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最終話 魔法が大好きな女の子

 リオマティアでの激闘から数日が経過していた。

 突如ミスリルに現れた災厄の魔神ミストフレア……そしてそれを解決した伝説の魔法ベヌラ・クウフィード。現代に蘇った神話を前にルーカディアは連日の大騒ぎだ。

 毎日マスコミによりリオマティアの映像が取り上げられている。


 だが話題の渦中にいる少女は、ミスリルの控え室で盛大に頭を抱えていた。


「どうして……どうしてこんなことに!?」


 何度も何度も繰り返し放送されているのは、自分の人生初インタビューの記録だ。

 質問に答えられず、みっともなく気絶する場面が毎日のようにテレビに映っていた。


「気にすんなよ、芸人って笑わせてナンボじゃん」

「芸人じゃないもん。魔法使いだもん!」


 もはや何者かの悪意すら感じる番組編集に、ことりは涙を滲ませて抗議する。


「まさか、一切合切を笑いに変えて誤魔化すとはなぁ……」


 少女に届かぬ声で、一人納得しているのはクウだ。そして同時に呆れていた。

 ノエルは約束どおり、様々な外交戦略を打ち出して少女を他の勢力から守っていた。

 その最後の一手が『契約者がへっぽこ』であることの宣伝である。所有者が未熟ならば、まだそれほど急ぐこともない。その結論が水面下で様子見という均衡を作っていた。


 しかしそのことを知る由もない女の子は、毎日駄々をこねるように泣きじゃくっていた。

 さすがに鬱陶しい。だから少年は、決定的な言葉の刃を振りかざす。


「お前って華が無いからなぁ」

「ぐふぅ!?」


「ルイやシスターと一緒に並ぶと完全に一人だけ浮いてるぞ。モデルの中に田舎の小学生が混じっているような場違感が半端ない。なんか見てるこっちが悲しくなるわ」

「おふぅ!?」


「話してる内容も薄っぺらい上に、噛みまくりで意味がわからん。視線も挙動不審でなんか怪しい。おまけに無理やり笑顔を作ろうとしているせいで表情が白々しくてキモい」

「ぎゃふぅ!?」


 少女の体に何本もの刃を突きたてて、クウは最後に清く正しい笑顔を向けた。


「結局、素材がしょぼ過ぎるからマスコミも笑いに持っていくのが限界なんだろ」

「き、気にしていることを的確にズバズバと。クウさんのくせに、クウさんのくせにぃー!!」


 ことりは更に泣き声を加速させ、ポカポカとクウを叩いた。

 ちょっとは慰めたりしてくれてもいいはずです! と抗議の声を混ぜながら。


「いえっふー。やってるねーお二人さん」


 そんな二人のいる控え室に入ってきたのは、フィーリアとバルだ。


「バルさん。もうお体は大丈夫なんですか?」

「ああ、医者にも太鼓判をもらったよ。今日からマジティアに復帰さ」

「これで思う存分あたしの面倒をみてもらえるよー」

「お前は早く自立しろ! 全く、少しはことり君やルイ君を見習ってだな……」

「ぶー、なんだよう。あたしだって頑張ったんだぞ」


 戦いの後、バルの精神凍結はドロウの手によって解除されていた。多少の怪我の治療と、精密検査も兼ねて数日入院することになったが、特に問題はないらしい。

 そしてフィーリアは彼が入院している間、普段の姿からは想像がつかないほど懸命に、教会で仕事をこなしていた。ことりも何度か手伝いにいったので知っている。

 バルに心配かけたくないと一途な想いを胸に秘め、彼女はまるで聖女の様に美しく輝いていた。あまりの変化にドロウの偽者と疑い、スカートめくりの刑にされたのは余談だ。


 しかしバルはそれを全く信じてくれない。普段の行いが巡り巡った自業自得だ。

 やるせない気持ちを抑えきれずに、「あたしをもっと甘やかせー」と主張を始めるシスターに神父の拳骨が炸裂する。結局、教会コンビはいつもの光景に落ち着いた。


「フィーリアさんたら、早速あんなに甘えちゃって」

「そうか? いつもあんな感じだろ」

「クウさんには乙女の繊細な気持ちがわからないんですよ」


 くどくどとお説教を始める神父と、口を尖らせるシスターの微笑ましい掛け合い。

 彼らを眺めてことりは怪しい笑みを零し、その横で「デュフフ」と漏れる微かな響きを聞き逃さなかったクウは「乙女ねぇ……」と微妙な表情を浮かべていた。


「……あなた達は楽しそうで羨ましいわね」


 最後に銀髪のあほ毛を揺らしたルイが、選手控え室の扉を開けた。

 だが、彼女の顔はまるで徹夜明けのサラリーマンのように疲れきっていて――


「ル、ルイさん、なんだかつらそうですね!?」

「レイヤが……うざい」


 するとフィーリアのテンションも同じく下がった。


「あたしのとこにも来てるよ。お嬢と三人で交際しようって毎日毎日……」

「どれだけ潰しても潰してもめげずにやってくるのよ……あいつ、メンタル強すぎよ」


 リオマティア以降、レイヤはことあるごとにルイとフィーリアに求愛してくるようになったらしい。彼は人前でも堂々と花束を片手に現れ、頻繁にアプローチを繰り返している。

 ルイの肩に残っていた一枚の花びらが、数分前に起こった人知れぬ攻防を語っていた。


「いいなぁー。あんなに素敵な方とお付き合いできるなんて贅沢の極みですよ!?」

