75 軽いのに軽くない
「あら、人に誰かなんて聞くなら自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら?」
誰何したリーアンに対する星界神様の返答は常識を問うものであった。
とはいえ厳しい口調ではないし表情も穏やかなままだ。
「っ!」
それでもリーアンは短く呻いて怯んだ様子を見せた。
別に星界神様が怒った訳じゃないと思うんだけどな。
こういう時にありがちな目が笑っていないなんてこともないし威圧感も感じない。
「あるぇ?」
周りを見てみると星界神様たちの方を見ているエルフたちの様子がおかしい。
たじろいだり、ガチガチに固まったり、小刻みに震えていたり。
顔面蒼白になっている者すらいる始末だ。
「私はリケーネの民リーアンだ、です」
リーアンは素直に自己紹介はしたものの気圧されて余裕を失ったままだったせいか語尾がグダグダになっていた。
「あら、素直なのね。感心感心」
星界神様はうんうんと楽しげに頷いている。
「私はステラリー。ステラと呼んでちょうだいね」
「っ」
リーアンはまともに声が出せないらしく、どうにかといった感じで頷いた。
星界神様が何かしたようには見えないのだが。
俺たちが来る前も今も完全にくつろいでいるだけだし。
神様たちは呆れるくらい食堂が好きというか入り浸りっぱなしだ。
出掛ける前に好きな部屋を使っていいと言ったんだけど食堂がそうだとか言わねいよね?
もはや主である。
まあ、アバターだから問題なく居続けられるんだろうけど。
逆に指定席なんてないので占拠されても困るんですが。
俺へのアフターサービスということになっているので強くも言えないし。
「ん? 強い……」
もしかして神様の存在感の強さにリーアンたちは圧倒されたのか?
声をかける前は気配を消していたけど今は普通にしている。
この普通が曲者じゃなかろうか。
ランク差が大きいと普通じゃなくなってしまうのだとすると……
リーアンたちにとって神様という超越者の存在感は圧倒されるものなのだろう。
俺や3人娘はリーアンたちほどの差ではないからか目上の人って感じなんだけど。
「ステラよ、中途半端はいかんのう」
それまで空気と化していた創天神様が横入りしてきた。
「そうですかぁ?」
「少しはエルフたちの負担の大きさを考えよ」
「えー、こんなにフレンドリーなのにぃ」
星界神様が唇を尖らせて抗議する。
こういうところは軽すぎて本当に神様なのかと疑いたくなるレベルなんだけど存在感は圧倒的だ。
「お主のはフレンドリーではなくフリーダムなんじゃ」
創天神様も上手いことを言うなぁ。
ここに座布団があるなら進呈したいくらいだ。
「ガーン!」
小芝居っぽく驚きながら自分で言わないよ、普通。
煙に巻いてリーアンたちの心理的な負担を減らそうとしているんだろうけど効果的とは言い難い。
「コントじみたことをするより正体を明かした方がいいと思いますけどね」
「む、やはりそうかの」
「そうかしら?」
創天神様はすぐに同意してくれたが、星界神様は否定的な見解を持っている様子だ。
「圧倒的な存在感がダダ漏れですから」
「そうじゃろうなぁ」
「え~、うそぉ!?」
認めた創天神様は上手く抑え込んでいるようで、そこまで強く放出はしていない。
一方で星界神様はダダ漏れにもかかわらず抑え込んでいるつもりらしい。
「修行が足りぬわ」
何処からか出してきた杖でボコッと星界神様の頭を叩く創天神様。
神様の世界は体罰が容認されているんだよな。
死んだり怪我をしたりすることがないからだろう。
「痛ぁーい!」
一応、痛みは感じるみたいだけど。
「お主は大雑把すぎるのじゃ」
「そうですかぁ? これでも絞り込んでるつもりなんですけどぉ」
「ワシらには微々たる差でも人種には桁違いに感じるのじゃ」
「え~?」
星界神様は疑わしげなジト目をしている。
どうやら自分が大雑把な性格をしているとは露程も思ってはいないようだ。
「そんなだから俺がとばっちりを受けたんだと思うんですがね」
「うっ」
さすがに厳然たる事実でもってツッコミを入れると凍り付いてしまったけれど。
「誠に申し訳ございませんでしたっ」
半ばやけくそ気味に頭を下げる星界神様を今度は創天神様がジト目で見ている。
「気配を抑えてくれる方がリーアンたちにはありがたいと思いますよ」
「うぐっ」
ツッコミ後の指摘が効果的だったのだろう。
仏頂面になりながらも、ようやく星界神様が気配を調整してくれた。
それでも創天神様ほど繊細には調整できないみたいだけど。
「まだまだじゃのう」
創天神様は頭を振ってダメ出しするが、それなりに効果はあったようだ。
ほとんどのエルフが緊張が解けた様子を見せている。
ただ、リーファンだけは青ざめた顔をして凍えるかのように小刻みに体を震わせていた。
揚陸艇に乗っていた時を思い出させる有様なんだけど何だろう?
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