表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/130

90 お代と終わらない解体

 グロリアが呆れを表情に乗せつつ盛大に溜め息をついた。


「とりあえず礼は言わなきゃならないね。ありがとよ」


「気にする必要はないさ」


「常識外れのことをしておいて、どの口が言うんだい」


「普通に修理しただけだが」


「あれが普通なものか。あそこまで壊れりゃ車輪と車軸の交換をするもんだよ」


「魔法を使わないんなら、そうだろうな」


「そこがおかしいんだよ」


 グロリアが苦々しい顔をしながら言ったが俺には何がおかしいのか見当もつかない。

 思わず首を捻ってしまう。


「だぁからっ、あの魔法が常識外れなんだよっ」


 吠えられてしまった。

 おまけに隊商の関係者一同がグロリアの言う通りとばかりに頷いている。


「そんなこと言われてもなぁ」


「アンタ、何処の大魔導師様だい」


「別にそんな大層な肩書きは持ってないけどな」


 グロリアには言葉もなくジト目で見られたものの俺には肩をすくめることしかできない。

 FFOでだって大魔導師になったことはないからね。

 それを見たグロリアは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。


「で、いくらなんだい?」


 その問いを受けて、ようやくグロリアが吠えたり不機嫌になったりした原因が分かった。

 要するに魔法で凄いことをしたから高くつくと思ってしまったのだろう。

 俺自身は大したことをしたつもりはないのだけど。


「金を取るつもりでしたことじゃないんでね」

 そう言うと、グロリアの眉がつり上がった。

 代価の支払いを断られて商人としてのプライドが傷ついたといったところか。

 たぶん怒るだろうなとは思っていたので先手を打つ。


「修理しなきゃ通行止めはしばらく続いただろ?」


「むっ」


 再び吠えようとしていたグロリアが短く唸った。


「前に進んでくれれば充分なんだよ」


 相変わらず渋面を浮かべたままのグロリアであったが、身にまとっていた怒気は霧散していく。


「ああっ、もうっ」


 そして最後にひと吠えすると苦り切った表情も、ほぼ素に戻っていた。


「せめて借りということにしておいてくれんかね」


 ただ、素直に引き下がってもらえる訳ではないようだ。


「ただほど高いものはない、かな?」


 俺の問いかけにグロリアは目を丸くする。

 どうやら、こちらの世界にはそういう言い回しはないようだ。


「面白いことを言うもんだね」


 フッと笑みを浮かべるグロリア。


「そうじゃないよ。これはアタシの商売人としてのプライドの問題さ」


 施しは受けないってことか。

 あまり断ってばかりいるのもグロリアの印象を悪くするだけだろう。


「そういうことなら、それで構わない」


「付け払いになるが利息の方はこちらで加減させてもらうよ」


 グロリアは不敵に笑った。


「好きにしてくれ」


 ようやく出発できそうだと思ったのだが、別の問題が待ち受けていた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 隊商の護衛たちが途方に暮れていた。

 ボルトパイソンの解体が遅々として進まないせいだ。


「日が暮れちまうよ」


「仕方ないだろ。並みのナイフじゃ刃が立たないんだからさ」


 大体の血抜きはリーファンがトドメを刺した時の傷口を利用して済んでいたんだけどな。


「どうする、デビッド?」


 護衛のリーダーであるデビッドに問いかけたのは、その補佐をするロジャーだった。


「困ったなぁ。俺の剣も刃こぼれが酷いから使えないし」


 デビッドはまともな返事ができずに嘆息する。


「それは俺も同じだ。どうすりゃいいんだよ」


 ロジャーも伝染したかのように溜め息をつき途方に暮れて愚痴を漏らす。


「解体できないなら捨てていくしかないだろう」


「勿体ねー」


 デビッドが出した結論にロジャーは諦めきれない様子を見せる。


「そもそもトドメを刺したのは俺たちじゃないんだぞ」


「わかってるよ」


 それはロジャーも言葉通り重々承知しているのだろう。

 ばつの悪そうな表情を見せた。


「おまけに俺たちの攻撃じゃ満足なダメージを与えていたようには見えなかったしな」


「それを承知で勿体ないと言うのはどうなんだ?」


「うっ」


 ロジャーは悔しそうにしながらも短く呻くことしかできない。

 そこへグロリアが割り込んできた。


「なんだい、アンタたち。まだ終わってなかったのかい」


「あ、グロリアさん」


 デビッドが応じる。


「すみません。アレは俺たちの手に余るので放棄します」


「なに言ってんだい。トドメを刺したのはエルフのお嬢ちゃんじゃないか」


 権利はリーファンにあると言いたいのだろう。

 どうやらトドメを刺した者に獲物をどうするかの決定権があるというのが、このあたりでの考え方のようだ。

 普通は配分が少し有利になる程度で山分けだと思うんだけど。

 それにリーファンは横入りした格好だしなぁ。


 所変われば品変わるとも言うし常識も変わってしまうのかもな。

 それが地域的なものなのか異世界アルスアール全体で通用するものかは不明だが。

 こういうのも龍の知識では分からないことだ。


 まあ、郷に入れば郷に従うのが一番だろう。

 とりあえず黙って成り行きを見守ることにする。


「そうなんですが不要だと言われまして」


 変に主張しなくて助かった。

 何時の間にと思ったが、グロリアと話をする前しか考えられないよな。


「そうなのかい?」


 振り返って聞いてくるグロリア。


「リーファンがいらないって言ったんなら、そうだと思うけど?」


 当人に視線を向けて確認してみる。


「これを解体しても持て余すと思ったので」


 おずおずとした様子でリーファンが答えた。

 大勢の部外者の前で空間魔法を使う訳にいかないからと遠慮したんだろうけど。

 それで譲られた側が持て余して捨てることになるとは予想できなかったか。


「解体はこちらで何とかしよう」


 素材にしてから売るのもありだよな。

 FFOやSMOで培った技術を披露したいところだが今回はエルフ組に任せよう。

 そんな訳でリーアンにアイコンタクトを送ると無言の頷きで応じてくれた。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