそう言うなら・・・


「分かりました。ではこちらも単刀直入に言います。エランツ派の教えについてですが、資料を分析する限り、どこかの時点で教えを捻じ曲げられたと考えています。今のエランツ派の教義は、開祖であるエランツ氏の思いとはかけ離れていると思われます」


 この発言で、アウグスト氏の従者が殺気立つ。それに呼応して、こちらの護衛たちも緊張を走らせる。


「馬鹿者が!!我らは教えを請いに来た立場だ。意に添わぬことがあっても態度に出すな!!修行が足りんぞ!!」


 アウグスト氏は従者たちを怒鳴った。そして話を続ける。


「失礼をした。では、開祖エランツはどのような人物であったのだろうか?」


 これも正直に答える。


「あくまでも資料によれば、曲がったことは嫌いで、自分にも他人にも厳しい人物だったと思われます。悪く言えば、融通の利かない頑固者といった感じでしょうか。ヤスダもマイモッダ氏の弟子の中では一番目を掛けていたと思います。ヤスダの手記には随所に「もっと力を抜いて」とか「その辺は曖昧でいいのに」という文言が出てきます。これは私の勝手な推測ですが、不器用だけど優しい人だったのではないかと思います」


 しばらく黙り込んだアウグスト氏は言った。


「貴殿は信頼できる人間のようだ。こちらも腹を割って話をしよう」


 よく分からないけど、なぜか認められたようだ。

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