戦国時代で可能なチート覚書:銃火器編その5(前編)
続き。
今回は大砲関係のチート。
以下テンプレ。
A:知識さえあればできるもの
B:知識さえあればできるが、法制度、慣習などを解決する問題があるもの
C:知識さえあればできるが、地理的制限があるもの
D:ある程度加工技術があれば当時の技術で実行可能なもの
E:転生、転移者の寿命内の技術開発で可能なもの
・螺旋式仰俯角機構(Elevator scew) E
砲の構造において砲耳の後ろ辺り砲尾の真下にある螺子で、槓桿の付いたボルトとナットの組み合わせで回転運動によって
砲尾を上下させ、砲の仰俯角を調整する装置。
中世大砲の仰俯角を調整する装置は砲尾の下の楔を前後させたり、
砲尾の角度を5~10°ごとに変更して横棒で固定する程度のものしかなかった。
この螺子式の仰俯角装置は螺子の回転量で仰俯角を調整できるため、中世大砲と比較して微細な調整がしやすく、
これによって命中率が飛躍的に向上した。
これに改良を加えた方式が複螺式で、槓桿の付いたボルトの途中に逆ねじのボルト兼ナットを挟む方式で、
逆ねじとボルトを同時に回すことで仰俯速度が2倍になると言うもの。
技術判定は精度の高い螺子の製造技術が必要なためE判定。
砲ごとに螺子の精度が異なると、統一的な砲の運用が困難であるため、
火縄銃の銃尾を閉塞する螺子の製造技術程度では不足と判断。
・単脚式砲架(block trail) E
1779年にイギリスのウィリアム・コングリーヴ(コングリーヴ・ロケットを開発した人と同一人物)が発明した砲架。
それまでの砲架は16世紀に発明された二枚の腕木で大砲を挟むような架尾を持つ
「ダブルブラケット(double-bracket)」と言う構造であったが、これはあまり丈夫でない上に重いため
強度を確保するために更に重くなると言う悪循環であった。
単脚式砲架は一本の木材で架尾が形成されており、これに砲身が乗る形で構成されている。
ダブルブラケット式との比較は軽量化と、架尾に付けられた環に竿を引っ掛けることでテコの原理で
容易に方向転換ができる点。
欠点は砲脚の角度が仰俯角範囲の上限となることで、カノン砲のように反動、重量が大きく
架尾が伸びる砲ほど仰俯角が小さくなる点であった。
しかし、当時の大砲の多くは命中率が大きく低下する大仰角の射撃は滅多に行わなかったため、
発明された時代では欠点にはならなかった。
この欠点が大きく露呈し出すのは、大仰角で砲撃を行う間接照準射撃が一般化する日露戦争後。
また、架尾の環は前車と連結する際にもこれを容易にさせる利点があり、
これらの利便性からナポレオン戦争後にあっという間に広まり、クリミア戦争や南北戦争、戊辰戦争の頃になると
砲架の殆どが単脚式に塗り替えられたほどである。
砲架の製造は様々なノウハウがあり、補強に鉄部品やねじが多用されている点から技術判定はE。
ただし、大掛かりな設備が必須と言う訳ではないので、転生者のテコ入れがない当時の技術では困難と言う程度。
・前車(limber) B+E
野砲の架尾に連結させて牽引を容易にするための、二輪の荷車。
ここで紹介するのは19世紀になってイギリスで発明されたもの。
砲の架尾にあるルネットと言われる鉄製の環に、前車の軸棒を連結してピンで留めることで、
一時的に四輪車となり走行性能が向上する。
また、前車には長い牽引用のポールがあり、これと並行になるように輓馬を並列で繋いで牽引する。
それ以前の前車では一列縦隊でしか牽引できなかったため、牽引のしやすさが向上している。
必要な馬の数は1tクラスのカノン砲ならば6頭、山砲のような軽量砲ならば2頭。
ただし、これは西洋の馬格の大きい輓馬の場合で、日本在来馬のように小さい馬の場合は
必要数は余分に計算したほうがいいだろう。
前車には弾薬箱が一つ搭載してあり、後述する砲弾車は二つ積める。
野砲+前車、砲弾車+前車でワンセットのため、大砲一門につき弾薬箱が4つある計算となる。
砲弾の数は砲によって異なるが、ナポレオン砲ならば弾薬箱一つにつき28個、
