86 リーアンは決められない
隊商の護衛たちの邪魔になるからと魔物と戦うことに対し二の足を踏むリーアン。
「下手に連係しようとするからダメなんだよ」
「無茶を言うな」
「そうか? 向こうだって俺たちの方へデカブツを回そうとしてるじゃないか」
ちょっと意地悪く言ってみた。
護衛たちと揉めた訳じゃないので向こうに悪感情はないんだけどね。
お互い様くらいには思っている訳で、それはリーアンも理解していると思うのだが。
「あの魔物が相手ではやむを得ないだろう」
それは向こうが俺たちを格上だと思っているならという前提条件あってこその話だ。
でなきゃ無責任な押しつけにしかならないもんな。
参謀のオッサンはそのあたりを気にして罪悪感を感じているような感じだったし。
一方でリーダーは最初から戦力分析できているように見受けられた。
俺たちに押しつけ弱らせてから仕留めるつもりだったなんてことも無いとは言えないが。
話した時の印象からは、そういう下種な発想をするタイプではないように思う。
元上司には見習えと言いたくなるくらいだ。
言っても、あの男が殊勝な態度になるはずもないがね。
「連係しなくても向こうに被害が出なきゃいいんだよ」
俺がそう言ってもリーアンは余計に表情を渋くさせただけだった。
「どうやって被害を出さずに攻撃すると言うんだ」
接近戦は乱戦に巻き込まれに行くようなものだからな。
今のリーアンたちなら大丈夫だとは思うものの万が一ということもある。
「魔法に決まっているさ」
「それは射線が通ればの話だろう」
表情を渋くさせたままリーアンが反論してきた。
だが、それは魔法を真っ直ぐにしか飛ばせないと考えている発言だ。
ゲームで鍛えられた者にとっては勿体ないというか残念に感じてしまう。
「通っているだろう?」
それでは困るのだという願いを込めて問いかける。
「は?」
だが、リーアンには伝わらなかったようだ。
訳が分からないといった顔をしている。
ノーヒントではコロンブスの卵状態になってしまうか。
俺は斜め上を指差してから真下に指先を向けてそのまま落とした。
「あっ」
さすがに気付いたか。
「弓で曲射するのは避けた方がいいのは分かるよな」
「魔法よりもタイムラグがある」
「その通り」
標的である魔物が動いて護衛の面々に当たりかねない。
「それにボルトパイソンの鱗に弾かれるだろうしな」
「その点、魔法なら時間差なしで縦方向に攻撃を入れられる」
問題はどの魔法を選択するかだ。
「落雷……はダメか」
ボルトパイソンが雷をまとって攻撃するため雷に対する耐性があると考えたようだ。
似たような攻撃をする地球のデンキウナギはそうでもないのだが。
デンキウナギは脂肪分の多い体をしていて感電のダメージを受けにくいだけ。
感電しない訳ではない。
実は瞬間的にしか放電しないデンキウナギだが自身が耐えきれずに痛手を負う恐れがあるので放電しないと言うべきだろう。
もしも放電時間が長ければデンキウナギも死んでしまうはず。
有り体に言ってしまえば、やせ我慢して自爆技を使っているだけなのである。
「別に攻撃魔法なら何でもいいだろ」
周辺に被害を及ぼさないように配慮すればいいだけのことだ。
「尖らせた氷塊か岩を落とすとかウォータージェットを叩きつけるとか」
いずれにしても後始末が面倒ではあるか。
他にも地魔法のピットで地面を深く掘り下げてボルトパイソンを落として身動きできないようにするのも手ではある。
仕留める手間は増えるが、攻撃手段は上から限定なんてことはないのだ。
「むうっ」
リーアンが唸る。
どれにするか迷うというよりは何か躊躇っているような雰囲気だ。
上手くやらないと、どれも護衛たちに被害が出そうだと考えているのだろう。
「リーファン」
俺が呼びかけてくるとは思っていなかったらしくリーファンが少し目を丸くする。
「はい?」
「影の刃で下から串刺しにできるかい?」
この問いかけにリーファンは一瞬で真剣な表情へと転じていた。
「やります」
可能かどうかの返事をすっ飛ばして実行すると言い切ったのは予想外だ。
俺としては煮え切らないリーアンに聞くよりマシだろうとリーファンに聞いただけのつもりだったのだが。
それでも当人がやる気になっているなら否やはない。
「じゃあ、頼むよ」
「はい」
返事をしたリーファンは、すぐに魔力を練り上げ始めた。
ほんの数秒で準備が完了する。
「シャドウエッジ!」
リーファンは詠唱を省略して注文通りの闇属性の魔法を放った。
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