26話 トレジャーバトル開始
ちょっと短めです
オリハルコンイータVSワンダーエンジェルの試合が始まった。
今回の舞台はジャングルの密林だ。
密集して生い茂る苔むした木々に、枝からくすんだ蔦が垂れ下がる。光が届きにくい為、黒色に変色した湿った大地が広がっていた。湿度も高く、蒸せるように暑い。
動物もいるらしく、奥に進めば聞いたことのない鳴き声が飛び交っている。
フィールドは初戦より遥かに大きい直径十キロだ。
試合開始と同時に、参加者四人は全員バラバラの地点からスタート――
そして各々が広いフィールドを乗り越え、宝の眠る中央の塔を目指すのだ。
「まずは素早く塔に集合しましょう」
「はい、わかりました。まずは合流が先決ですね」
スタート前に交わしたルイとの会話を思い出し、ことりは自嘲気味にため息をついた。
まさか……まさか――
「開始早々、トラップにかかるとは思いませんでしたぁー!!」
確かに、ジャングルという物珍しさにワクワクしていたせいで注意は散漫だった。
なんだかいい匂いがしたから、興味本位で近づいた。
だからって――巨大な食虫植物に丸のみにされるとは思っていなかった。
「あからさまな罠だっただろうが!」
「ひーん、だってすごくいい香りだったんですよ」
「虫か、お前は」
巨大なハエトリソウに頭から丸呑みにされて身動きが全く取れない。
内部では粘着性のある液体が全身を絡めとり、完全に自由を奪われていた。
「まさか、このまま消化されて……」
「さすがにそれは無いだろうけど、試合は終わるだろうな。
そしてアホウドリの新たな伝説がネットへ刻まれることに……」
「嫌だぁー。これ以上、スレッドが乱立するなんて嫌だー!!クウさん助けてー」
「ちっ、しゃーねーな……」
ことりの手元にギアカードが出現する――
その答えは唯一つ。
「やれ」
「ひーん、ギアカードオープン フォーゲルぅ!」
行き場のない場所での火弾の爆発。つまり自爆での脱出だった。
ハエトリソウは粉々になり、アフロ頭になったことりは自由を取り戻す。
「ううう、とうとうデフォルトで自爆をするようになるなんて……」
「そろそろ、マジで自爆用のカードを考えとくよ」
「しかもロックの効果で、指一本動きません……」
時間が経過し、ロックが終わると、ことりは泣きながらアフロ頭を治した。
なんだかハエトリソウの粘液が全身に絡み、ベチャベチャして動きづらい。
クウの分析では、あのトラップにかかるとバットステータスが追加されるらしい。
束縛から逃れても、しばらく動きを制約する二段構えの罠なのだ。
「クウさんの力でスパッと治しちゃうギアカードとか作れないんですか?」
「その辺は俺も計算違いだったんだが――」
むむむ、とクウが申し訳なさそうに唸る音が頭に響く。
「いかんせんお前のレベルが低過ぎる。一番単純なフォーゲルですら手に余すんだぞ?
複雑な術をポンポン出しても、お前のオムツ生活が始まるだけだ」
「つまり今の私って……」
「宝の持ち腐れだな。トレジャーバトル中に気付くとはこれまた皮肉なことに」
「私ってそういう感じのことばっかりですね……」
「焦る必要はねえよ。ギアカードのレベルはお前の成長に合わせるから、俺に任せとけ。
それよりも――なんで今日は別のコスプレしてんだ?」
今のことりはいつものメイド服ではない。
サファリジャケットにリュックという冒険家ファッションに身を包んでいる。
これは電話で試合のことを聞いたテンから送られてきたものだ。
「リュックにお茶とお菓子も入ってますよ」
「遠足か!?ジジイのコスプレ好きにも困ったもんだな。いい加減、断れよ」
「クウさんもバニーガールやレースクイーンの格好をしてみたらいいんです。
越えてはいけない一線さえ過ぎれば、あとは気持ち良いだけですよ」
「お前ら、俺に内緒でいつもなにしてんの?」
クウの疑問を華麗にスルーして、ことりは再び塔を目指し歩き始めた。
「急いで遅れを取り戻さないと! ルイさんはもう塔で待っているはずです!」
「いや……それは大丈夫だと思うぞ」
同時に、ズドンと質量感のある衝撃が遠方から響く。
ズドン、ズドンとその後も続けて何本も何本も――
はるか遠くで、もくもくと巨大な土煙が上がっていた。
「ルイさんも寄り道しているみたいですね」
「お前ら本当にいいコンビだよ」
歩く速度を少し緩めて、ことりは塔へ向かって足を進めた。
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