きらきらになんて、なりたくない!
僕がそのランプを見つけたのは、公園でかくれんぼをしている時のことだった。
「これ、何だろう?」
滑り台の後ろにかがみ込んでいた僕は、地面に埋まっているものを掘り出すと、手のひらでこすってみた。泥だらけだったから、初めは何か分からなかったんだ。
そうしている内に、尖った注ぎ口からターバンを巻いた男の人が出てきたから、びっくりしちゃった。しかも、その人、「私はランプの精です」って言うんだよ?
「いやあ、久しぶりに外に出られました! ありがとうございます、坊ちゃん!」
「しーっ! 見つかっちゃう!」
ランプの精が大きな声で話し始めたから、僕は大慌てで人差し指を口の上に置いた。ランプの精は「すみません、すみません」とヘラヘラ笑う。
「かくれんぼ中ですか。いいですねえ、子どもはのんびりしていて。……ところで坊ちゃん。せっかくですから、私を見つけてくれたお礼をさせてくださいよ。あなたの願いを何でも一つ叶えてあげます」
「え、本当に!?」
僕は飛び上がった。ランプの精はニコニコする。
「いつの時代も、人間の喜ぶ顔は見ていて気持ちがいいですねえ。それじゃあ、さっそく坊ちゃんを有名人にしてあげますか」
「有名人?」
僕がきょとんとすると、ランプの精は「とぼけちゃいけませんよ」と言った。
「有名になってチヤホヤされたい。皆にキャーキャー言われながら追いかけ回されたい。人間の願いなんてのはね、大人も子どもも、大体そんなものって決まってるんですから。私はちゃんと知ってるんですよ」
「僕、有名人になんてなりたくないよ。そんなことより……」
「格好つけなくていいんですよ」
ランプの精は顔の前で手を振った。
「きらきら輝く注目の的! 皆があなたに夢中になるんですよ? 素晴らしいじゃありませんか。……それっ」
ランプの精が僕に手のひらを向ける。そこから光があふれ出て、僕の体が輝きだした。
「何これ!?」
僕は自分の体をあちこち眺め回す。嘘!? 全身がきらきらしたオーラに包まれてる!? 僕の膝がガクガクと震えだした。
「こんなの困るよ! 元に戻して!」
でも、ランプの精もランプも、もうどこかに消えていた。僕はオロオロして輝く自分の体を見つめる。そんな……! これじゃあ、すぐに見つかっちゃう!
ふと、頭の上で声がした。
「ヴァァ……」
滑り台の上から、緑色の肌をした濁った目の男の人がこっちを見ている。しまった! もう見つかったなんて!
僕は滑り台の後ろから飛び出した。
「ヴォォ……」
「ヴィィ……」
「ヴゥゥ……」
走り出した僕の後ろを、大勢の人が追いかけてくる。皆、さっきの男の人と同じで、緑の肌をしていた。
きっと、僕のきらきらオーラに引き寄せられているんだ!
「最悪だ……」
前からも緑色の肌をした人の集団がやって来た。どうしよう! このままじゃあの人たちに……ううん、あのゾンビたちに捕まっちゃう!
最初のゾンビが外国で発見されてから、しばらくたった。気づけば、どこの国もゾンビだらけ。僕のお父さんもお母さんも、学校の先生も友だちも皆、あいつらの仲間になってしまった。無事なのは僕だけだ。
そんなゾンビがいっぱいいる世界で目立ったら、大変なことになっちゃう! 僕は、「皆を人間に戻して」ってお願いしたかったのに……!
遠くからでもよく見えるきらきらのオーラに包まれながら、僕は近くの家の塀によじ登った。かくれんぼの次は鬼ごっこ。一体いつまで、僕は人間でいられるんだろう?




