101 ご対面
三人娘を魔王国ブライトンに招待することはすんなり了承してくれた。これにはビーグル王の助力があったからだ。三人娘を説得して、魔王国ブライトンの良さをアピールしてくれたらしい。
その気になった三人娘は言う。
「一度は行ってみたかったですわ」
「美味しい物もたくさんあるみたいですし」
「楽しい予感がします」
誤算だったのは、彼女たちの親衛隊を名乗る30名ほどの者たちもついてくることになったことだ。鉄道での移動を考えていたのだけど、アラクネやケンタウルスも参加しているので、鉄道の客席に乗れない可能性が出て来た。これについては、彼らに無理を言ってコンテナに乗ってもらうことになり解決した。よくまあ、この短期間で信者を集めるなんて、本当の聖女は違うと思ってしまった。
一度、ベルシティに経由し、ロキとドシアナ、それにお母様と合流する。ドラゴン御一家とハイエルフの姉妹に会ったときに何か思い出すきっかけになるかもしれないと思い、ロキとドシアナには魔道具の作成、お母様には料理を頼んだ。ヤスダの手記によれば、転生者には「懐かしい味」とかがあるらしい。本当かどうかは分からないけど。
魔王国ブライトンの王都ブリッドに到着すると熱烈な歓迎を受けた。噂レベルだが、初代王妃ヤスダの生まれ変わりかもしれないという話がささやかれていたからだ。表向きは、亜人や獣人を保護している活動を魔王国ブライトンも評価して、表彰するという理由で呼んだのだけどね。
魔王城に着くとすぐに魔王様と謁見、勲章の授与。そして、応接室に案内して、ドラゴン御一家とハイエルフの姉妹の到着を待つことになった。
しばらくして、ドラゴン御一家とハイエルフの姉妹がやって来た。
ブリギッタとブリギッテが楽しそうに言う。
「見付かったって本当?」
「あれ?三人いるの?」
生まれ変わりが三人いることにびっくりしていた。
魂が三つに分かれたと預言が示したことを伝えた。
ドラゴンのパミラ様が言う。
「昔、ヤスダが言ってました。『私が三人いれば、ブライトンの所にも、ブリギッタとブリギッテの所にも、パミラたちの所にも、同時に居られるのにね』とね。冗談だと思っていたのですが、ヤスダのことですから、本当にそうなのかもしれませんよ」
「そうだ!!そんなこと言ってた気がする」
「三人いれば、『毎日、中くらいのいいことが起きるから、凄くお得じゃないか』ってね」
文献や手記を分析しても思ったが、ヤスダという人物は考えなしの能天気キャラだったことを確信した。もし神様がいるとするなら、このヤスダに与えたジョブが「聖女」以外であったのなら、こう上手くはいかなかっただろう。絶大な攻撃力を持つスキルとかを持っていたら、危なくて仕方ないしね。
そこから歓談は続くが、三人は「何か懐かしい感じがする」とは言うものの、何も昔のことは思い出さない。ジョブがヤスダと同じ「聖女」というだけで、ヤスダの生まれ変わりではない可能性もあるのだ。私はここで提案した。一応、考えて来た策の一つだ。
「何か思い出の品でも、お見せしたらどうでしょうか?「懐かしい物を見たら、思い出すかも」とヤスダ様の手記にも書かれていましたし・・・」
すぐにドラゴン御一家はアルバムを、ハイエルフの姉妹は宝箱に入った思い出の品を三人娘に見せて、思い出を語っていく。そんなとき三人娘の一人、ヤスミンがハイエルフの姉妹がしていたペンダントを指さして言った。
「思い出しましたわ!!あのペンダントは卵の殻で作ったんです。本当はもっと大きな物を作りたかったんですけど・・・失敗してしまって」
ドラゴン御一家とハイエルフの姉妹は目を丸くしている。ユミルとヨハンナも続く。
「そうよ!!凄くその卵の殻は硬かったな・・・」
「大切な卵の殻だったと思いますわ・・・凄く大切な人からもらったような・・・」
