82 予想外なことをしてくれる
バカ正直なリーダーがいると仲間は苦労するだろうな。
相手をするこちらの調子が狂うくらいだからね。
何を意図してのことかは推し量りかねるが罠であるなら確かめる術もないではない。
「もし良ければだが、修理している馬車を見せてもらえないか」
「なっ!?」
「ふむ」
俺の提案に真っ先に反応したのはリーダーの相棒だった。
理由の説明のなしにこんな要求をされれば驚くのも無理はない。
想定外だったろうし、こちらの常識を疑いもしただろう。
にもかかわらずリーダーはアゴに手を当てて考えるそぶりを見せた。
「理由を聞いても?」
すぐにそう聞いてきたけどな。
「場合によっては修理が早く終わる」
「大きく出たな」
「そうでもない、場合によってはと言ったはずだ」
「自信はあるのだろう?」
「なければ、こんな要求はしない」
俺たちの会話に割り込めず相棒のオッサンがハラハラしながら忙しなく視線を動かしている。
リーダーに行ったり俺に来たり。
で、そのリーダーはしばし考え込む。
話しかけても考える邪魔にしかならないだろうから黙って待つことにした。
「………………………………………」
リーアンも俺の方をチラリと見た後は何も言わずに待ってくれている。
やがてリーダーが強い意思の感じられる目で俺を見た。
「少し待ってもらえるかな」
再び口を開いたリーダーの第一声は今更のような言葉であった。
「あまり長いなら勝手に先に行かせてもらうことになるが」
「そこまでは待たせないさ。雇い主と相談してくる」
そう言ったかと思うと──
「ロジャー、少しの間ここは任せる」
「えっ!? おいっ、デビッド!」
相棒のオッサンを残したまま隊商の先頭の方へ小走りで行ってしまった。
「普通は交渉をほったらかしにして自分で行ったりはしないよなぁ」
思わず苦笑しながらリーアンに話しかけた。
「感知系スキルとか能力があるのかもな」
「それで得た情報を伝えるために、か?」
その問いかけはリーアンに対して行ったのだが向こうのオッサンの方が反応していた。
露骨なものではなかったが逆に隠そうという意図が見え見えだ。
何かしらのスキルか能力を有しているのは確実だろう。
リーダーを慌てさせるような情報はランクくらいなんだが、この世界においてレベルは一般的でもランクは知られていないはずだ。
仮に情報が提示されたとしても何のことやらと理解できないんじゃないかと思う。
何にせよ変に警戒されてトラブルに発展するのだけは御免被りたい。
目の前にオッサンがいるにもかかわらずベラベラ喋っていたので手遅れな気はするが。
これ以上の無駄話は避けるべきかと考えていたところで不意に剣呑な気配を感じた。
少し様子を見てみたが、こちらに向けて近づいてきている。
「リーアン」
呼びかけて目線で確認する。
「ああ、気付いている」
連日のように鍛えていただけあって俺が注意を促すまでもなかったようだ。
しかし、リーダーにこの場を任されたオッサンは動きがない。
まだ距離はあるが無視できるほど生温い相手ではないのは明白。
ただ、それを教えたところで信じるかどうかは別問題だ。
何かの罠と勘繰られる恐れだってある。
「どうする、ユート?」
リーアンも同じような懸念を抱いたのだろう。
ボソボソと小声で俺に方針を問うてきた。
「様子見だ」
「いいのか?」
「誰かが気付けば動くだろうし」
「気付かなかったら?」
「被害が出ないギリギリまで粘るさ」
「結局は助けるんだな」
リーアンが苦笑する。
「嫌なことをされた訳じゃないしなぁ」
相手が敵対的であるなら、どんなに危機的な状況になろうと見捨てるさ。
そこまでお人好しじゃないつもりだ。
中立であるなら友好的になることだってあり得るから普通に助けるけど。
友好的な関係を構築することで得られる信用や信頼は財産になり得るからね。
それで裏切られたなら切り捨てる。
これはゲームの理論で言うところの囚人のジレンマに代表されるような考え方だ。
敵対する相手には攻撃を加え、そうでないなら友好的に振る舞う。
シンプルな考え方ではあるものの中長期の生存戦略としては最適解だと思う。
短期においてはその限りではないだろうけど目先のことにばかり囚われていると手痛いしっぺ返しを食らうことになるのは世の常だ。
「今のところはな」
なんてリーアンは言っているが基本的には俺と同じ方針であるのは顔を見れば分かる。
発言が懐疑的なのは向こうの出方が読み切れないからだろう。
リーダーの相棒であるオッサンは俺たちのひそひそ話を見て警戒心丸出しの視線を向けているしな。
もう少し周りに気を配ろうぜ。
こんな調子で大丈夫かな。
読んでくれてありがとう。




