67 苦手だからと逃げる訳にもいかない
エルフの子供たちに囲まれてしまった。
どないしたらええねん!? な心境である。
子供って苦手なんだよな。
大人の常識が通用しないから何をするにしても想定の枠から外れることが多くて振り回されるし。
何でもない時でも目を離せば突拍子もないことを始めていたりして気疲れさせられる。
そのくせ、ちょっとしたことですぐ泣くのだ。
車道の近くで遊んでいたのを危ないからと注意しただけでギャン泣きされるとかシャレにならん。
接する時は腫れ物を触るがごとくとなってしまうのも仕方ないよね、ね?
「ねえってば」
どうやら子供たちは俺に用があるらしい。
どうせならケイトとかスィーの方へ行けばいいのにと思うが、そう都合良くはいかないのが現実というもの。
「何か用かな?」
「うん、聞きたいことがあるんだ」
返事をした子供が周りの子たちに向かって「ねー」と同意を求めた。
「そうだよー」
「聞きたいの-」
「知りたいの-」
「教えて教えて」
「すっごいもんね-」
一斉に口を開く子供たち。
日本人だった頃の俺だったら聞き分けることなどできなかっただろう。
それにしても、この危機的状況下で安全性よりも疑問が優先されるとは……
いや、子供なら状況の認識が甘くなるのは仕方ないか。
日本にいた頃だって、車が接近しているのに無理に道路を横断しようとするような子供がいたからな。
言うまでもなく誰が見ても車にひかれるタイミングでだ。。
幸いにも親がそばにいたから首根っこを掴んで止めたけどさ。
当人は車はまだ向こうにいるから渡れると思ったなんて言い訳をしていた。
エルフの子供たちも今ここに魔物がいないから安全だとでも思っているのだろう。
邪険にしてしまうと何をしでかすやら。
やはり子供は苦手だ。
嫌いとまでは言わないけどさ。
間違っても元上司のように毛嫌いしたりはしない。
「何を聞きたいんだ?」
「あの鉄の巨人はお兄さんが呼んだの?」
VMAを召喚したのかと問いたいらしい。
「そうだよ」
「どうして動かないの?」
VMAを戦わせないのかってことなんだろうな。
「あれは最初に出てきたようなデッカい魔物を倒すために呼んだんだ」
「えー、どうしてー?」
「他の魔物もやっつけちゃえばいいのに-」
「そうだよ」
「すっごく強いのに、どうして戦わないのぉ?」
何故VMAがすべての魔物と戦わないのかと疑問に思う理由が子供らしい。
圧倒的な強さがあるならVMAが無双すると信じてやまないんだろうな。
「危ないからだ」
俺の返事に子供たちはコテンと首をかしげてしまった。
「もしも、あれに踏まれたらどうだ?」
そういう発想がなかったであろう子供たちが目を丸くさせた。
「踏まれちゃうの?」
不安そうに聞いてくる子供にドキッとさせられる。
泣かれませんように。
俺は動揺を内心に押し込めつつ、どうにか表情を取り繕った。
「かもしれないって話だよ」
「どうして踏まれるかもしれないの?」
まだまだ不安そうな表情で聞いてくる。
VMAに踏まれればひとたまりもないことくらいは本能的に理解しているようだ。
「動かずに魔物をすべて倒せると思うかい?」
「わかんない」
1人が答えると他の子供たちもふるふると頭を振った。
「後ろから魔物が来たらどうする?」
問いかけながら理力魔法を使って足下で仕掛けをする。
首をかしげながら一生懸命に考えている子供たちは気付かない。
「振り向かないと相手を見ることはできないよ」
俺は片足を軸に半身を引いて横を向く。
実演してみせると何かに気付いたように目を見開く子供がいた。
察しのいい子だ。
そうではない子供たちもいるが、そのための仕掛けである。
パキッ
かかとを踏み下ろすと同時に乾いた音がした。
「おっと、何かを踏んづけてしまったな」
白々しい棒読み台詞の後にかかとを上げると、そこには割れた木の実があった。
大した仕掛けではないが効果はあった。
たったそれだけで子供たちがお通夜状態になってしまったからね。
VMAが万能な存在じゃないと気付いてくれて何よりだ。
テンションの急降下ぶりには罪悪感を感じてしまうほどなんですがね。
やはり子供は苦手だ。
その言動を読もうと思っても子育てしたことなどない俺には読み切れるものではないし。
いや、今はそれよりも子供たちのフォローが大事か。
この場に居続けるのは責任が持てないので戻ってほしいのだが、この状態のまま帰してしまうのも抵抗がある。
どうすればいいのかなんて皆目見当がつかない。
手詰まりを感じて途方に暮れていると……
「ああーっ、すみませんすみませんすみません!」
今になって気付いたらしい母親たちが慌てた様子で駆け寄ってきた。
最初に「すみません」を連呼してきた以外の母親たちもしきりにペコペコと頭を下げる。
「いや、俺の方こそすまない」
そう謝るのが精一杯。
偶然にも、これが功を奏したらしく母親たちのペコペコが止まってくれた。
代わりにどうして謝られているのかが分からなくて困惑してしまっているが。
「あれの近くにいるのが──」
言いながらVMAを親指で指し示す。
「危ないと諭してみたつもりなんだが御覧の有様でね」
指差されたVMAを見上げていた母親たちが視線を戻すと神妙な表情になっていた。
これは嫌われたなと諦めの境地に達していたら……
「いえ、これくらいでないとこの子たちには薬になりません」
なんて言われた上に礼まで言われてしまったさ。
何がなんだか訳がわからないよ。
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