84 敵襲にどう対処する?
迎え撃つべき敵が姿を現した。
いまだ森の中ではあるとはいえ密林と言うほどの森ではないので、それなりに離れた場所でも全容を確認することは難しくはない。
「ヘビ……か?」
「デカいニャ~」
確かにレイの言う通りなんだが。
「形が変」
スィーの感想が的確と言わざるを得ないし俺が迷ったのもそのせいだ。
頭部が異様に大きく胴体は人間を丸呑みしても体型が変化しないであろうほどに太い。
そのくせ全長は10メートルあまりでニシキヘビより少し長い程度。
体をくねらせて移動するのはともかく巻き付くのは難しそうだ。
一見すると単純なパワーファイターのようだが、コイツの攻撃方法は外見通りの力業だけではない。
「ヤバいぞ!」
それを知っているのだろう。
オッサンが血相を変えて叫んでいた。
「どうしたんだ、ロジャー? お前らしくもない」
リーダーがオッサンをたしなめたが、それも無理からぬところだ。
トップが動揺すると全体の士気が低下するからな。
しかしながらオッサンはリーダーの言葉など耳に届いていないかのように表情を強張らせていた。
「シャレにならん相手なんだよ、デビッド」
それでもどうにか声を絞り出して警告を発しようとしている。
「何だって?」
「ありゃあボルトパイソンだ」
直訳すれば稲妻ニシキヘビ。
さすがに稲妻のブレスを放ったりはしないが雷属性の攻撃手段を持っている。
敵が触れた瞬間に体表面で放電し相手を感電させるのだ。
その威力は一般人なら一撃で感電死しかねない。
荒事に慣れている冒険者たちでも直撃すれば少なからぬダメージを負うだろう。
かすっただけでも痛いだけでは済まないと思うが、巨体を生かした力強い突進と組み合わせて攻撃してくるから厄介極まりない。
「あれが!?」
リーダーが驚いているところを見るとレアな魔物なんだろう。
俺は融合した龍の知識で知っていたけどリーアンたちも見聞きした覚えがないようだし。
「仕方ない」
歯噛みしながらリーダーは声を絞り出した。
「盾は下がれ。回避重視でいくぞ」
魔物の攻撃方法は知識として知っているようだ。
遭遇するのはまれではあるが危険性は広く認知されているみたいだな。
でなければ荷物を守ることを放棄するような指示を出すはずがない。
馬車や積み荷に損害が出れば報酬に響くばかりか契約内容によっては違約金などのペナルティが発生するだろう。
そう考えるとリーダーのように即決で人命優先に切り替えるのは難しい。
この隊商はそこまで重いペナルティを科していないのかもしれないが。
それでも損をするかもしれないという状況は人の判断を鈍らせるものである。
リーダーになるだけのことはあるってことだな。
「前衛は奴を最後尾の馬車の後方へ流す感じで牽制を」
つまり俺たちの方へ持っていけと言っている。
「すまないが頼めるか!」
俺たちの方へ向けてリーダーが大声で呼びかけてきた。
普通なら押しつけられたことを憤慨すべきなんだろうが。
「俺たちの手には余りそうなんだっ。頼む!」
頭を下げている。
遭遇後からの短いやり取りの中で俺たちが格上だと見極めたか。
「了解した。こちらに回してくれれば対処する」
実はありがたいとさえ思っているのは内緒だ。
エルフ組には相応の経験値も入ってくる上に肉や皮をゲットできるのは大きい。
自動でドロップするダンジョン内じゃないから解体しなきゃならないが、それはそれで実地訓練になる。
向こうもかかわる以上、総取りできないのは仕方のないところか。
「介入する必要がなくなった分、やりやすくなったんじゃないか」
俺はリーアンに声を掛けた。
「他人事だと思って」
愚痴っぽく応じながらリーアンがこれ以上ないというくらいのジト目で睨んでくる。
「体当たりする瞬間とかに放電することだけ気をつければいい」
「結構な大きさなんだが?」
「突進力も侮れないかな」
「気をつけることが増えてるじゃないか」
「大丈夫、大丈夫、今のリーアンたちなら死にゃしないって」
そこまで言うと今度は諦観のこもった溜め息を漏らされてしまった。
事実を言ったまでなんだがなぁ。
ストラトスフィアでの実習で教官だったり仮想敵だったりと何度も付き合っているんだし。
「簡単に言ってくれる」
そりゃあ今のリーアンたちには、そこまで警戒するような相手じゃないからな。
必要以上に警戒していると動きが硬くなって勝機を逃すこともあり得るが。
まあ、口で言って伝わるものでもないか。
「まずは、やってみろ」
案ずるより産むが易しだ。
「そうは言うが、リーファンの風魔法じゃ突進を止められない」
せいぜいが減速させられるかどうか。
完全に止めるには他の方法を考えるしかない。
にもかかわらず風魔法にこだわっているのは微妙なところである。
色んな魔法が使えるように鍛えてきたはずなんだが。
「装甲車を使えよ」
俺はハンドサインで装甲車に乗り込んでいるメイドロイドに向きを変えるように指示を出した。
だというのにリーアンは──
「あ……」
と呆気にとられたようになって声を漏らす。
装甲車でボルトパイソンの突進を止めるという発想がなかったみたいだな。
道理で必要以上に警戒していた訳だ。
今のリーアンには、あれの突進を止めることはできても感電を防ぐのは難しいだろうし。
「それと植生属性と地属性の魔法な」
森の木を変形させて障害物にしたり地面を凹ませて空堀としたりすれば大幅に減速させられる。
その上で装甲車に受け止めさせればいい。
合図を出した後はタイヤが変形してクローラーになっているので吹っ飛ばされることもないだろう。
あとはリーアンたちがボルトパイソンをどう料理するか、だ。
読んでくれてありがとう。




