表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/130

93 証拠がある

 魚介の干物を物々交換で得るのには骨が折れた。


「持っていれば道中で魔物に襲われると分かっているものは売れないね」


 などと言われたからである。

 売った相手が被害者になるのは許容できないということなのだろう。


 まあ、グロリアは俺たちの戦闘力を知らないしな。

 魔物を一撃で仕留めたリーファンが最高戦力だと思っているっぽい。

 商人としては良心的なのが好ましくも困りものだ。

 結局、海のものは俺やレイの好物なんだとアピールしまくってなんとか譲ってもらえた。

 精神的にはその交渉だけでヘトヘトだったさ。


 おまけに引き渡しは大きな街に到着してからだってさ。

 そこまでは同行する必要がある訳だ。

 目的地は同じだし急いでもいなかったので問題はないんだけどね。

 むしろ考えようによっては好都合なんだよな。

 グロリアはデビッドたち護衛に俺たちを守らせようという意図で条件を付けたつもりなんだろうけど逆だから。


 実は次も襲撃があると俺は踏んでいる。

 例の荷物に魔法的な目印が付けられていたのでね。

 そのせいでボルトパイソンが最後尾の馬車を執拗に狙っていた訳だ。

 つまり、魔物を操ってグロリアの妨害を目論んだ犯人がいるってことだ。

 車輪を壊すように仕向けたのも、そいつの差し金だろう。


 問題はどうやってボルトパイソンのような魔物をけしかけることができたのか。

 召喚もしくは捕らえて手なずけたのだとは思うが、いずれも容易ではない。

 グロリアの護衛が手こずった魔物を手懐ける実力を持つ召喚術士か魔物使いがいることになるからな。

 相当な実力者だろう。


 そうまでして襲撃の目的が暗殺じゃなくて荷物というのが意味不明だ。

 偶然を装った数々の妨害で損害を増やすことが狙いだとすれば、荷物に目印を付けるのは間抜けにも程がある。

 一応は木箱のフタの裏側なんて目立たないところへのマーキングなんだけどさ。

 確実に残る物証であることには違いない。

 もしかしてボルトパイソンが破壊することを見越していたのか?

 想定外を考慮しないとは、やはりお粗末と言わざるを得ないね。


「ちょっと、何してるんだい?」


 確認していたらグロリア婆さんに見とがめられましたよ。


「これが魔物の襲ってきた理由だよ」


 元より隠すつもりはなかったので、動かぬ証拠を披露する。


「は!? アンタは何を言ってるんだい?」


 グロリアは訳が分からないとばかりに聞いてきたけど。

 パッと見はありふれた木箱のフタでしかないせいだ。

 魔道具の技術を使って術式を刻んであるので素人には術式の痕跡すら見えない。

 破壊されれば単なる残骸。


 日本の警察なら鑑識が出てきて現場検証してから一切合切を持ち帰るところなんだけど。

 ここは異世界アルスアール。

 証拠保全なんて意識自体が希薄なはずだ。


「犯人は詰めが甘い。襲撃を退けられた場合は証拠が丸々残るからな」


 向こうとしてはボルトパイソンを絶対的な切り札と確信していたのかもしれないが。


「は? このフタがそうだって言うのかい!?」


 グロリアが目を丸くさせている。


「このフタには必要のない術式が魔力で刻まれているんだよ」


「な、なんだって─────っ!?」


 驚き方が些か大袈裟に感じたが、その後の反応を見た限りだと心当たりがあるようだ。


「ちょいと、誰か」


 そして人を呼びつける。


「ダリアを呼んどくれ」


 魔法が得意な面子に確かめさせたいようだな。

 そんなことを考えていると、グロリアの背後にスッと忍び寄る人影があった。


「呼んだ?」


「ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!?」


 ダミ声で悲鳴を発しながら文字通り飛び上がって驚くグロリア。

 呼んですぐに来るとは思ってなかったんだろうな。

 しかも気配を感じぬまま真後ろから声を掛けられたんじゃ仕方がない。


「アタシの後ろに立つんじゃないよっ」


 振り返って少し距離を取ったグロリアが何処かの殺し屋のような台詞で吠えた。


「心臓を止める気かいっ」


「呼ばれたから来ただけ。そんなつもりはない」


 ただ、間々あることらしくグロリアもフンと鼻を鳴らして矛を収めた。


「ダリア、あのフタを見ておくれ」


 親指で背後を指差すグロリア。

 ダリアと呼ばれた褐色で薄紫の長髪が特徴的な美人が俺の方をチラ見する。

 この美人さんはデビッドたちと風の導きというパーティを組んでいるダークエルフだ。

 弓士だと思っていたが、グロリアが呼びつけたところを見ると魔法にも精通しているのだろう。


「見た」


「どうだい? ユートは術式が魔力で刻まれているとか言っているんだがね」


 ダリアはコクコクと頷いた。

 どうやら軽く見ただけで術式が刻まれていることを把握できるみたいだな。


「魔道具に使われるような術式が刻まれている」


「魔道具だって?」


 マジかと言いたそうな目をしたグロリアが問いかけた。


「細かいところまでは分からないけど、そう」


 ダリアの返事を受けたグロリアがこちらに向き直った。


「ユート、アンタこれが魔物の襲ってきた理由だと言ったよね」


「そうだよ。周囲の魔力を集めて目印にするだけの代物だけど」


「目印ぃ──────────っ!?」


 グロリアは目をむいて怒っている。

 この調子だと犯人は八つ裂きにされてもおかしくないな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