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【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~  作者: パンダプリン


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第58話 「あなたは私たちの物よ」「あなたは私のです」

「人間。獣人。ドワーフ。やっぱり魔王のしわざだろうが、どれも知らないダンジョンか……」


 これも俺たち転生者が、この世界に影響を与えたせいだろうか?

 なんとか最低限の情報は得られるが、いつまでもこの国に囚われたままではいけない。

 待遇はいい。だけど、それは愛玩動物のような扱いであり、エルフたちも俺の力なんて興味はないんだろうな。


 レベル上げは一応できる。国内に出現したモンスターを狩ることで、地道に経験値は得ているからな。

 さすがに国内程度なら自由に動ける分、やはり好待遇といっていいだろう。

 だけどこのままじゃ、いつになったら魔王の脅威に抵抗できるだけの力を得られるか、わかったものじゃない。


「はあ……せめて、もっと効率のいい狩場に行きたい」


 だけどそれは国外。人間たちの国には、そういった初心者救済のような狩場やアイテムがあるはずだ。

 エルフと違ってやけに救済措置が多いのは、リックがメインの主人公だからなんだろうな。

 人間に転生していればと思わなくもないが、どうだろう。

 あの王様もうちほどではないが行動に制限をかけそうだな。使える人材は手元に確保しておきたいタイプの王様だったし。


「それにしても、ドワーフたちの情報だけやけに多かったな」


 これは、ゲーム中でも語られていたあの設定のせいか?

 エルフとドワーフはどちらも長命種なのだが、仲はよくない。

 そのくせ、互いの得意分野の技術力は認めているため、表向きでは交流しながら虎視眈々(こしたんたん)と相手の国を侵略しようとしている。

 だからこそ、エルフたちはドワーフの情報だけは、他より多く精度が高いものをもっているのだろう。


「そのあたりから攻めてみるか……」


    ◇


「聞き間違いかしら? よりによって、あのドワーフどもの国に行くなんて」


「まさか、ドワーフの国に亡命でもするつもり? あいつらは魔法なんてまるで興味がないわよ。あの武骨な(つち)を振るえるかどうか。酒が飲めるかどうか。あなたはあいつらの元に行っても、ろくな扱いは受けられないの」


