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87 商談?

「まずは礼を言わせてもらうよ」


 そう言ったのは長身痩躯の老婆であった。

 ただ、顔に刻み込まれたシワと白髪がなければ齢を重ねているなどとは思わなかっただろう。

 背筋は少しも曲がっておらず覇気もなかなか。

 服装は華美ではなく地味ではあるものの上品に着こなしており、若ければ男装の麗人として名を馳せたかもしれない。


「ありがとう」


「礼なら俺じゃなく魔物を仕留めた彼女に言ってくれるかな」


 言いながら俺はリーファンの方へ視線を向けた。


「いえっ、私はユートさんの指示に従っただけです」


 焦った様子で両手を胸の前で振るリーファンだ。


「魔法を使ったのはアンタだろうに」


 婆さんが苦笑した。


「ちゃんと見ていたよ。ありがとう」


「いえ、その本当に言われたことをやっただけですから」


 礼を言われたリーファンは赤面して縮こまる。


「若いのに謙遜するんだねえ」


 婆さんは感心しているがリーファンの性格なんだからしょうがない。

 あと実年齢は婆さんより上なんだよね。

 デリケートなことなので沈黙を守るのが正解なんだけど、背後ではケイトがレイを羽交い締めにしながら口を塞いでいる。

 ナイス判断だ。

 2人の様子を見てしばし呆気にとられたように目を丸くさせた老婆だったが。


「そういや自己紹介がまだだったね」


 すぐに切り替えてきた。


「あたしゃグロリア・ホーンド。ホーンド商会の商会長さね」


「ユート・ギモリー、ただの旅人だ」


 妙な間があった上にジト目で見られたんですがね。

 彼らが倒しあぐねた魔物を一撃で仕留めてみせたのだから無理からぬことなのかもね。

 ただ、グロリアの婆さんに詮索するつもりはないらしく何も言ってこない。

 商人の割にはガツガツしたところがないのは好印象だ。


「俺はデビッドでこっちのオッサン顔がロジャー」


「オッサン顔は余計だ」


「で、こっちのダークエルフが──」


「ダリア」


 デビッドが紹介する前に自分で名乗るダークエルフさん。

 馬車から俺たちの様子をうかがっていた弓士なんだけど名乗ったと思ったら早々に引っ込んだ。

 威嚇はされなかったけど近寄りがたい雰囲気があるな。


「俺たちは3人で風の導きという冒険者バーティを組んでいる」


 不思議なというか読めない組み合わせだ。


「他の護衛は冒険者ギルドで募集をかけた面子だよ」


 と護衛たちをモブ扱いするグロリアの婆さん。

 風の導きはホーンド商会が指名して雇っているということでもあるな。

 護衛たちの中では別格なことだけは間違いない。

 ただ、モブ護衛たちも先の戦い振りを見る限りデビッドたちと連携が取れていた。

 冒険者としての実力は低くはないだろう。

 さっきは相手が悪かっただけだ。


 自己紹介がサラッと終わったところでグロリアが俺の前に進み出てくる。


「アンタたち、食料を買う気はあるかい?」


「唐突だな」


「デビッドから聞いてるんだろう? 馬車が壊れたってさ」


「ああ、そういう……」


 要するに壊れた馬車を放棄するにしても積み荷まで放棄したくない。

 だから、この場で売りさばこうという腹づもりな訳だ。


「馬車1台分の食料か」


「買い取ってくれるなら仕入れ原価で売るよ」


「おいおい、そういうことは言わずに交渉するのが商人ってもんだろう」


「相手によるさ」


 フンと鼻を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべるグロリア。


「気に入らない奴には口八丁でふっかけてやるよ」


 裏を返せば俺たちは気に入られたということだ。


「そいつはどうも」


「で、どうするんだい?」


「すまないが、持ち合わせがない」


 現金は路銀として不自然ではない程度しか持ってきていない。

 さすがに馬車まるごとの食料を買い取るのは無理だろう。


「なんてこったい」


 片手で目を覆って上を向くグロリア婆さん。


「凄い魔道具を持っているから期待したんだがねえ」


 装甲車のことだな。

 金持ちと見られても仕方がないか。


「なあ、グロリアさんよ」


「なんだい?」


「もし良かったら壊れた馬車を見せてもらえないか」


「構わないけど直せるようなもんじゃないよ」


 俺が何をしたいのか察したように先回りした返事をしてくる。


「車軸どころか車輪まで酷い状態だからねえ」


「構わないよ。確認したいこともあるし」


「確認したいことだって?」


 怪訝な表情を見せたグロリアだったが、それでも破損した馬車まで先導してくれた。


「これだよ」


 そこにあったのは木製の車輪が半壊した箱馬車であった。

 車軸も折れているが、これは車輪が破損した時の弾みでそうなったものと思われる。


「うわあ、酷いもんだニャ~」


 真っ先にレイがそんな感想を漏らすが少しは気を遣えと言いたい。

 言ってしまったものをキャンセルはできないんだから。


「だろう? だから言ったんだ」


 グロリアがレイの発言に目くじらを立てる様子がなかったのが不幸中の幸いだ。


「違うニャ」


 だがしかし、レイはグロリアの言葉を否定する。


「はあ?」


 グロリアは困惑の表情を浮かべるしかできなかったが。


「これは意図的に壊されてるニャよ、犯罪ニャ」


 レイのこの言葉でみるみる般若のごとき形相に変わっていった。


「それは本当なんだろうねえ」


 唸るようなグロリアの問いかけだ。

 ウソだったら、ただじゃおかないと言わんばかりである。


「こんなことでウソついてどうするニャ」


 グロリアの殺気など意にも介さず答えるレイ。


「ここをよく見るニャ」


 言いながらレイは車輪の破損箇所であるスポーク部分を指差した。


読んでくれてありがとう。

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