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71 想定外?

 離陸してからずっとモニターから目が離せない者が大半だ。

 ただし、大人と子供では反応が正反対だったが。


「里がもう見えなくなっちゃったよぉ」


「うわぁ……、北壁山が見えるぅ」


「とっても高いところまで来ちゃったんだね」


「森ってあんなに広かったんだぁ」


「すごいすごい! まだ上ってるよー」


 子供たちはモニターの映像を見て大はしゃぎだ。

 大人たちは対照的に青ざめた顔で固まってしまっている。

 昔は誰もが子供だったはずなんだけど。


 何にせよ俺たちは何もすることがない。

 操縦はもちろん雑用もメイド部隊が全部やってくれるからな。

 俺たちができそうなことと言えばエルフたちのフォローくらいだろうけど……

 子供たちは下の景色に夢中で声を掛けても彼らの興奮の輪の中に取り込まれるのがオチだ。

 助けを求められているのならいざ知らず、苦手な相手に突っ込んでいく真似はしない。


 そして大人は大人で下手に声を掛けられない怖さがある。

 パニック状態に陥りヒステリーに発展しようものなら連鎖しかねない緊張感が漂っているせいだ。

 こちらも君子危うきに近寄らずが正解だろう。


「暇だな」


 だから身内に話しかける。


「仕方ありませんよ」


 ケイトが苦笑した。


「変にパニックになるよりはずっとマシじゃないですか」


 どうやらケイトは俺と同じようなことを考えていたようだ。


「大袈裟だニャ~」


 お気楽に言って笑い飛ばすレイは何も考えていないよな。

 時にはその図太さがうらやましくなることもあるけど今の発言に関しては同意できない。


「何処が? 頭を使うべき」


 スィーがツッコミを入れたのも頷けるというものである。


「頭脳労働は性に合わないニャ~」


 ヘラヘラ笑いながら言われるとイラッとするものだが、そういうものだと諦めている。

 調子づかせるよりマシだからね。


 何度も注意しているのに水の入ったバケツをひっくり返すイタズラをやめなかったことがある。

 それが初めてのことであれば夢中になるあまり周りが見えていなかったと言えるのかもしれない。

 だが、学習しないのかイタズラという遊びに抗えないのか何度もやらかすんだよな。

 毎度のごとくパニックを起こしてずぶ濡れのまま庭を走り回って泥だらけになるオマケ付き。

 後始末の大変さよ……


 さすがに三毛猫でなくなった今は後先考えないイタズラはしなくなったけど。

 ちなみに今回の会話とは何ら関係ないように思えるかもしれないが、レイが調子に乗ると酷い目にあうという共通点がある。


「暇だって言うならスピードをもっと上げればいいニャ」


 良いことを思いついたと言いたげな顔で提案してくるレイ。


「「「……………」」」


 俺たちは諦観のこもった目でレイを見ることしかできなかった。


「なっ、何なんだニャッ!? その残念なものを見るような目は」


「ふーん、自分が残念だって分かるんだぁ」


 レイの発言に呆れを通り越したらしくケイトが挑発的になっている。


「ニャンだとぉう!?」


 そんなこととは露知らずレイは売り言葉に買い言葉状態な反応を見せた。


「人の話を聞いていなかったから、そういうことが言えるのよ」


 そこにスィーのツッコミが入った。


「うっ」


 嫌な予感を覚えたな。


「話ってどの話にゃ?」


 ただし思い当たる節はないらしい。

 これがアニメだったなら特大あるいは大量の汗が顔に張り付いていることだろう。


「徐々に高度を上げないと混乱を引き起こしかねないという話に決まっている」


 スィーの言い様はにべも無かったが、一応は聞かれたことに答えていた。


「え~、だからそれは大袈裟だニャー」


「それはアンタの勝手な思い込みなのよっ」


 ガーッと言葉で噛みつくケイト。


「誰も彼もアンタみたいに図太い神経しちゃいないの」


 ケイトはズビシッと指を突きつけて指摘した。


「図太いとは失礼ニャ」


「「「……………」」」


 先ほどと同じように沈黙する俺たちだが視線の趣が微妙に異なる。


「なっ、何ニャッその目は!?」


「別にぃ」


 空とぼけたような返事をするケイト。


「なんかムカつくニャ!」


 地団駄を踏みそうな勢いでレイが怒る。


「そんなだから図太いって言われるのよ」


「ニャンだとぉう!?」


「見なさいよ」


 憤慨するレイをスルーしてケイトは俺たちとは関係のない方向を指差した。


「何なんだニャ」


 不機嫌な面持ちはそのままにケイトの指先が示す方を見るレイ。

 そこには見覚えのあるエルフがいた。


「何ニャ、誰かと思ったら──」


 言葉を途中で止めてしまったレイは眉間にしわを寄せ首をかしげてしまった。


「どういうことニャ?」


「どういうことも見たまんまよ」


「顔色が悪いニャ」


「そうね」


「ちょっと震えてるけど武者震いには見えないニャ」


「あんたバカァ? あの顔色でそんな風に見えたら逆に怖いわよ」


「バカって言った方がバカなのニャ」


「うるさいわねっ」


 クールに切り返されたのが思った以上に応えたのかケイトが歯噛みしている。


「安全な場所に連れて行くって説明したはずなのにおかしいニャー」


 頭の上に疑問符を浮かべんばかりの疑問顔をするレイ。


「無神経」


 今度はスィーが指摘してきた。


「ニャンだとぉう!?」


 その台詞は本日3回目だ。

 なんだか漫才を見ている気分になりそうなんですがね?


 しかしながら、今はそちらよりも震えている彼女の方をフォローすべきだろう。

 唯一と言える経験者だから大丈夫かと思っていたからこそ、予想外の反応に俺も戸惑いを隠せないのだけど。


 そう。顔色を失い震えているのは誰あろうリーファンだったのである。

 目立たぬように隅っこにいるが、それでも他のエルフたちより怯えの色が濃い。

 さてさて、どうしたものか。


読んでくれてありがとう。

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