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77 宇宙の居候

 結局、創天神様……イスカ爺ちゃんの魔法でリケーネの民たちの精神状態も安定した。

 どうなることかと気をもんで損した気分だ。

 責任者は出てこいと言いたいけど、目の前にいるから意味がない。

 もやっとしたけど問題なく食事ができたので良しとしよう。


 食後にエルフたちが食器洗いと片付けを申し出てくれたけど必要ないので断った。

 オートメーション化されているところを見せて納得させなきゃならなかったけどね。


「食器を勝手に洗う道具があるとは……」


「魔法と道具が融合しているのを目の当たりにするとは夢にも思わなかったぞ」


 リーアンとグーガーが唖然としている。


「まったくだ。こういう発想はまるでなかった」


「俺たちだとこういう道具を作る暇があるなら自分でやればいいと思ってしまうからな」


 2人の会話が途切れたところで間に入っていく。


「水を節約するために食洗機を使っているんだよ」


「どういうことだ?」


「宇宙だと水場がないだろ」


「おおっ、そういうことか」


「なるほどなぁ」


「後は魔法に頼るか地上から運んでくるかだ」


「ならば水の補給は我々に任せてもらえないだろうか」


 リーアンが提案してくる。

 自由に地上へと行けないリーアンたちならば魔法を使う他ないがは苦にならないだろう。

 リケーネの民たちが協力し合えば一度に大量の水を確保することも難しくはないはず。


「魔法を使うのか。そいつは名案だな」


 グーガーが提案に賛同し、期待のこもった目で俺の方を見てきた。

 とにかく役に立ちたいという意気込みのようなものを感じる。

 片付けを断られた直後だから前のめりになっているのかもな。


 こちらも魔法を使える訳だし水の確保に困っている訳ではないが無下に断るのもな。

 何か役に立つことをしないと居づらいというのはあるだろう。

 少しでも心理的な負担が減るなら、それもありか。

 依頼していた織物だけじゃ肩身が狭く感じるかもしれないし。


 ならば他の面子の居心地を悪くさせないためにも何か仕事を振ってみようか。

 よそへ移住していたのであれば、そこまで気にしなくても良かったのだが……


「ここで生活した方がええぞ」


 イスカ爺ちゃんがそんなことを言い出したのだ。


「よそでは文化や習慣が違う見ず知らずの相手と関わることになるからのう」


 環境が異なるのはストラトスフィアでも同じことなんだけど。


「生きていくのが精一杯の状態でとなれば負担が大きかろう」


 そこだけは、うちの方が有利か。

 ということでリケーネの民を一時避難させたつもりが移住になってしまった。

 カルチャーギャップはうちの方が大きいと思うのだけど。

 気心の知れない相手が隣人よりも信頼関係のある相手と一緒に暮らす方がいいのか。


 人間関係はこじれると厄介だからな。

 元上司のように端からどうしようもないケースだって存在するし。

 それが骨身にしみている俺としてはイスカ爺ちゃんの提案を否定できるはずもない。


 世の中、何がどうなるかわからんね。

 最初は宇宙でぼっち生活を送りながら気が向いた時に地上に降りるものだと思っていた。

 3人娘がいると分かって少しは賑やかになるかなと安堵した部分もあったんだ。

 日本人だった頃も引きこもっちゃいたがゲーム内ではフレンドもいて真性のぼっちじゃなかったし。

 オフ会には誘われても出席できなかったから際どいところはあるけどね。

 そう考えると数百人規模の居候ができて賑やかになったのは俺としてもありがたい。


 そうなると保護しているに等しい今の状態は好ましくない。

 効率云々は無視してでもリーアンたちの提案は受けるべきだろう。


「本当にそれでいいのか?」


 確認の意味も込めて聞いてみた。


「「もちろんだ」」


「水の魔法が不得手な者だっているだろう」


 肩身の狭い思いをする者が1人でもいなくなればと思っただけなんだが……


「む、それもそうだな」


「どうすれば……」


 2人の受け止め方は想像以上に重い。


「そこまで深刻に考える必要はないだろう」


「そうは言うが、我々にとっては重要な問題だ」


「焦らなくてもいいんだ。まずはここの生活に慣れることから始めてくれ」


「「ううむ」」


 リーアンとグーガーは納得しかねるとばかりに唸ったきり表情を渋らせて黙り込んだ。


「職人には機織りをしてもらう以外にもできることを考えてくれればいい」


「そう言われてもな」


「我々にできるようなことがあるだろうか」


 リーアンもグーガーも不安そうに呟く。

 自信が喪失気味だと思考も狭まってしまうみたいだな。


「以前は里に行商人が来ていたんだろう?」


「ああ」


「場合によっては俺たちがその行商人の代わりをしてもいいと思っている」


「我々の作ったものを売りに行ってくれると?」


「ああ、そうだ」


 グーガーの問いに大きく頷いて答えた。


「日常の道具はすべて自作していただろう。あれは売り物になる」


 どれも精緻な作りをしているものばかりだ。

 地上ではちょっとお高めの品って感じで売れるはず。

 さすがに高級品とまでは言えないがね。


「本当に我々の作ったものが売れるのか?」


「にわかには信じられん」


 2人とも懐疑的な見解をしているようだ。

 行商人にはこき下ろされていたようだし無理もないか。


「自信が持てないのなら品質を上げる努力をすればいいじゃないか」


「努力と言われてもな。具体的に何をすればいいのやら」


 今度はネガティブな発言をしながらもリーアンが興味を示した。


「知識を身につけたり技術を向上させたり道具を改良したり、やれることは色々あるさ」


 どれも一朝一夕ではどうにもならないが、やれば結果は出るはずだ。


「知識だって? どういうことだ」


 グーガーが疑問を呈してきた。


「職人は本当に何でも知っているのか?」


 俺は逆に質問で切り返す。


「なに?」


「いつも使っている材料が本当にベストだと断言できるか?」


「ありものでどうにかしてきたから何とも言えないが……」


 歯切れは悪いが、そこまで変わるものなのかと言いたいらしい。


「材料だけじゃない。未知の製法があるかもしれない」


「それは……」


 反論は出てこない。


「完成後の価値は? 販売した時の相場は? そういうのは地域によっても変わるぞ」


「なっ」


 畳みかけると、グーガーは短く声を漏らし絶句してしまった。


「つまり俺たちは無知だから自信が持てないのだな」


 リーアンが自嘲する台詞を口にした。

 ただ、その面持ちは真剣そのものでショックを受けているという風ではない。

 どうやら何か思うところがあるようだ。


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