103 一触即発
ベルシティには三人娘の他にドラゴン御一家とハイエルフの姉妹、遅れて合流したドラゴンのビッテさんもついてきた。三人娘はいるだけで、その町が繁栄するから断る理由もないしね。それとドラゴン御一家とハイエルフの姉妹は魔王国ブライトンの最重要国賓だから、魔王様とチャーチル様も同行しているのだ。非常に豪華なメンバーだ。
そんなところへ、ビーグル王と傭兵国家ロゼムの五代目傭兵王ロドスが連れ立ってやって来たのだった。予想外のメンバーに私たちは少し驚いた。二人から事情を聞く。
ビーグル王が言う。
「実はロイター王国のメサレムに集結しているイカれた連中のことで相談に来たんだ。あの自称聖女とやらが一度、ウチに来てな。とんでもない要求をして帰っていきやがった・・・」
その要求というのは、多額の賠償金を支払い、ただちにロイター王国への併合、主要な鉱山資源の引き渡しだった。当然、受け入れることはできないので、追い返したそうだ。
「問題は国民感情だ。独立直後にそんな要求をされてみろ。ただでさえウチは血の気の多い奴がいっぱいいるんだ。やられる前に攻めちまえって声も大きくなりつつある。そうなってみろ、何代にも渡って屈辱に耐えてきた努力が水の泡だ」
ロゼム王が続く。
「ビーグル王から小国家群への加盟申請があったんだが、各国の承認が得られない。俺たちも一枚岩じゃないし、神聖ラドリア帝国寄りの国家も都市もあるからな。そもそもやられたら、みんなでやり返すってのが小国家群の基本戦略だ。紛争を抱えている地域を入れようって国の方が少数なんだ」
ネスカが言う。
「自称聖女のアイリーンはわざと獣王国ビーグルを怒らせて、紛争でも小競り合いでも起こさせようというのがその狙いでしょうね。小国家群でこれ以上の信者の流入を止めることはできないんですか?」
「それは無理だ。神聖ラドリア帝国は、「信者の信仰の自由は最大限保証するし、国とは関係ないからこちらから強制的に流入は止められない」と白々しいことをぬかしやがる。「お前らが裏で糸を引いてんだろう」って怒鳴りそうになったぞ」
一触即発の危険な状況のようだ。
ここでなぜか話に加わったハイエルフの姉妹が言う。
「だったら手伝ってあげるよ。ブライトンもそんなことで悩んでいたからね」
「そうだね。そのとき私たちとベンドラたちで手伝ってあげたんだよ」
私は思わず尋ねた。
「それってまさか・・・手記に書いてあった魔物を国境沿いに配置するというやつでしょうか?」
「そうだよ」
「久しぶりにやってあげてもいいよ」
ネスカが慌てて言う。
「ちょっと検討をさせてください」
★★★
ネスカがビーグル王とロゼム王に作戦の概要を説明する。魔王国ブライトンの成り立ちや創世記の防衛戦略についてもだ。二人とも驚きを隠せない。
「とんでもないことをやってたんだな・・・」
「うむ・・・我らだけで、判断できることではないぞ」
魔王様やチャーチル様、お父様、関係閣僚を集めて緊急会議を行った。当然、結論はでない。
魔王様が言う。
「流石に賛成はできませんね。我々はそれで千年近くも魔物被害に悩まされてきたのですからね。小競り合いがなくなるというメリットはありますが・・・」
ネスカも続く。
「魔物なんて、こっちの言うことなんか聞きませんし、やるとしても最終手段ですね」
そんな時、外から歓声と悲鳴が上がった。何事だろうと思っていたところにビッテさんが駆け込んで来た。
「大変です!!ブリギッタとブリギッテ、それにお兄様やパミラさんたちが・・・」
慌てて、私たちは外に飛び出した。そこにはドラゴンの姿になったベンドラ様たちがおり、その傍らに三人娘とその親衛隊が取り囲み、その更に外側を市民たちが囲んで、歓声を上げていた。
ハイエルフの姉妹に事情を聞く。
「これから魔物を撒きに行くんだ」
「そうだよ。久しぶりだから、ワクワクするよ」
「ちょっと待ってください!!今のそのことについて会議を・・・」
言い掛けたところで遮られた。
「ヤスダたちがいいって言ってたよ」
「そうだよ。私たちはお願いされた方だよ」
三人娘はというと、親衛隊や市民を前に演説をしていた。
「これから私たちは、イカれた邪教徒どもに鉄槌を下しに参ります!!」
「彼らドラゴンの協力の元、奴らを皆殺しにしてやります!!」
「さあ、今こそ立ち上がるのです!!」
私からすれば、アンタらが邪教徒だと思ってしまう。
親衛隊や市民から更に歓声が上がる。
「いいぞ!!やれやれ!!」
「頑張ってください!!聖女様!!」
「俺たちの恨みを晴らしてください!!」
流石にこの状況で、「すいません、中止です!!」とは言えない。それこそ暴動が起きるレベルだ。
ネスカは何とか出発を遅らせようと奮闘する。
「ヤスミンさん、ユミルさん、ヨハンナさん!!多分、上空は寒いと思いますよ。こちらで防寒着などを手配しますので、しばらくお待ちください」
「大丈夫だよ。魔法で結界を張ってくれるからね」
「そうだよ。それに結界で落ちないようにしてくれるから、心配ないよ」
空気を読めよ、馬鹿姉妹・・・
ネスカも食い下がる。
「せっかくなので、カメラをお持ちしますよ。記念撮影をしましょう。なので、カメラを準備するまで、しばらくお待ちくださいませんか!?」
「いいね!!それは」
「なるべく早くしてよ。置いてくよ」
時間的に1時間も猶予はないだろう。私もネスカに協力する。
「せっかくなんで、お弁当を準備しましょうか?サンドイッチとかなら、すぐに作れますから」
これにはザスキア様が食いついた。
「いいわね。ブリギッタもブリギッテも、少しだけ待ってあげましょうよ!!」
とりあえず、1時間後に出発の方向で話はついた。
早速、会議を開く。ネスカが言う。
「僕が行きます。ビッテさん、乗せてもらってもいいでしょうか?」
「いいですよ。あの二人は特に無茶しますからね」
「ありがとうございます。魔物を撒くにしても、なるべく被害がないような方法でやらせます」
魔王様が言う。
「分かりました。ネスカに任せます。場合によっては、すぐに魔王軍を獣王国ビーグルに派遣しますからね」
「ありがとうございます。市民たちを落ち着かせるのも大変でしょうが、そちらもお願いしますね」
そんなとき、私は思わず口にしてしまった。
「私も行きます!!」
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