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72 風の精霊の問題

「リーファン」


 俺は歩み寄りつつリーファンに呼びかけたものの返事がないどころか無反応。

 何があったのやら。


「リーファン」


 今度は正面まで近寄ってから呼びかけてみる。


「ひゃっ!?」


 この驚きようからすると結構な重傷だ。


「えっと、ユートさん何かご用でしょうか?」


「ああ、そのつもりだから声を掛けたんだ」


 そう言いながら風魔法を使って周囲に声が漏れないようにした。

 デリケートな話になるならと思って配慮しただけのつもりだったのだけど……


「っ!」


 リーファンはビクリと身を震わせた。


「おっと、すまない。魔法を使うと一声掛けるべきだったな」


「いえ……」


 問題ないとリーファンは頭を振ったが、その割には歯切れが悪い口ぶりだった。

 何かありますと言っているようなものである。

 風魔法に反応したということは、それが関連することか。


 そう言えばリーファンは風の精霊と仲が良かったんだっけ。

 どんなものかと両眼に魔力を流し込んで確認してみる。


 ああ、リーファンの周囲を飛び交っているね。

 ほとんど透明で女性的なエルフっぽい容姿をしているのが何体か。

 あまりゴチャゴチャした感じに見えないのは精霊たちが小さいからだろう。

 掌に収まるサイズとは言わないがフィギュアくらいはある。

 俺の視線に気がつくと、こちらにも一部の精霊たちが飛んで来た。

 当然、リーファンが気付かない訳はなく。


「あ……」


 と短く声を漏らして何やら気まずそうにしていた。

 一方で、精霊は俺の周囲を飛び回ったかと思うと目の前で止まって何やら懇願する様子を見せている。

 何かを訴えたいようにも見えるのだけど……

 見ることはできてもコミュニケーションが取れる訳ではないのが不便なところだ。


「もしかして精霊に何か問題があるのかな?」


 こういう時は意思疎通ができる相手に聞くのが一番だ。

 リーファンはしばし逡巡したものの結局は答えることにしたようだ。


「一緒には行けないと言われてしまったのです」


「ふむ、そういうことか」


 今までずっと一緒にいた相手に離れていくと聞かされれば不安にもなるか。


「理由は聞かされているかな?」


「新天地に問題があるようなのですが……」


 リーファンの言葉が尻すぼみになる。

 精霊の伝えたいことが完全には理解できていないとかだろうか。


「何故なのかがわからなかった?」


「はい」


 俺は目の前の精霊に目を向ける。

 必然的にリーファンからは視線が外れるのだけど今はそれでいい。


「あまり高度を上げると存在が希薄になるとか?」


 思い当たるのはこれくらいなんだけどいかがかな、精霊さん。


「え?」


 リーファンが困惑の声を上げた。


「あー、精霊に聞いてみたつもりなんだが」


 何の断りもなく急にそんなことをすればリーファンが混乱するのも無理はない。


「リーファン、精霊にも話しかければ言葉は通じるんだよな?」


 今度は確実に話が伝わるようリーファンと目線を合わせて話しかける。


「えっ!? ……ええ」


 戸惑いつつも、きちんと返事をしてくれた。

 と思ったら精霊たちが一斉にコクコク頷いている。


「ならば精霊たちに聞こう」


 予告をすれば間違うこともないだろう。


「さっきの質問の答えはどうなのかな?」


 精霊たちが再び頷いた。

 上空に行けば酸素が薄くなるからってことだと思う。

 空気の無い場所では風も吹きようがないからな。


 ただ、当人たちが本能的に感じている認識と気圧がどうのという科学的な知識とで話が通じるかどうか。

 十中八九、噛み合わない気がする。


「人が呼吸できないほど高いところだと、かなり存在が薄まるんだよな」


 コクコクが返ってくる。

 リーファンに一緒に行けないと告げたのは、そういうことなんだろう。


 問題は風の精霊たちがどうやってそれを知り得たのかということだ。

 俺は宇宙空間に出るとか真空状態の場所に行くなんて一言も言ってない。

 龍の知識からも外れていたようでサッパリだ。

 本人に聞こうにもコミュニケーションが円滑にできない相手だからなぁ。

 これは保留にしてリーファンのフォローに専念した方がいいか。


「この中は何処まで上昇しても人が呼吸できない状態にはならないぞ」


 俺の言葉に風の精霊たちはビシッと直立した。

 表情が曖昧なのでハッキリとはしないが、どうやら驚いているようだ。


「呼吸ができる場所なら一緒にいられるよな」


 コクコクが返ってきた。

 全身を使っているあたり、かなり嬉しいのだと思われる。


「リーファン、そういう訳だから問題は解決したぞ」


「へ? え? あの……」


 絵に描いたようなポカーンとした顔のまま呆気にとられているリーファン。


「風の精霊が離れていくことはないから安心するといい」


「は、はい」


 何がどうしてこうなったのかと目を丸くさせながらもリーファンは返事をした。

 そこで風魔法を解除してレイたちの方を見ると──


「レイは図太くないニャー!」


 未だにスィーに突っかかっている。


「………………」


 スィーは完全スルー状態だけど。


「何処かの駄犬と違って慎重で繊細に狩りをするニャよ」


 思わず顔をしかめたくなる不用意な一言だ。

 せっかく静かになっていたケイトを舌戦に再び巻き込むのは確実というもの。


「誰が駄犬よっ」


 ほらね。


「誰もケイトが駄犬だなんて言ってないニャ。自覚があるから反応するニャ」


「くっぅのぉっ!」


 ケイトが一気に沸点を超えた。

 その顔は般若がごとしと言っても過言ではない。


「あっ、あのっ」


 不意に背後から声を掛けられる。

 振り返ると俺とケイトたちを交互に見ながらリーファンがハラハラしていた。


「何?」


「ケンカですよね。止めた方がいいんじゃ……」


「あんなのは茶飯事だしガス抜きみたいなものだから放っておけばいいんだよ」


「え!?」


 本当にいいのかと目を見張るリーファン。


「それに俺が止めるより適任者がそばにいるからな」


 スィーに任せておけば大丈夫だ。


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