「残念ながら、好みじゃないわ」

「ルイさんの理想の男性ってどんな方ですか?」

「硬い男ね!」

「それ絶対に殴って確認する気ですよね!?」


 お嬢様の斬新な判断基準に、ことりは冷や汗を流す。


「他に思いつかないわよ。硬くなくても好きな男なんてクウぐらいしかいないし」

「へ、へえー……そうですかぁ……」


 また一筋、ことりの背中に冷や汗が流れる。理由はわからないが、なんだかモヤモヤとするものを感じたが……気のせいですね。と疑念を振り払い、少女は考えることをやめた。






 その男の机の周りには大量の書類が置かれていた。


「なっんだ、この馬鹿げた仕事量はー!!」


 処理しなければいけない事案達の多さを前にドロウは全力で吼えていた。


「貴様らはこの三年間何をやっていたんだ。いや、むしろ何もして無かったんだな!?」


 その怒りを再雇用先の上司にぶつけると、にへらーと腹の立つ笑みが返される。


「もう嫌ねん。だから必死こいてドロウ君のこと探してたんじゃない。あなたみたいな糞まじめで使えるパシ――ごふん。最高のレーヴァテインなんてなかなかいないんだからん」


 今、絶対パシリと言った。ドロウのこめかみには青筋が浮かんでいる。

 だがノエルは、てへぺろと、あざとく可愛い子ぶると――


「いいからとっとと片付けるのよん。さもなくば監獄にぶち込んで、今後一切、マジティア観戦できなくしてやるわん――あなたもそれは嫌でしょう?」


 有無を言わさぬ圧力を掛け、ばいばいきーん、と部屋からずらかった。

 部屋には大量の仕事と、ぽつーんと一人佇むドロウだけが残されていた。


「――っ、本当にこの国は何もかもおかしいぞ!」


 その時、誰かに「いい国でしょ?」と囁かれた気がして……男は微かに口元を緩める。

 仕方がない、仕事を始めよう。この国を守る刃として、再び夢を見るために――


 机上に飾った下手糞なサインの色紙。それを見て微笑む男の名はドロウ・フォバー。


 彼はもう復讐者でも、証明者でもない。

 ――ただのファンだ。






「それじゃあ、ことりとクウも合体したらすぐにいらっしゃいね」


 もはや聞きなれた絶望的なフレーズを告げ、ルイ達は部屋を後にする。


「じゃあ、するぞ」

「はい、お願いします!」


 じりじりと近寄るクウに対し、じりじりとことりは遠ざかった。


「台詞と行動が違うじゃねえか!?」

「だってだってー」


 今思い出してもリオマティアの時の口付けが、恥ずかしくてたまらない。

 雰囲気に流されて『もっと繋がりたい』などと一瞬でも考えてしまった事実を思い出し、毎晩布団の中でもだえ苦しんでいるのだ。もうこれ以上、黒歴史を増やしたくない。

 受け入れ難い目の前の問題と、乙女心の間で少女はせめぎ合っている。


「今日の試合で活躍すれば、世間のポンコツ扱いなんて一気にふっとぶさ」

「ほ、本当ですか……?」


 ピタリと抵抗が止まった。キスも嫌だが、色物扱いはもっと嫌なのだ。


「ああ、リオマティアで復活した伝説の魔法の第一戦だぜ? 今日の注目度は段違いだ。

ここで気合の入った試合をすれば、たちまちお前はマジティアの人気選手になる」

「ふへへ、が、がんばっちゃおうかなぁー」


 甘い言葉に騙されて、ことりはみるみるガードを緩くし、唇が射程圏内に入る。

 あ、こいつ絶対ヘタこくな。と少年は今日も自爆する少女の未来を垣間見た。


「ま、とにかく一歩ずつ目指そうぜ、相棒」

「そうですね。マジティアージュを目指して今日もがんばりましょう!」


 そして唇が近づく。その顔を見つめていると、不意にことりの胸が脈打ち――

 ボキッ―――と、クウの首がすごい音を立てた。


「おーまーえーなー!!」

「え、え? ち、違いますよ!?今のは……あれ? なんでですか!?」


 もちろん犯人はことりだった。でもやってしまった理由は、本人にもわからない。


「うるせえ、こうなったら婚姻届の力で無理やり……」

「ふえーん、誰か助けてぇー。魔法は使いたいけど、やっぱりキスは嫌ぁー!!」


 そして今日も、本物の魔法使い達のすったもんだの合体劇が始まる。




場所は魔法の遊園地、月面国家ルーカディア。


舞台はまゆたまの輝く、魔法演舞マジティア。


さあ物語を続けよう


子供達に優しく語るお話の中に、燦然と並ぶベストセラーの書籍の中に、


誰にも見向きもされない映画の中に、そして誰もが憧れる伝説の中に、


いつか必ず登場することになる少女の話を続けよう


彼女の名前は蒼井ことり


術は爆炎、言霊は勇気、導師名はリトルフェニックス


十三歳にて人妻で、へっぽこだけどミニオンで、才能なんて欠片もないけれど


魔法が大好きな女の子だった






―完―

これにて一旦完結です。

2017年2月10日に完結タグを付けました。


時間があるときに閑話を描きつつ、ストックが出来たら続きを!と考えていますが、まだ未定です。


同時連載「マリーベルの攻略本~戦闘力チートのエルフがお姉ちゃんを幸せにする方法~」も宜しくお願いします!

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