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68 年を食っていると目も肥える

 母親たちに連れられて子供たちがエルフたちの輪の中に戻っていく。


「バイバーイ」


「またねー、お兄ちゃん」


「頑張ってねー」


 振り返りながら元気に手を振ってきた。

 さっきまで怯えていたのは何だったのかと思わせてくれる変わりようである。


「おー、またなー」


 力なく返事をしながら、やや引きつった笑顔で小さく手を振り返す。

 それだけでニパッと笑顔を浮かべる子供たち。

 その素直な反応に少しだけ癒やされた気分になった。

 こういうところがあるから嫌いになれないんだよ。


 ただ、それでも完全回復といかないのは苦手意識から来る疲労の深さ故だろう。

 体が龍の素材でできていたのだとしても苦手なものは易々と克服できないということが証明された訳だ。

 魔物がスプラッタな感じで死んでも拒絶感は起きないのにな。

 ゲームじゃ、こういうのはマイルドな表現になっているので拒絶感があっても不思議ではなかったんだが。

 龍にとっては心を乱すものではないようで何とも思わないのだ。


 だったら苦手なものも耐性がついてくれればいいのにと愚痴りたい。

 そう思っていたのだが俺に猶予が与えられることはないらしい。

 エルフたちの中からヒョコヒョコと向かってくる人影を見つけてしまったからだ。


「えー、今度は何だよぉ」


 子供たちの相手をした後で何かあるというのは脱力感がハンパない。

 厄介ごとか、はたまた想定外の問題が発生したのか。

 考えるだけで胃が痛くなりそうだ。


「里長のようですよ」


 ケイトが言った。


「……………」


 そういう意味じゃないんだけどな。

 誰だと聞いていない時点で察してほしかった。

 いや、察したところで意味はないか。

 デナイヒが引き返してくれる訳でなし。

 気付いたリーアンが慌てた様子で誰かに指示を出している。

 それに頷いたのはエルフにしてはマッチョ系な角刈りくんことグーガーだ。

 角刈りくんがササッと婆さんのそばに駆け寄って……


「連れ戻さないんかいっ」


 横に並ぶと連れだってこちらに向かってくる。


「止められないからグーガー氏が来るのではないですか」


「リーアンは単に護衛を付けただけだと思う」


 ケイトとスィーの言うことはごもっともなんですがね。

 俺としては何を言われるかと冷や冷やしてるんだよ。

 人の気も知らないでと思ったものの2人は他人事だから気楽に言っているのだろう。

 俺の命に関わるような危機が迫っている訳じゃないからな。


 向こうから来るのが暗殺者だというなら2人の反応もここまで緩くはないはずだ。

 まあ、俺なんて誰かに狙われるようなVIPじゃないけどさ。

 そうこうするうちにデナイヒが俺の目の前までやってきた。


「このような時に申し訳ありませんが」


 単刀直入に切り出すつもりのようだ。


「話があると?」


「はい、そろそろ頃合いかと思いましてね」


 にっこり笑ってそんなことを言われてしまったらドキッとするんですがね。

 俺の考えたパワーレベリングのための足止めを読まれたか?

 だとすれば伊達に年は食ってないってことなんだろうな。


「頃合いとはどういうことかな?」


 それでも考えていることを読まれぬよう平静を装いながら聞いてみた。

 ケイトとスィーにはジト目で見られているのだが、白々しいことは承知の上。

 気にしたら負けだ。


「ホッホッホ、お優しい人ですねえ」


 何故か笑われてしまった。

 その上、謎の評価である。

 何処をどう見れば俺が優しいとなるのだろう?


「いや、意味がわかんないんだけど」


「ご謙遜を」


 詳細を語らずニコニコした顔でそんな風に言われると些か怖いんですけど?


「我々にできるだけ食糧を確保させるため、この場に留まっていらっしゃるじゃないですか」


 OH!? バレテーラ!

 理由こそメインであるパワーレベリングに言及されてはいなかったが、とっくに脱出準備が整っていることを気取られている。

 一応、デナイヒが言ったことも留まっている理由のひとつではあるのだ。


「ですが、保存の都合も考えるとそろそろ限界なのです」


 廃棄することになれば勿体ないと考えたか。

 実にお年寄りらしい発想である。


「余った肉はこちらに回してくれれば保存の利く穀物なんかに交換するが?」


 一瞬、目を丸くさせたデナイヒは再び息を弾ませるように笑った。


「これは一本取られましたね」


 デナイヒはそんな風に言っているものの、俺としては相打ちに持ち込めたかどうかといったところだ。

 急所を打たれたのはこちらだけの気がしてならないが。


「ただ、それでも持ち運びできる量には限界があるでしょう」


「目録を作って預かっておくこともできる」


 俺の返事にデナイヒは先程より更に大きく目を見開いた。

 人生経験が豊富な里長であっても読み切れないことはあるようだ。


「更にもう一本ですね」


 今度はフフフと笑うデナイヒである。


「それでも、そろそろ終わりにしませんか」


 にこりと笑みを浮かべて提案された。

 それは提案のはずなのに強い要求のように思えたのは気のせいではないだろう。

 里長であるデナイヒが皆の限界が近いと見極めた上での言葉だと感じたからね。

 身内が限界だと思っているなら無理をさせるのは御法度だ。

 これ以上は俺のエゴを押し通すことになりかねない。


「わかった」


 転居先は未定のままではあったが、リケーネの民たちの安全が優先だ。

 やりようはあるしな。


 それに何より、婆ちゃんに言われちゃしょうがない。

 幼い頃は田舎で祖父母と暮らしていたこともある自分にとって爺ちゃん婆ちゃんの言うことは自然と聞いてしまうものなのだ。

 絶対かと問われると決してそうではないのだけれど。

 少なくとも言われるそばから反発するようなことはないし反抗心のようなものが湧いてくることもない。


 そんな訳で大型の揚陸艇の光学迷彩を解除してこちらに向かわせた。


「ケイト、リーアンに伝えてくれ」


「了解しました」


 細かな指示はしない。

 が、効率よく乗り込むにはどう並べばいいかなどの話もしてくれるだろう。

 レイだと「お迎えが来るニャ」の一言で終わるとは思うけど。

 そのレイも呼び戻す必要がある。


「スィー」


 俺が続きの言葉を発する前にスィーは頷いていた。


「狩りに夢中になっているバカを呼び戻してくる」


「頼む」


 無線連絡でも良さそうなものだが、レイの「あともうちょっと」が出ると厄介だ。

 迎えに行った方が確実だろう。


読んでくれてありがとう。

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