ペンダントを確認したベンドラ様が言う。
「これはザスキアの卵の殻だ。誕生した記念に親しい者に卵の殻を渡す風習がある。ドラゴンの卵の殻だから、売ればかなりの値段になるのだが・・・ヤスダらしいな・・・」
「ありがとうヤスダ・・・」
「そんな大切な物で作ってくれたなんてね・・・」
ハイエルフの姉妹は涙ぐんでいる。まだ、確定ではないが、三人娘はヤスダの生まれ変わりで間違いないと思う。その後もアルバムに載っていた料理を食べ、昔話をしたりしていた。そんなとき、三人娘は魔王城を見て回りたいと言い出した。物凄く懐かしいというのだ。
そして、みんなで魔王城を巡っていると今度はヨハンナが、謁見の間の玉座を触り出した。流石に止めようかと思ったけど、魔王様にそのままにするように言われた。
「ここを見てください。やっぱりだ・・・」
玉座の裏には、4桁のダイアルロックが設置されていた。魔王様が言う。
「代々魔王はこの玉座を引き継ぐのですが、どうやってこのダイアルロックを解除するかは分からないのですよ。変に弄って、魔法が発動しでもしたら、目も当てられませんからね」
ハイエルフの姉妹も続く。
「3桁なら分かるんだけどな・・・」
「4桁となると・・・ウーン・・・」
誰も分からないようだった。そのとき、ユミルがダイアルロックの数字を合わせ始めた。
「思い出した。多分1・1・9・2だったわ」
ユミルの合わせた番号は正解だったようだ。玉座に取り付けてあった小箱が開いた。その中を確認すると、牙のような物とヤスダからの手紙が入っていた。手紙を読んでみる。
次代の魔王へ
この牙はザスキアという親友のドラゴンから貰いました。凄い効果があるみたいだから、私はおまじないに使うことにしました。ブライトンが作ったこの国が、末永く繫栄し、多くの国民が幸せになるように願いを込めて。
因みに1192はゲン担ぎだよ。
1・1・9・2・・・多分、イイクニってことなんだろう。
ヤスダはこういう奴だった・・・お前以外にこの番号が分かる奴がいないだろうが!!
何かに残しておけよ・・・
しかし、場は感動の空気に包まれていた。ベンドラ様が語る。
「これは間違いなくザスキアの幼竜の時の牙だ。初めて牙が生え変わる時に親しい人に初めて抜けた牙を渡す風習がある。普通は家族などだが、ザスキアはブリギッタとブリギッテ、そしてブライトンとヤスダに贈りたいと言ってな・・・世界に数本しかない、貴重な物だ。それをおまじないとかいう、訳の分からんことに使うとは、ヤスダらしいな」
「私たちの家にも大切に飾ってあるよ」
「思い出した。貰ったのはザスキアの誕生会だったよね?」
ドラゴン御一家とハイエルフの姉妹は思い出に浸り始めた。
★★★
その日は、ハイエルフの姉妹、三人娘、それにパミラ様とザスキア様で、夜遅くまで語り明かしていた。少し離れた場所でベンドラ様がしんみりと見守っている。私がベンドラ様に飲み物を持っていくと語り始めた。
「懐かしい光景だ。女たちが姦しく喋っている側で、我とブライトンは静かに飲んでいたよ。ブライトンの生まれ変わりがいるなら、是非会いたいものだな。それにしても、貴殿らには感謝しかない。我が妹ビッテも救ってもらったしな」
「こちらは大したことはしてませんよ。すべてヤスダ様の強い思いが招いたのでしょうね。それで、少しお伺いするのですが、預言にあった「同胞」とは誰のことでしょうか?」
「それは分からん・・・ヤスダの同胞ということであれば天使族、ブライトンの同胞であれば魔人族だろうが・・・」
「聖女」は見付かった。
後は、救うべき同胞を探さなければいけない。
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