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78 勉強しようぜ

「知識を求めることが最も大変そうだな」


 そう言ってリーアンは嘆息した。

 何も分からぬまま手探りで調べ物をして検証することを考えただろうからな。

 独学で何とかしようと考えすぎである。


「心配しなくても教えるさ」


「いいのか?」


「頼りっぱなしの状態から早く抜け出したいんだろう?」


「それはそうだが」


「だったら教わることを躊躇うべきではないな」


 知らないことは教えられないが。

 例えば物品の相場とか。

 それもドローンを使って調査中なので近いうちに何とかできるだろう。


「すまない。助かる」


「いいんだよ」


 皆に気兼ねされると俺たちも居心地が悪くなるからな。

 そのあたりは口には出さなかったのだが……


「早く結果を出さないとな」


 などとリーアンが呟いている。


「仕上がるまでの空白期間を短くしないと」


 己の考えに没入しすぎてボリュームが絞りきれていない。


「あのなぁ、リーアン」


 呆れまじりの呼びかけに我に返ったリーアンは、ばつが悪い表情を見せた。


「勉強に終わりなんてないんだぞ。自分が思っている以上に世界が広いようにな」


「なっ」


「ある意味、一生ものだ」


「くっ」


「必要最低限の教養を身につけるにしたって年単位で時間がかかるものだし」


 日本の義務教育は9年だもんな。


「無茶苦茶だ」


 唖然としながらリーアンがそう呟いた。


「機織り職人だって昨日今日で技術を身につけた訳じゃないだろう?」


 俺の問いかけに、ぐうの音も出ないようだ。

 同時に焦りも感じているせいか渋い顔で歯噛みしている。


「完璧に知識を身につけるまで何もしてはいけないなんて決まりはないんだぞ?」


 今度は呆気にとられた様子で口を開いている。

 睨めっこでもしているのかと言いたくなるくらい、コロコロと表情が変わるな。

 勉強の途中で得られた知識を生かすという発想がなかった証拠だ。


「読み書きができれば自分で交渉ができるようになる」


 上手くいくかどうかは、また別の話となるが。


「計算ができれば利益を予測できるようになる」


 相場や原価などを正確に把握する必要があるけれど。


「あるいは必要な材料の量を知ることができる」


 集められるかどうかは別問題だ。

 ネガティブな情報は伏せているがリーアンだってある程度は気付いているはず。


「我々に商売をしろと?」


「強制をするつもりはないが俺とは対等に交渉がしたいんだろう?」


「ああ」


「それって商売しているのと同じだよな」


「確かに……」


「知識や技術を身につけて得をすることはあっても損はしないんだぞ」


「そうだろうか」


「技術で言えば機織りもそういうことじゃないのか。俺たちとの交渉の材料になったよな」


 当たり前すぎて思い浮かばなかったようだが。


「そう、か。……そうだな」


 その後の話は細々したことを質問されたり説明したり。

 住居の案内と説明は後回しになってしまったけれど誰も文句は言わなかった。

 みんな勉強することに対して意欲があったようだ。

 ワクワク顔になっている者も少なからずいたくらいだしな。

 道理で静かに待っていた訳だよ。


 そんな訳で最初は読み書き計算から学校教育が行われることになった。

 後日、授業が始められた時にはこの日の関心の高さが証明される集中を見せてくれたと言っておこう。


 それなりに工夫はしたけどね。

 例えば文字を書くための紙とペンを作るところから始めたり。

 こういう職人の需要もあると考えたからだ。


 義務教育を参考にはしたんだけど、一線を画していると言えるんじゃなかろうか。

 桁数の多い計算をするために算盤を作るところから始めるなんてことはなかったことだけは確かだ。

 算盤の産地とかならそういう授業もあったかもしれないけれど。


 とにかく興味を持ってもらえる工夫はあれこれしてみた。

 機織りも基礎課程に組み込んだし。

 もちろん道具作りからね。

 職人と未経験者では差が出て当然だったけど、そこは皆で教え合う格好になった。


 そんな訳で、まだまだ本格的な布地を用意するには至っていない。

 糸の品質や技術にばらつきがあったせいだ。

 が、それで元からの職人たちの意欲は落ちることはなかった。

 自分たちで使う分には問題ないからと笑う余裕があったくらいだ。


 そして技術の継承や開発に情熱を燃やしていた。

 ストラトスフィアのライブラリにある映像で日本の機織り風景や仕上がった布地を見せたことが刺激になったようだ。


「いつかは、しじら織りを!」


「いやいや、目標とするならニシジンだろう」


 なんて会話が聞かれたくらいだ。

 今までやっていなかった染め付けにまで手を出すつもりらしい。

 授業ではしばらく教える予定はないというのにね。


 それでも意欲があるのはいいことだと思う。

 この調子なら想定より早く次の段階へ進めるんじゃないかな。


読んでくれてありがとう。

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