「ドワーフに鞍替(くらが)えするとか、そういうことではありません」


 これだよ。ちょっと外に行こうとしただけで止められるのはいつもと同じだ。

 今回はその行先がドワーフの国だというのだから、エルフとしても面白くなかったのだろう。

 嫌悪感やら、こちらへの疑いやらで面白くなさそうなのが、態度からありありと伝わってきた。

 なので、ここはうまく説得しないといけない。


「ドワーフの国のダンジョンが目的です」


 その言葉に、エルフたちの目が鋭くなった気がする。

 なにも俺に怒りを向けているとかではない。

 彼女たちも興味があるのだろう。最近発見されたばかりのドワーフの国のダンジョンに。


「まだ探索もままならないダンジョンではありますが、その時点でも大量の魔石が発見されたという話でしたね」


「……ええ。よりにもよって武器や防具に使うしかない、野蛮なやつらの国にね」


 やっぱりな。

 エルフたちは魔法を得意とする種族であり、魔石を活用する技術力の高さは他種族より秀でている。

 だからこそ、魔石という資源は確保しておきたいし、価値を理解していないからと他種族を見下しているのだろう。


「エルフの勇者……賢者になるためにも、実戦経験は重ねていきたいと思っております」


「ええ、殊勝(しゅしょう)な考えね。だからこそ、あなたがモンスターと戦うのも止めていないでしょ?」


「本当なら、かわいい転生者が傷つく行動なんて許さないけれど、その思いを汲んで許可しているの」


「感謝します。ですが、魔王や強力な魔族が待ち受けるのは、主にダンジョンです」


 まあ、四天王とか大体他の国で行動していたところで戦闘に入ったけどな。

 リピアネムくらいか? ダンジョンで戦うことになったのは。


「なので、ダンジョン攻略の経験も今度のために必要と考えます」


「ダンジョンねえ……」


「そして、都合よくドワーフたちの国に魔石が採れるダンジョンが現れました。しかも、ダンジョンに他種族が挑むことも許可されています」


 ドワーフたちが無欲なのか、獣人や人間たちの国に現れたダンジョンと違い、どの種族もダンジョンを攻略することが許されている。

 もっとも、未開拓の地図を埋めることは義務付けられているので、今はどんな手を使ってでもダンジョンの全容を知ることが優先なのかもしれない。


「それで、ジノがダンジョンに挑んで魔石を回収してくるってことかしら」


「ええ。早ければ早いほど、ドワーフたちから奪った魔石をこの国に納める量が増えます」


 奪うといっても、なにもドワーフの持ち物を盗むとかじゃない。

 ダンジョンで魔石を採掘して、この国に持ち帰るというだけだ。

 ダンジョン内で得たものはドワーフに納めろと言われていないのは、それだと他種族がこないからか。

 それとも、それだけのことをしてもなお魔石を大量に確保できる見込みがあるのか。

 どちらでもかまわない。魔石についてはエルフたちを納得させるための材料にすぎないのだから。


「……そうねえ」


「ジノは強くなっている。それこそ、いずれは数百年ぶりに賢者になれるほどにね」


「あなたを正しく育てれば、勇者を保有する他種族の国に後れを取ることもない」


 知っている。

 エルフもドワーフも現在は勇者不在の国で、他の国よりも格下扱いされている。

 だから、エルフたちは俺を育てて国を強くしたいのだろう。


「安全な場所にいるだけでは、賢者になることはできません。そして、回収した魔石もこの国をより強くします」


 それが決め手となってくれたらしい。

 エルフたちは顔を見合わせ頷くと、しぶしぶではあるが俺が国外で活動する許可をくれた。


「私たちを裏切ったら、その首輪があなたの首を斬り落とす」


「勝手に死ぬことも許さないわ。自分の命を最優先に考えて行動しなさい」


 どこまでも、俺はエルフたちの所有物なんだろうな。

 見送りともいえない言葉と、魔法をかけた首輪がそれを物語っている。

 反旗を翻すようなら殺すということか。あるいは自我を消して操り人形にするか。ろくでもない結果が待っていそうだな。


    ◇


「俺の魔力ってそれなりに高くなったんですよ」


「ええ、レイはがんばっていますからね。さあ撫でましょう」


 別に撫ででもらうことを催促したわけではない。

 でも、せっかくなのでお言葉に甘えつつ話を続ける。


「だから、俺もそろそろ魔法とか練習してみようかなと思うんですけど」


「え~と……レイはダンジョン作成という特技があるので、得意分野でがんばるのがいいと思うんです」


「というか、ぶっちゃけレイは魔法使えないと思うよ」


「え!? 魔力上がったのに無理なのか!?」


 ピルカヤに言われて思わず驚いてしまう。

 ここ剣と魔法の世界じゃないの? 魔力が高ければ、誰でも魔法が使える物かと思っていた……。


「日々魔力が高くなっているのは、こちらにもわかります。レイ様の努力の結果ですね」


「でもなあ。あれだ。魔族には向き不向きがある。レイが魔法を使うことは、リピアネムが細かい作業をできるようになるようなものだ」


「つまり、適性がまったくないと……」


「レイ殿!?」


 悪いな。しかし、あまりにもわかりやすい例えだったんだ。

 それほどかあ……。もしかして、ダンジョンマスタースキルだけでレベル上げていたから、それに特化した育ち方になったんだろうか。


「わ、私は魔法使えるぞ! 主に剣の補助だが!」


「ああ、リピアネムも使えるのか。四天王すごいなあ」


「私も使えます!」


「知っています。フィオナ様はもっとすごいです」


 だって、あのイドを一瞬で消し炭にしてたし。

 今思うとあれってかなりやばいことしているよ。

 そうなると、魔族ってみんな魔法使えるのかあ……。

 なんだか、仲間外れみたいでいやだなあ。


「魔法があればもっと便利だったんだけどなあ」


「ちなみに、どんなことがしたかったの?」


「ほら、魔法で契約した首輪とか作って、契約破ったら爆発させるとか」


「……発想がエルフみたいだな。おじさんたちそんな物騒な魔法使わねえよ」


「そうか、一応あるのか。時任(ときとう)とか奥居(おくい)みたいな転生者が現れたときに便利そうだったんだけど」


「ボクがちゃんと見張るから、もう少し穏便な考えもったほうがいいんじゃない?」


 魔族で四天王にそう言われてしまった。

 いや、でもエルフだってやっているんだろ? なら、別に俺だけがおかしな考えってわけじゃないと思うんだよ。


「首輪が欲しいのなら、私がレイにつけてあげましょうか? ほら、だってレイは私のですし」


「う~ん……俺たちはいいけど、リグマにつけたら変身するとき大変そうですよ?」


「自然とおじさんたちを巻き込まないでくれないかなあ……」


 いや、いいじゃないか。

 魔王様の庇護下っていう証だと思えば安心できるぞ?

 結局リピアネム以外の四天王に反対されたことで、俺たちに首輪をつけられることはなかった。

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