100 聖女を探せ!!
獣王国ビーグルの視察も終わり、ベルシティに帰還した。
情報を精査したところ、すぐには紛争が起きそうにはないようだ。それにロイター王国の目的は瀬戸際外交にあるのではないかとネスカは見ている。武力をちらつかせて、少しでも有利な交渉をしようとしているのではないかという。しかし、断言できない以上はこちらも警戒を緩められない。なので、すぐに対応できるように魔王軍の1部隊を付近に配置している。軍隊はお金がかかるもので、待機するだけでも損失が出る。エサラ財務大臣なんかは、困っているだろうと想像がつく。
そんなとき、エスカトーレ様が高名な「星読み師」であるネブラスカさんを連れ立ってやって来た。ネスカとともに応対する。
「前に発表した預言は覚えているかい?『聖女よ!!古き友が待っている。同胞を救え、そして世界を救え!!』ってやつなんだけど、最近頻繁にその預言が現れるんだ。酷いときには3日に1回はね。だから、私も不安になってね。本当に世界の危機なんじゃないかって・・・」
エスカトーレ様が続く。
「ネブラスカさんによれば、私もアイリーンも預言の聖女ではないとのことです。やはり、「聖女」のジョブ持ちがいるのではないかと・・・それで、聖女の研究の第一人者でもあるクララさんと、数々の難局を打開してきたネスカさんのお知恵を借りにきたのです」
ヤスダは「聖女」だった。ヤスダの手記によると少し運がよくなる程度のジョブらしいのだが・・・そんなの探しようがないだろう?
それに預言も曖昧だ。「古き友」も誰の友達かも分からないし、同胞も誰かも分からない。
ネスカが言う。
「残念ですが、その預言だけでは判断できませんね。もっと詳しく預言を得ることはできないのでしょうか?」
「そうだね・・・あるにはあるんだが、体に悪いし・・・それに信頼のおける人間の前じゃないとやりたくないんだ。前に酷い目に遭ったことがあるしね」
エスカトーレ様が言う。
「クララさんもネスカさんも信頼できます。それに世界の危機ですからね。お願いします」
「分かったよ。じゃあ、大量に酒とつまみを持ってきてくれ」
★★★
ネブラスカさんの預言を受け取る方法はかなり特殊だった。普段の預言は自然に水晶玉に現れるそうなのだが、特定のことに対して、預言をもらうことはできないそうだ。その特定の預言を受け取る方法なのだが・・・
「美味しいね・・・酒も料理も・・・そろそろ火酒にしようかな・・・エスカちゃん、お酌してくれ」
大量にお酒を飲んで、泥酔状態になることらしい。酷い目に遭ったというのは二日酔いのことのようだ。
そりゃあ、体に悪いだろうさ・・・それにそんな醜態を他人に見せたくはないだろうしね。
ネブラスカさんは私たちにもお酒を勧めてくる。断ると不機嫌になるので、私たちも飲み、三人はほろ酔い状態だった。そんなとき、ネブラスカさんが机に突っ伏した。
そして、急に人が変わったように起き上がり、何かを話始めた。私はすぐにメモの準備をする。預言を書き留めるためだ。
「・・・ううう・・・聖女は三人・・・いつも楽しそうだ・・・好きなものに囲まれ、幸せいっぱい・・・三人はいつも一緒・・・聖女は聖女の生まれ変わり・・・魂が三つに分かれた・・・古き友が待っている・・・聖女よ・・・古き友に会え。同胞を救え、世界を救え」
ネブラスカさんは、また机に突っ伏して、いびきをかいて寝てしまった。ネスカが毛布を掛けてあげている。
「あのう・・・三人組で物凄く運がいい人を、私は知っているんですけど・・・」
「奇遇だね、クララ。僕もだよ」
「最近会いましたよね・・・多分・・・」
★★★
私たちが探していた三人の聖女は奴らのことだろう。ギュンター伯爵家の三人娘、従妹同士のヤスミン、ユミル、ヨハンナ・・・生まれた日も同じ、何か運命的なものを感じる。すぐに私は王都ブリッドに向かい、再度資料を精査することにした。
ネスカも一緒に来てくれる。併せて、派閥の皆が動いてくれた。エスカトーレ様とレニーナ様は再び獣王国ビーグルに向かって三人娘を確保しに行ってもらい、ミリアは伝手を使って、彼女たちの生まれ故郷の調査をしてくれた。
すぐに1週間が経過した。私たちは再び獣王国ビーグルに集合していた。三人娘に会う前に情報を交換する。まずはミリアの情報を共有する。
「まずギュンター伯爵領について、ルータス王国有数の裕福な領ですが、彼女たちが生まれる前はそうでもなかったみたいです。彼女たちが生まれてからは、鉱山が見付かったり、温泉が掘り当てられたりしたみたいで、急速に発展したようです。それにそういったエピソードは事欠きませんね。少し例を挙げると・・・」
面白いエピソードとしては、彼女たちが反抗期だった時のことだ。なぜかは分からないが、悪役令嬢に憧れていたらしく、三人で領民をいじめようということになった。育ちのいい彼女たちは、大したことを思い付くことはなく、町の人からすると、ちょっとした微笑ましい、いたずらにしか見えなかったらしい。誕生会を魔物の襲来で滅茶苦茶になっている村で開催し、村人たちの目の前でお菓子やケーキを食べまくるという嫌がらせを行った。しかし、実際はみんなに見られて、緊張でほとんど食べられず、そのままお菓子などを残して帰ってしまった。残ったお菓子を村人全員で食べ、その村は復興していったそうだ。
また、潰れかけのレストランに行っては、「この店で一番の料理を出せ」と要求。当然、不味いので「こんな不味い物が食べられるか!!この金で少しは研究しろ!!」と怒鳴って、大量に金貨の入った袋を投げつけて帰ったそうだ。彼女たちがそんなことをした店は、奮起して、軒並み有名なレストランになっているそうだ。
ネスカが言う。
「ギュンター伯爵からすれば、投資の感覚でしょうね。お小遣いを渡せば、領内ですべて使ってくれますからね。それで経済も発展するのでしょうけど・・・」
「そういえば・・・職場研修のときにゴンザレスが温泉を掘り当てたんだけど、そのときも彼女たちは近くに居たわ。訓練が嫌でサボっていたような気がする・・・」
やはり聖女に間違いはないのだろう。
ミリアが言う。
「状況証拠的には、彼女たちが伝説の「聖女」に間違いないと思います。これからお祖父様が人員を派遣して、彼女たちの親に確認を取るそうです」
そうなると・・・
「ネスカ!!預言の「古き友」ってドラゴン御一家とハイエルフの姉妹じゃないの?あの人たちも、ヤスダの生まれ変わりを探していたみたいだし・・・・」
ヤスダの手記や記録を調べたのだが、ヤスダは生まれ変わりを信じていたそうだ。まあ、転生者だからね。ヤスダなりに調べたというか、前世の知識をまとめただけのものはあった。生まれ変わっても記憶が引き継がれないほうが多く、前世で所縁のあった土地になどに行くと懐かしい気持ちになったりする、みたいなことが書かれていた。
ネスカが言う。
「とりあえず、会ってもらおうか・・・後は、どうやって会わせるかだけどね」
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