1 プロローグ 異世界転生
私はクララ・ベル、年齢は10歳。金髪、青目の少女だ。
元日本人の三十路間近のダメダメOLだったが、ひょんなことから剣と魔法の世界に転生してしまった。
正直、日本での人生はあまり語りたくはない。特にOLになってからは楽しい事なんて、ほとんどなかった。
だけど、転生してからは充実した毎日を送っている。
素晴らしい家族にも恵まれ、そして何より、私の仕事を正当に評価してくれるのは、本当に嬉しい。OLだった頃は、いくら頑張っても評価されなかったからね。
10歳の私が仕事って?と不思議に思うかもしれないが、この世界では当たり前だ。というのもこの世界では、15歳が成人で、農家や商家では子供の頃から働くなんて普通のことだ。そういう私もベル商会という商会の娘だからね。
今でこそ、ルータス王国で五本の指に入る商会にまで成長したが、2年前までは吹けば飛ぶような家族経営に毛が生えたような商会だった。
転機が訪れたのは、私が8歳の時だ。
この世界では魔法だけでなく、ジョブとスキルというものが存在する。分かりやすい例を挙げると、「剣士」というジョブを持っていれば、様々な剣術スキルが習得しやすくなるし、「魔道士」のジョブを持っていれば、魔法関係のスキルが身に付きやすいといった具合だ。
そして、国の慣例で8歳の誕生日に教会でジョブ鑑定を受けることになっているのだ。
ジョブ鑑定の前日、私は興奮して眠れなかった。せっかくの異世界なんだから、魔法が使えるジョブだったらいいなと思ったし、両親のことを考えると「商人」のジョブでもいいかなとも思っていた。そんなことを考えていたら眠れなくなった。
寝室に入らず廊下をウロウロしていると、お父様が声を掛けてくる。
「クララ、眠れないのかい?お父さんもジョブ鑑定前は眠れなかったのを覚えているよ。「剣士」や「戦士」だったら冒険者になってやろうと思っていたものさ。結局、「商人」のジョブが与えられたんだが、今となっては、本当に良かったと思っているよ」
「そうなんだ・・・私は魔法職がいいかな・・・いっぱい魔法が使いたいの。でも「商人」だったらベル商会の為に働けるしね。だけど・・・「盗賊」とか「暗殺者」だったらどうしよう・・・お父様やお母様に迷惑が掛かるし・・・」
「クララがどんなジョブだろうと、お父さんもお母さんもクララを愛し続けることに変わりはないよ。心配しなくていい。クララはクララなんだからね」
「お父様・・・」
嬉しくなって、お父様に抱き着いた。お父様も嬉しそうだ。
そんな話をしていたら寝室から3つ下の弟のロキを抱いたお母様が出て来た。
「クララ、眠くなくてももうベッドに入りなさいね。ロキが起きちゃったじゃないの」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まあでも、その気持ちは分かるわ。私もドキドキしたからね。でも思うんだけど、この世界に必要のないジョブなんてないと思うのよ。神様が貴方にぴったりのジョブを用意してくれているからね」
「うん」
すると眠い目を擦りながらロキも会話に入ってきた。
「お姉様のジョブは・・・えっと・・・「お姉様」がいい!!」
ロキは5歳だけど、金髪青目で美少年だ。それに姉思いの本当に良い子だ。
「じゃあ、どんなスキルがあるの?」
「うんとね・・・「抱っこ」!!」
皆が笑い出した。「抱っこ」なんてスキルがあるはずがないでしょ!!
「もう、冗談はそれくらいにして、二人とも早く寝なさい。ジョブ鑑定中に居眠りでもしたら、恥ずかしいったらありゃしないよ」
お母様に連れられて、寝室に入った。
★★★
次の日、家族で教会に向かう。お父様が先代のお祖父様の代から番頭をしてもらっているオジールに声を掛ける。
「オジール、昼過ぎには戻って来るから、よろしく頼むよ」
「ゆっくりしてください。家族でお出掛けなんて滅多にないことですからね」
「ありがとう。でもお祝いは夜にするから、早めに戻って来るよ」
「先代と同じく、仕事人間ですなあ」
そんな会話の後に出発した。
教会に着いた。
この教会はお世辞にも綺麗とは言えない。私たち家族が礼拝に通っている教会なのだが、孤児院の運営や貧民街の支援に資金を使っているため、教会を建て直す余裕がないのだという。
「ここの神父様はお祖父様の親友でね。お祖父様の代からベル商会が支援しているんだよ。見た目は少し・・・あれだけど・・・」
「大丈夫よ。そんな教会だからこそ、亡くなったお祖父様も支援していたんでしょうね」
「クララは優しいなあ」
こことは別の地区にある貴族向けの教会なんて、無駄に金ピカで好きになれない。それに比べれば、この教会は好感が持てる。建物の立派さなんて関係ない。
教会に入り、いよいよジョブ鑑定が始まる。専用の魔道具を手にした神父様が出迎えてくれた。
「クララちゃんも大きくなったね。先代のブラームスにも見せてやりたかったよ。クララちゃんが生まれた時なんて父親のシャイロより喜んでいたからね。本当に良い子に育ったね」
「ありがとうございます。おぼろげながら、優しかったお祖父様の記憶があります」
「うむ、じゃあ早速鑑定を始めよう・・・魔道具に手をかざして、神に祈りを捧げなさい」
私は魔道具に手をかざし、神に祈りを捧げる。
「よし!!分かったぞ。結果は・・・・なんじゃこれは?」
あれ?なんかヤバそうなジョブなのか?
私がドキドキして待っていると、神父様は言った。
「シャイロとムーサの娘、クララのジョブは・・・・「雑用係」!!」
えっ!!雑用係!?
私だけでなく、お父様もお母様も呆気に取られている。分かっていないロキだけが、「なに?なに?凄いの?」と言っている。
少し落ち着きを取り戻した神父様が言った。
「長年、ジョブ鑑定をしてきたが、このようなジョブは初めてだ。過去の文献を調べて来るから、少し待っていてくれ」
そう言うと神父様は教会の奥の書庫に入って行った。
「雑用係」?一体どんなジョブなのだろうか?
名前的にハズレジョブ確定だろう。
私は絶望に打ちひしがれていた。
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