前車は弾薬箱を搭載した砲弾車、予備部品を搭載した砲兵馬車、
細かい予備部品を製造する道具が搭載された鍛冶車を牽引するのにも前車が使用されている。
技術判定は前車は単脚式砲架と同等と判断してE。
また、馬を並列で繋ぐためには去勢の家畜技術も必要なのでこの点でB。
・ガンロック C
フリントロック銃の点火装置を大砲にそのまま移植したような発火装置。
イギリス海軍が18世紀半ばに発明したもの。
それまでの大砲の点火は火門に充填した導火薬を点火棒に火縄を付けて、
恐る恐る横から点火していたため、照準から発射までの時間差が大きく命中率が悪かった。
ガンロックによる点火は拉縄を引くことで作動する。
これによって砲手が砲の後方の安全な位置から、任意のタイミングで撃発可能となり
命中率が大きく向上した。
欠点はフリントロック式のそのままで、好天時でも3割程度の不発がある点で確実性に欠けること。
敵の切り込み直前に発射するキャニスター弾が不発、と言う事態になったら目も当てられないだろう。
技術判定は良質の火打石がいる点でC。
摩擦火管を導入する前の代用品として導入するといいだろう。
・摩擦火管(Friction primer) E
大砲の点火に使用する銅製の管に火薬が充填された火工品。
火門に装着し、拉縄を引っ張ることによって内部の爆剤が拉縄と繋がっているワイヤーの摩擦力によって点火し、
火管下部の火薬が引火することで、そのまま大砲の薬室の装薬にも火が伝わって撃発する。
利点は紐を引くと言うワンアクションで点火することと、
ガンロックと異なり不発率が低い点。
爆剤は過塩素酸カリウムが1/3、摩擦力を高めるための硫化アンチモン2/3含まれる。
硫化アンチモンの代用として硫黄と金属粉か研磨剤を充填する方法もある。
ワイヤーは摩擦によって点火しやすいように先端が鈎状になっており、その表面が粗く削られている。
欠点は確実に点火させるため爆剤に用いられている過塩素酸カリウムの製造には、
電気分解が必要であり難度が高いこと。
工程は熱濃厚食塩水の電気分解で塩素酸ナトリウム(電極は耐酸性の金を使う)→塩素酸ナトリウムの電気分解で過塩素酸ナトリウム→
→塩化カリウム(にがりから精製)との複分解→過塩素酸カリウムの製造。
電気分解は永久磁石、もしくは電磁石を使用したモーターと発電機が必要。
水力発電が最も製造が容易と思われる。
陶器のような多孔質の仕切りを付けた容器を熱濃厚食塩水で満たして電極を挿入
加熱しながら、電流を流す。
生産量が微小にデメリットがあるが、ケルヴィン水滴誘導起電機で静電発電をして電気分解と言う手段もある。
こちらは電磁石や永久磁石が必要ないと言うメリットがある。
数門の砲の必要量を満たす程度ならば後者の生産力で足りると思われるが、
何十門も運用する規模になると、水力発電で大量生産できるようにしたほうがいいだろう。
技術判定は電気分解があるためE
・薬嚢 C
紙薬莢の大砲版。絹か羊毛製の円筒形の布に火薬を詰めたもの。
これらの素材を用いるのは燃焼時に袋が綺麗に燃焼し、燃え滓が残らないため。
絹布の薬嚢は第二次世界大戦まで使用されている。
これの発明以前はレードルと言われる火薬掬いで計量しながら砲口に装填していたため、
発射に時間が余分に掛かっていた。
旧軍が明治期に大砲用火薬として使用していた褐色六稜火薬は、
この薬嚢に隙間無く詰めることができるように六角柱に成型されていた。
後期の前装滑腔砲では砲弾、弾底板、薬嚢がバンドで結束され、まとめて素早く装填できるように工夫されている。
技術そのものは難しくないが、素材に絹布、毛布を用いているためC判定。
牧羊は日本の国土では面積を確保することが難しく、輸入するにしても遠く欧州か中国からの密貿易になるため、
養蚕から絹布を得たほうが効率が良いと思われる。
生糸にならない汚れた繭、羽化して切れた商品価値の低い繭でも、紬として薬嚢として使用する分には問題にならない。
長くなったので分けます。




