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81 コンタクトしてみよう

 迂回できない以上は前に進むしかない訳で、隊商とコンタクトすることにした。


 軽く打ち合わせした結果、まず俺とリーアンが外に出て装甲車の上に乗る。

 これは装甲車が魔物と誤解される恐れがあると判断したからだ。

 馬車しか知らない者たちからすれば馬も御者もいない乗り物など考えられないだろうし。


 ただ、CWOにおける装甲車はEVなので派手なエンジン音がないだけマシだと言える。

 アルスアールの世界じゃ魔道具に置き換えられているので魔力で駆動するのだけど。

 それでも隊商側を慌てさせないよう徐行に近い速度まで落とした。

 俺たちが上に乗っているから落下防止のためでもある。


 案の定、最後尾の護衛に視認されると向こうサイドが慌てふためき始めた。

 右往左往しつつも1人が護衛のリーダーに報告に走る。

 程なくして護衛の面子の何人かが隊商の最後尾に集められた。

 弓を持つ者が多いのは距離のある間に先手を取ろうという発想か。


「念のために風魔法で防御できる準備をしておけよ、リーアン」


「分かった」


「護衛の練度はピンキリのようだな」


「ああ」


 リーアンも俺の意見に同意する。


「強そうなのは多くないな」


 そこまで見切れるようになったか。

 リーアンの言う通り強いのはリーダーとおぼしき男に加えて何人かしかいない。

 それでも統率は取れているので連携させると厄介かもね。

 数は力だ。


「侮っていい訳じゃないんだぞ」


「わかっているさ。弓の方は読みやすいから助かるってだけのことだよ」


「そうでもないぞ」


「え?」


「弓使いにも1人腕の良さそうなのがいるからな」


 あれは明らかに別格なんだが。


「そうなのか?」


 リーアンは気付いていなかったようだ。

 明らかに他の弓使いより後方にいるからだろう。


「奥の方にいる」


 箱形の荷馬車の御者台から上半身をのぞかせる日焼けしたお姉さんが弓を水平に構えていた。

 前衛陣の強そうな面々と違って凄みが感じられないのが不気味だ。

 殺気でピリピリした相手と違って気付いたら矢を当てられていたなんてこともあり得る。


「……確かに」


 リーアンもどうにか見つけたようだ。


「だが、あれだとこちらが近づいた時に死角ができるぞ」


「そこは連係でどうにかするんだろうな」


「いや、そうは言っても死角にいる相手に当てるなど無理があるだろう」


「普通の腕前ならな」


「曲射と言いたいんだろうが無理があるぞ」


「まったく見えない相手には当てられないってか」


「そうだ。当てずっぽうでは味方への誤射もあり得る」


「だから連係するんだろ」


「どういうことだ?」


「決められたフォーメーションで動けば位置は絞り込めるしサインを出せば補完できる」


「そこまでするのか」


 リーアンが唖然としている。


「敵の不意を突ければ味方の損害を減らせるからな」


「なんと……」


 リーアンが考え込んでしまった。

 そろそろ相手の間合いに入りそうだから勘弁してほしいんですがね。


「ちなみに普通の腕前だったとしても当てるのは不可能じゃない」


 引き戻すために話題を振るとリーアンが驚きの表情で俺の方を向いた。


「難しいことをするんじゃないさ」


「狙う相手が死角にいるなら、そこから引っ張り出してしまえばいい」


 大勢でプレッシャーを掛けつつ狙った場所に追い込めば不可能ではない。

 手間はかかるが向こうは頭数が多いしな。


「だから連係か」


「敵対すればの話だよ」


「用心はしておかないと」


「大丈夫だ」


「どうして言い切れる」


「この状況で疲れるのは自分の首を絞めるようなものだろ?」


 ただでさえ足止めされているのにトラブルを追加したいなど誰が思うだろうか。


「それに俺たちはケンカを売りに来た訳じゃない」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 事前に決めていた彼我の距離を取った状態で装甲車が停車した。

 リーアンと2人で装甲車の上から滑り降りる。

 隊商の護衛たちは無言でそれを見守っていた。

 装甲車を止めずに前進させていたら向こうはもっと殺気立っていたと思う。

 馬なしで動く車など初見だろうし、未知のものを警戒するのは護衛として当然であろう。


 そんな訳で俺たちは2人だけで相手の方へ歩み寄る。

 向こうもリーダーともう1人が前に進み出た。


「すまないが、前の方の馬車を修理中だ。かなり待たせることになると思う」


 先に口を開いたのは向こうのリーダーだ。

 一緒に来た相棒がギョッとした表情でリーダーの方へ振り向いたところを見ると予定にない行動か。

 駆け引きなしに直球を投げ込んでくるとはね。

 リーダーは三十路前後の見た目である程度の経験を積んだ冒険者に見えるから腹の探り合いになるかと思っていたんだが。

 相棒のオッサンもそうなると想定していたからこそ取り繕うこともできなかったんだろうし。


「随分とぶっちゃけるんだな」


 俺もリーアンも顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

 自分たちの不利益につながりそうな情報を初対面の相手に漏らすなど普通は考えられないからね。


「こんなことでウソをついても、すぐにバレる」


「そこは伏せて誤魔化すとか色々やりようはあるだろう」


 俺の言った言葉にリーダーの相棒が頷いている。

 アンタはどっちの味方だよとは言えないな。

 俺のツッコミの方がそう言われかねない。


「そんなことをしても険悪になる一方で双方が損をするだけだ」


「ごもっとも」


 なんか調子の狂う相手だなぁ。


読んでくれてありがとう。

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