76 やっぱりこうなった
星界神様の存在感が絞られたことでリケーネの民たちにも余裕が出てきた。
リーアンなどは周囲を見渡して他の者の様子を確認している。
真面目か。
当然、妹の異常にも気付かぬ訳はない。
今度は揚陸艇の時のように隅っこで目立たぬようにしていた訳じゃないしな。
「リーファン?」
怪訝な表情で己の妹に呼びかけるリーアン。
「……え?」
リーファンはワンテンポ遅れて返事とは言えないような反応をした。
「おや、いかんのう」
創天神様がやや困り顔になったかと思うと苦笑する。
「そちらのお嬢さんは随分と精霊に好かれておるようじゃ」
それの何がいけないのかとは言わない。
どういうことになっているかはリーファンの様子を見てすぐに見当がついていたからな。
「あの様子だとバレてますよねえ」
「うむ、精霊がワシらのことを教えておるじゃろうな」
その会話を耳にしたリーアンが振り向いた。
どうしてリーファンが怯えているのかが気にならないはずはない。
「あの、どういうことでしょうか?」
まともに受け答えできない妹より話のできそうな相手にターゲットを変えたか。
しかしながら、その様子を見ていたリーファンが血相を変える。
「兄さんっ、ダメッ!」
鋭い制止の声に驚き勢いよく振り返るリーアン。
「リーファン!?」
しかしながら、リーアンが振り向いても目線を合わせることはできなかった。
リーファンはその場で土下座してしまっていたからだ。
見事なまでのジャンピング土下座。
この宇宙空間において人工重力を発生させているストラトスフィアの中でなければできない芸当である。
「な、何を?」
困惑し戸惑うリーアンが声を掛けてもリーファンは答えない。
ただただ必死な様子で土下座を続けるのみである。
「お嬢さん、顔を上げてくれんかね」
「そんなことされても私たち困っちゃうわ」
創天神様の言葉通り顔だけ上げるリーファン。
先程よりも血色が失われていて顔面蒼白どころの話ではない。
唇が小刻みに震えていて満足に喋ることができないようで、あうあうと声が漏れ出るばかりだ。
それを見たリケーネの民たちは驚愕の表情で凍り付いている。
「んー、やっぱり連れてきたのは失敗だったかなぁ」
地上とは生活環境がまるで異なる閉鎖空間で生活するのはストレス高めだろうなと思っていたのだけど。
それ以上のプレッシャーが神様だったというオチは笑えない。
「そんなことはないじゃろう。ワシは良い判断だったと思っておる」
「そうよ、中途半端な場所に連れて行ってたら不幸になるのがオチだったわ」
「だとしても、どうするんですか?」
リーファンのガクブル振りを見ると神様たちの正体を明かすのも躊躇われる。
「慣れてもらうしかないじゃろうな」
大丈夫なんだろうか。
俺の不安が顔に出てしまっていたらしい。
「あら、メリットがないわけじゃないのよ」
なんて星界神様が言っている。
「メリットですか?」
「大抵のことには動じなくなるわ」
「………………」
それは慣れることができればの話である。
この状況じゃ心苦しくはあるものの慣れてもらう他ないのだが。
「皆の衆、聞いてくれるかの」
創天神様がリケーネの民たちに声を掛けると、一斉に注目が集まった。
穏やかに語りかけるだけでも有無を言わせぬ強制力が働いているように見える。
さすがは一番偉い神様と言うべきか。
「ワシは創天神イスカリオン」
とうとう創天神様が神であることを明かした。
「ソウテンシン……様ですか?」
リーアンが恐る恐るといった様子で口を開く。
まだ神様という認識にはギリギリで至っていないらしい。
それでも今までのやり取りで星界神様より格上の存在であることは直感的に察しているようだ。
「左様。最上位の神と言った方が分かりやすいかのう」
「「「「「─────────────────────────っ!!」」」」」
リケーネの民たちの声にならない叫びが発せられ即座に土下座モードに移行していた。
衝撃と混乱の激しさたるや、どないしたらええねん状態だ。
「どうするんです?」
神様たちに問いかける。
俺にどうにかできるような状況とも思えないのでね。
「ワシのことはイスカとでも呼んでくれればええ」
さして気にした風もなく自己紹介の続きをしている。
でもって俺の方を見て──
「ユートくんもな」
そう言いながらイタズラ小僧を思わせるウィンクされた。
若い女の子相手なら「お爺ちゃん、カワイイ」とか言われるかもね。
「はあ、イスカ様ですか」
と確認を取ってみたのだが、人差し指を振りながらチチチと舌を鳴らしてダメだしされてしまった。
「イスカ爺ちゃんじゃ」
様を付けるのはダメってことか。
「俺は孫じゃないですけど」
「そういう設定でレッツ・ロールプレイじゃよ」
設定でロールプレイしろって無茶振りもいいところじゃないか。
この調子だと星界神様が姉という形に収まりそうである。
創天神様の設定は受け入れたとしても星界神様の方はなぁ。
下手にロールプレイしようものなら面倒を押しつけられそうなんだが。
アフターサービスを受けるはずが振り回される日常が目に浮かぶようだ。
「このステラリーも星界神と言って上位神なんじゃよ」
「ステラお姉ちゃんって呼んでね」
かわいらしくポージングしながらそんなことを言ってくる。
うん、予想通りの展開だ。
俺には拒否権がないらしい。
と思っていたら、エルフたちが呆気にとられたように俺たちのを見ていた。
「恐れを取り除く魔法を使いましたね」
今の今まで気付かなかったが、そうとしか考えられない状況だ。
創天神様にしてはお茶目な感じのやり取りだったと思ったんだよなぁ。
あれで気を引いて魔法を感知させないためだったのだろう。
「ホッホッホ」
創天神様がわざとらしく笑ったことで間違いないと確信を抱かせた。
まんまと一杯食わされましたよ?
読んでくれてありがとう。
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