70 子供は興味を抱き大人は不安を抱く
デナイヒの柔らかな叱責によってリケーネの民たちは大型揚陸艇に乗り込んでいった。
誘導はケイトを筆頭にメイド部隊が実行しているので混乱もなくスムーズに……
「うわー、何これ?」
「どこもかしこもピカピカだよぉ」
「凄いねえ」
「あの四角いのは何かなぁ?」
「何だろうね-」
小さな子たちを除けばスムーズに進んだ。
「すみません! すみません! すみません!」
「本当に申し訳ないですっ!」
子供たちの親が2人ほど飛んで来て怒濤の勢いで頭を下げられた。
勝手に何かを弄って問題を起こした訳ではないというのに。
「あっ、ああ……」
こっちは呆気にとられるばかりで返事もまともにできない。
ちなみに残りの親たちは子供たちを捕獲する方へ向かったようだ。
鬼ごっこに興じているかのようにキャーキャー言いながらバラバラに逃げる子供たち。
しばらくは放置して全員が乗り込んだらメイドロイドたちに任せるとしよう。
「いや、子供ってあんなものだろう」
直に相手をするのは苦手ではあるけれど見ている分には微笑ましい。
あの子たちは興味のあるものを見て回っているだけだし不快になどなるはずもない。
むしろ親たちが必死になって謝る姿に気の毒になってくるくらいなんだが。
「ですがっ」
謝り班の親たちは申し訳なさが顔だけでなく全身からあふれ出たままだ。
どないしたらええねん?
「適当に触っても心配ないものしか置いてないから大丈夫」
とりあえず落ち着かせようと安全性をアピールしてみたのだが。
「それでもっ」
謝り班の申し訳なさは思った以上に罪悪感があるらしく、とどまるところを知らない。
子供の相手をするのも苦手だが、こういうのも苦手だ。
龍の素材と融合して強くなったり知識を得たりしても、こういうのは守備範囲外である。
俺の人生経験で対応しようにも生まれ変わる前の33年分ではたかがしれている。
そのうちラスト数年は引きこもっていたからカウントには入れない方がいいだろう。
ゲーム内でのコミュニケーションは取れていたけれど、年齢層が限定的だしな。
子供のいる親世代もいたが子連れでないなら付き合い方も一般人と変わらないし。
もちろん小さな子たちは年齢制限もあってVRMMOには参加できない。
ゲーム中に登場した子供はNPCだけだ。
NPCはAIによって制御され柔軟性のある応対が売りになっていたが本物と違って読みやすい行動しか取らない。
故にこういう事態は意図的に用意されたイベントでもない限り発生しないんだよな。
「先程も御迷惑をおかけしましたし」
恐縮する理由はそれか。
「気にしていない」
俺は頭を振った。
「さっきも今も悪さをした訳じゃないんだ」
「ですが勝手に走り回っています」
「目の届く範囲なら別に気にしないさ」
MA用の格納庫内は構造上の問題から死角が多いけれどセンサーや小型ロボットなどで対策済みだ。
ロボットの方は今となってはゴーレムと言うべきなのかもしれないが。
「ですが何処かに潜り込むかもしれません……」
親たちからすれば、いたずらっ子たちが隠れんぼでも始めればと気が気ではない様子。
「それも含めて目が届くようにしているから大丈夫」
俺にそう言われて呆気にとられる謝り班の親たち。
それでもエルフたちの乗り込みが完了するまで謝り続けていたけどね。
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大型モニターを使って先にこの揚陸艇がどういう代物かを説明し直しておく。
単なる親切心からではなくモニターがどういうものかを実感してもらうためだ。
皆の注目を集めているが見られているのはモニター越しの俺なので緊張はしない。
ある意味、これもリモートか。
「以上だ。何か質問や要望があれば近くのメイドに申し出てほしい」
しばらく待ってみたが誰もそういう動きを見せなかった。
大半の者が思い詰めたように表情を硬くさせていたので説明が頭に入っているかは怪しいところだ。
「それじゃあハッチを閉じるぞー」
そう告げてから閉じ始めたのだが格納庫内の空気が今まで以上に張り詰めたものになった。
大丈夫かな……
今までは少しでも不安がないようにと全員が乗り込んだ後も解放したままにしていたのだけど。
「ハッチを閉じたら出発だ」
何時までもこのままという訳にもいかないだろう。
「この後、モニターに映し出されるのは外の様子だ」
先に説明したことだけど、念のためにもう一度言っておく。
そのくらい緊張感があったからね。
耐えきれず誰か倒れるんじゃないかと思ったくらいだ。
幸いと言うべきかハッチが完全に閉じてもダウンする者はいなかった。
揚陸艇がふわりと離陸する。
旧式や廉価機種だと、こういう瞬間の制御が甘くてグニャリとした不快な縦揺れを生じさせてしまう瞬間だ。
もちろん、コイツにそんなものはない。
「「「「「おおっ!?」」」」」
モニターに地面が映し出されたせいかリケーネの民たちから大きなどよめきが起きた。
ぐんぐんと地上を離れる様子が映し出される様を見て動揺は広がっていく。
隣り合う者たちと抱き合う者さえ出てくる始末だ。
こんなのは序の口だというのに大丈夫なんだろうかと、こちらまで不安になってくる。
こういう時に頼りにされるのは経験者ということで決死隊の面々に視線が集中した。
彼らとて意識を手放している間の出来事だったので居心地が悪そうだ。
本当の意味での経験者であるリーファンなどは脂汗を流してそうな顔をしている。
事実が露呈して己にだけ視線が集まってしまうことを想像してしまったのかもしれない。
倒れられても困るのでバラすのは無しだ。
硬い表情で耐えている決死隊の一同には同情を禁じ得ないが辛抱してもらおう。
まあ、じきにそんなことが些細なことだと誰も彼もが思う瞬間が来るんだけどな。
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